5話『泣き虫レオパード・3』



「え……?」
あたしの口から漏れた第一声。

「え……?」
さっき、確かに、自分の布団に入ったはず。
遊び疲れて寝てしまった獏をベッドに寝かし、あたしもその横で寝たはずだ。
それなのに。

「ここって……」
制服を着て見知らぬ薄暗い空間に突っ立っていた。
ここってまさか……。
それを意識した瞬間――嫌な予感が嫌な現実へと変貌を遂げた。

「クッ……やはりか……ッ」
声がした方を見ると、そこには夏用制服姿の洋介。
苦虫を噛み潰した顔で突っ立っている。あたしも恐らく似たようなもんだろう。
「洋介も……って、ここって!?」
「想像通りだろうな……この雰囲気とプレッシャーならば間違いない」
吐き捨てるように言い放った。

「悪夢の中だ」

嫌な予感はしていたんだ。
けど、また悪夢に来るなんて……。

「なんでまたなのよっ! もう終わったって言ったじゃないっ」
「俺に聞くな。まずは落ちつけ、そこからだろ」
「けどっ!」
「落ち着かなければ、出られるものも出られん」
「どうしてそんなに落ち着いていられるのさっ!」
「フン」
余裕の表情を見せている洋介だが、目線を足元に移すと。
足が震度3くらいで揺れていた。
「秘技・直立両足貧乏ゆすりだ」
……。
ま、まあ、怖いのはどっちも一緒か。
けど…………。
洋介の言うとおりだ。
もう悪夢の中なら、この悪夢を解決するしか脱出する方法はない。
慌てれば、それだけ脱出の可能性が減るだけ。
「わ、わかった……落ち着いた。たぶん」

数回大きく深呼吸をした後、あたりを見回した。
電気が消えたロビーとでも呼べそうな、薄暗く広い玄関であろう空間の真ん中にあたしたちは立っていた。
いわゆる洋風の豪邸だ。
見渡すだけでドアが右側に3つ、左側に2つ、正面に両開きのドアが構えていた。
さらに左側には赤絨毯が似合いそうな西洋風の階段。上は吹き抜けで2階にも部屋がいくつも並んでいるのが見渡せる。
天井吹き抜けの中央は丸いガラスになっており、そこから月明かりだけが差し込んでくる。

「どこ、ここ……?」
「学校ではないことは確かだな」

さらに見渡していると、あたしから少し離れたところで床にへたりこんでいる影があった。
18歳ほどの角を持つ少女の影。ブツブツと何かをつぶやいているようだ。
ふうん、どうやら獏は夢の中では今までの姿なのね。
そうじゃなくて!!
「獏! ここ何っ!? これ、また悪夢じゃない!?」
「……ブツブツ……」
反応なし。
獏は床に座りままブツブツと何かを言っている。
「もう終わったって言ったじゃないっ」
獏まで近寄ると、獏がガバッと顔をあげた。

「げっ、現世のアレはやりたくてやってるわけではないからなっ!!」

第一声がそれだった。
「へ?」
「が……ぐ……っ! だからじゃっ! だからのっ、べ、別に向こうでのアレは妾がやりたいわけではなくてだな……っ! ち、違うのじゃっ!!」
うわ、この暗さでもわかるくらい顔真っ赤だ。
「む、向こうのアレって?」
「お、お主らにも幼少期ぐらいあったであろうがっ! それじゃっ、腑抜けがっ!! 誰とて子どもの時なれば、あんなもんじゃっ、ド阿呆がっ!!」
床に腰を下ろしたまま、顔をたこみたいに赤らめ腕だけで「わかったか!? わかれっ!!」と暴れている。
……あぁ。
どうやらあちら側での『子どもだった』記憶もあるようね。
よっぽど恥ずかしいに違いない。これは触れないであげたほうが――
メガネを輝かせた洋介が、ポツリと一言つぶやいた。
「――……ママ〜」
「ぬぅあああああああああああああぁぁぁぁ
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