照りつける太陽は、いつしか肌を撫でる程度になっていた。
そればかりか寒い。凍えるほどではないにしても、だ。
温かい飲み物が恋しい季節なのに、この墓地がある公園の自販機は、
田舎特有なのだろう。未だに500ml増量版のアクエリアスなんかが
置いてある。
この時期のこの時間帯にそんなジュースを買う奴の気が知れない。
理樹はそれでも無表情に、あくまでコインを入れて、選ぶ。
だけど、待機時間オーバーになり、コインが払い戻される。
「…」
腹立たしさはない。苛立ちもない。
鋭くもない、だけど色もない瞳は、その繰り返しを楽しんでいるようで。
気が付いたら、払い戻しは10回を超えていた。
バスが転落した、初夏の太陽はもういない。
そこで立ち止まっているのは、自分だけなのかと錯覚する。
違う。みんなの季節は、あまりに若すぎた彼らの夏は、永遠に、
その時間でストップしてしまったのだから。
だとしたら、生きている自分だけでも先に進む必要があった。
必要に駆られた動作。自己嫌悪しながら。
「…」
でも、本当は立ち止まっていたかった。もう放っておいて欲しかった。
みんなが死んだら、彼らに支えられた自分も死んだも同然。
理樹は心のどこかで、そう決め付けていた。
「…」
それでも周りは、それを許さない。
立ち止まるという選択肢が許されていないのだ。
彼らにとって事故はもう遥か昔の話のように、たまに空気を読まない
生徒が口にするくらいで、後は誰もそれを覚えていないように思える。
大事な親友や、もしかしたら妹や弟を亡くしたかもしれないのに。
割り切って生きること。生きている以上生死で別たれることは宿命。
それを受け入れて生きているのだろう。
彼女も、また。
「直枝」
「…」
同じように冷めた目の少女は、彼の動作にいらだっているように思えた。
「私もジュース買いたいんだけど」
「…」
答えは帰ってこない。
もう、感情などないのだから、当然だけど。
「どきなさいよ」
「…」
「直枝」
「…」
首を横に振ったり、縦に振ったりもない。
理樹の心が死んでしまっている、そう判断した彼女は。
「覇気がないのはいつものことだけど、迷惑かけないでよ」
「…」
酷な一言をあえて投げつける。だけど、答えは帰ってこない。
「直枝。もうリトルバスターズはないの。みんな死んだのよ」
「…」
それは分かっているよ。口ではなく、瞳が語りかける。
褐色の、光のない瞳が。
「そのリーダーがこのザマ。最初からその程度だったのよ」
あなたの想いは。
心にもない全否定。
ジュースを買おうと思って自販機に近寄ったらどいてもらえなかった。
そんな理由ではない。
---私だって、失ってるのよ---
「どいてくれないなら、もういいわ」
彼女の普段の姿には似つかわしくない、自転車。
「ここにいても風邪引くだけだもの。ごきげんよう」
トゲを含ませた言い方。自転車にまたがり、こぎ始める。
その直前、チラと理樹を見たが、彼の目は、最早誰も捉えていなかった。
「…」
---1人だけ被害者面、か---
ポケットの中の、お守り。
冷たい、金属。
それは、高熱で焼かれ、表面はすでに酸化を超えて融解している。
その表面に、小さく残ったほんのり白い、カルシウム質の破片。
彼女の、たった一人の大切な人が残した、唯一の遺骨。
大切な、大切だったはずの、妹が。
三枝葉留佳の遺体は、現場からは発見されなかった。
それは彼女だけではない。全滅した2-Eの全生徒に言えること。
上半身でも残っていれば幸運だった。
その殆どが部分遺体。
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