時間は遡る。
――1日前。
『えー、この時間に臨時集会を開いたのは開いたのは他でもありません。我が校でぇ、いや違ったなぁ…我が町で起こっている謎の失踪事件のことです』
クーラーもない体育館で、校長の長い話が昼休みを削りながら延々と続いていた。
4時間目というバッドタイミングで緊急集会が開かれたのだ。
さっきから同じ話を3周くらい話しているのは気のせいじゃないと思う。
……はぁ、お腹がすいた。
時計を見上げるのも3回目。もう昼の時間なんてとっくに過ぎている。
……あぁ、お腹がすいた。
長い長い話を掻い摘んで説明するとこうだ。
近頃、あたしたちが住む白神町で失踪する人が増えている。
しかも夜までは確かに家にいたのに、朝忽然と姿を消しているケースがほとんどだ。
関係があるかはわからないが、謎の大怪我を負って病院に運ばれる人もいるそうだ。
ここまでが校長の話。
3文でまとまっちゃっう内容でよくもこう長々と話せると感心すら覚える。
ここにいる全員がそのことをニュースで知っているに違いない。
後は学校でささやかれている噂話。
なんとか助かった彼らだが、得てして記憶は曖昧――なぜ自分がそんな状態に陥ったのかすらわからないらしい。
あるのは絶望的な恐怖感の残り香、何かから逃げた安堵感だとか。
もう頭の中で今日のランチメニューを選んでいるころ、校長の長い前振りが終わりようやく緊急集会の本題に入ったようだった。
『1年D組の山本君に続き、1年C組の富竹君もいなくなってしまったと保護者の方から連絡がありました。もし心当たりがある人がいたら――』
一挙に体育館がガヤガヤとざわめき始めた。
その中であたし一人が――固まった。
あ……れ……?
「あの光景」がフラッシュバックする。まるで無音映画の再生。非現実が脳裏を静かに流れる。
1年C組っていったら洋介のクラスの……。
それって昨日見た……。
現実のようであり、全く現実感を離れた光景だ。
あまりに残虐な光景。
け、けどあれは……。
ちょっとしたこと……だと思う。
校長の長い長い話は、メインが2分という神速のラストスパートで終結した。
***
昼の学生食堂はいつだって混んでいる。夏場なのでこの混雑はさすがにキツイ。
特に今日は全校での集会の後のせいで一斉に生徒が押し寄せたのか、混雑度を急激に増していた。
正直、違う場所で食べたいんだけどなあ……。
けど寮組のあたしには朝からお弁当を作る気力なんてあるわけもなく、いつだってここで食事をするしかないわけだ。
長い行列では
『富竹ってあの写真部のだろ? また変なことに首つっこんだんじゃね?』
『あいつがいなくなったら校内美少女隠し撮り販売コーナーはどうなるってんだよっ! 週一の俺の楽しみがっ! シット!』
『安心したまえ。彼の意思は受け継がれ、第二、第三の富竹君が現れるだろう』
案の定、さっきの話題で持ちきりだ。
辟易しつつ、ようやくトンカツ定食を手に長い列を抜け出した。
「――美月、こっちだ。空いている」
辺りを見回していると、先に抜け出して席を確保していたクールメガネがあたしに向けて軽く手を上げていた。
「今日混みすぎ……洋介はまたラーメン? おいしょっと」
言いながら洋介の向かいに腰を下ろした。
ポニーテールを片手で払う。長くなったせいで背とイスの背に挟まるのだ。
「当たり前だ。なにせ暑いからな、今日も」
「理由になってない、それ」
――十六夜洋介(いざよい・ようすけ)。あたしの幼馴染。
本来なら名前負け間違いなしの「十六夜」の苗字だが、洋介の
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