4時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り、ようやく昼休みになった。
獏を連れてきているということで授業中は気が気じゃなかった。
最初こそあたしの中で『わらわつまんなーいっ』とか『しりとりしようよーっ』とうるさかった獏だが、相手にしていないうちに徐々に言葉数が減り、2時間目突入時には寝てしまったようだ。
のん気なものだ。
その間もあたしは、
(はぶらしとコップも必要と。服も買わないといけないし……。あ、寝間着)
と授業そっちのけで生活必需品のメモに頭フル回転だった。
もう一度メモを見て、これでよし、と確認する。
……。
なんかホントにママっぽくなった気分……。
ため息もほどほどに窓側の座席から立ち上がり、いつものように洋介や亜子がいる学食に脚を向けた。
学食集合はもう昼の暗黙の了解だ。
ただあたしは昨日の体験、今日の騒動と立て続けに色々あって、お腹がそれほど空いていない。
そういうときの購買よね。
生徒で押し合いをしている購買に突撃し、人並みを掻き分けながらなんとか手にすることができたチョココロネとサンドイッチをゲットした。
どちらも結構な人気商品だったりする。
学食に着くと、
「美月ちゃ〜んっ、こっちこっち」
亜子と洋介が既に席を確保して、食事を始めていた。
昼の学食は下手をすると座れないからありがたい。今だって生徒で溢れかえっている。
「おつかれー、亜子はまたプリン?」
言いながら亜子の隣に腰を下ろし、イスに挟まりそうになったポニーテールを払う。
「だって、おいしいもん」
いつものように幸せオーラを回りに振りまきながらプリンを美味しそうにパクついている。
その傍らには本日の日替わりのサバ味噌定食。
……。
そっちを食べる前にデザートからってどうなんだろ。
「洋介は……今日もラーメンと」
「今日も暑いからな。む、サンドイッチじゃないか。――こっちはおまえの分の麦茶だ」
「サンキュ。ちなみにツナゲットね」
「私も久し振りにツナマヨサンドイッチ食べたいな〜。プリンもおいしいけど」
「俺はラーメンのほうが好きだがな」
あたしの幼馴染ってどうしてこうも偏食ばっかりなの?
苦笑しながら洋介から受け取った麦茶を飲んだ時だ。
『わらわもお腹すいたーっ! お腹すいたのーっ!!』
頭の中で獏の大ブーイングが響いた。
「ブフハッ!?」
「だぁっ!? いきなり吹くなっ!! ビックリしてこぼしちゃったではないかっ!」
「わわ、何かいいことでもあったの? はい、ティッシュ」
「あ、いや……あはは……」
思わず吹いちゃったじゃないっ!
お、起きたのね……。
良くわからない存在でも、ちゃんとお昼にはお腹も減るんだ……。
『チョコの食べたい、ダメ?』
「……」
けどそんなこと言われたってねえ。
『チョコの食べたいーっ! チョコの食べるのーっ! もうね、出ていいかぇ?』
「うぐぐ…………」
「さっきからどうしたの?」
気付くと亜子がプリンをお盆において、不思議そうな顔であたしを覗き込んでいた。
「あ、いや別にっ」
「なんかね、困ってるーって顔してた」
にこやかな顔の中にキラリと光る何かが宿っている!
その顔からは「なにか私に隠してるでしょ?」がにじみ出ている!
前々から鋭いときは鋭いとは思ってたけど!
そんなことを考えている間も、
『わらわね、もうね、お腹ぺこぺこなの……ママ、出ちゃだめ……? わらわもご飯したいの……』
ぐぐ……。
姿は見えなくても、雨に濡れる子犬のような獏の姿が思い浮かぶ。
……っ。
ダメだ、あたしには放っておけない。
そんな声を出されると「どうにかし
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