「ねぇお姉ちゃん」
委員会の仕事に忙殺されている午後。
なぜか委員会室にいる葉留佳が私に声をかける。
「無視デスカ!?」
「虫けらよ」
「ひどっ!」
あぁ、可愛い葉留佳…。
誰が可愛い妹を虫けら呼ばわりするものですか。
そんな鬼畜がいたら会ってみたいわ。
「えーと、お姉ちゃん、ツッコミ待ちですか?」
「ナニをドコに?」
「…お姉ちゃん、どこかのピンクでピーチでスプリングな方が混じってない?気のせい、ねぇ気のせいだって言ってよ!」
「…」
よくわからないわ。
「で、葉留佳。何の用?」
「はぐらかされた!?」
「ほらさっさと言いなさい。時間は有限なんだから」
「えーと、はるちんお邪魔ですか?」
だから誰が可愛い妹を邪魔者呼ばわりするのよ。
「お姉ちゃん…」
あぁ、葉留佳。
生えてるならぜひ好きなほうに…。何の話よ。
「オレンジペコーって、柑橘系の香りしないんだね」
「それはそうよ」
そんなくだらないことを気にしていたのかしら。葉留佳。
可愛いわ。だけどね。
そんなことより葉留佳の香りはどうなのかしら?
葉留佳のためとはいえいきなり柑橘類は好きになれないけれど、
葉留佳の体臭としての柑橘類ならいくらでも、えぇいくらでも!
「だからほら、早く私にその体を委ねなさい」
「お姉ちゃんがどんどんダメになっていく…」
姉を捕まえてダメとは。
それはさておき。
「オレンジペコーってのはね」
オレンジペコーは紅茶の葉の等級の一つだ。
フラワリーオレンジペコーの下、ブロークンオレンジペコーの上。
若い葉の中腹辺りを使った、若芽の渋みと自然な甘みが癖になる。
そもそもオレンジの香りがするのなら絶対飲まないし。
今なら飲んであげないこともないけど、ね。
「ふむふむ。さっすがお姉ちゃん、博学ですネ」
葉留佳より長生きしてるだけよ。数分くらい。
でもそんな葉留佳だって、たまに直枝とお茶をしているみたい。
葉留佳が淹れる紅茶、葉留佳が作るお菓子。
ん、もしかして…。
『ねぇ理樹くん』
『私のわかめ茶、飲んでくれる?』
『ちょっと熱いけど、ガマン、するから…っ』
『お菓子は、ほら、目の前に美味しそうなふくらみが、ふ・た・つ♪』
「葉留佳!今すぐ直枝とのお茶を中止しなさい!」
「え、急に藪から棒になに!?」
「火傷しちゃうでしょ!(正常な意味でも性的な意味でも)」
「な、何のこと!?」
「えぇい直枝理樹、私のすべての権限を使ってでも、あなたを」
「何が何やらさっぱり…」
そもそも火傷するような温度でそんなバカをする子はいない。
それにその時気付けなかった私が、一番痛い子なのだろうか。
ゼロは何も答えてくれない。
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