翌日の昼。
「あ、百合愛、今から休憩?」
「はい。ゆっくりしてきますね」
後ろで一つに束ねていた髪を解き、相坂の見慣れた黒いストレートヘアに戻る百合愛。
これが彼女なりの休憩のスイッチなのだろう。しかし。
「んっ…」
「んぁっ…ちゅぷっ…ちぅぅっ…」
スイングドア一枚隔てたバックヤードで始まる、濃厚ビアンキス。
「んはぁっ…ときるんちゃんっ…」
「バトンタッチ♪」
これもまた、相坂なりの休憩解除のスイッチ。一気に仕事モードに戻る相坂の下唇を噛む百合愛。
「いたっ」
「もうっ!ときるんちゃん!」
「ごめんってば」
刹那、腰が折れるくらいの力で抱きつく百合愛。
「…夜まで、我慢できなくなっちゃうじゃないですか」
「…それもそうね。あたしも今すぐあんたをお手洗いに引きずり込んで悪いことしたくなっちゃったし」
「…」
顔を赤らめる相方の鼻の頭を軽くかぷっ、として。
「夜、意識がぶっ飛んじゃうくらい愛してあげるから」
「はい…明日定休日ですし、今夜は…死ぬほど愛して…」
そして相坂はウインク一つ、売り場に。百合愛は事務所に。
それを物陰で見ていたのは…えみるだ。
「むむむっ!すごい、すごい百合オーラですよ百合愛さん!そしてやらしーですよ相坂さんっ!」
メーカー営業さんなども出入りするバックヤードでけしからん!と怒るところ怒らないのがえみるクオリティ。褒めてないけど。
「これは、私もゆりちゃんにすべきでしょうか?否!今すぐすべきですw」
ちょうどいいところに、ゆりが視界に入ってくる。ロックオン。狙い撃つ。
「ゆりちゃんっ!」
「あ、お姉ちゃん」
ゆりのにぱぁ、っとした笑顔。襲いたくなる衝動を抑え。
「い、いいいいいい今休憩おおおおおお尾張ですかぁ!?」
信長か。
「う、うん終わりだよー。お姉ちゃんどうしたの?」
心配そうに覗き込む頭一個分背の低いゆり。刹那。
「んちゅっ♪」
「……」
赤面。そして。
「いやぁあああああああぁぁぁぁぁあああ!!!」
びたーん!
ビンタ一発。油断していたえみる、一瞬にして吹き飛び来店商品置き場の木棚に頭がヒット。
えみる、脳震盪でダウン。
配送出動前の那覇がこめかみを押さえ首を横に振る。
「バカかあいつは…」
そしてエンジン始動します!と声を出す吾作にちょっと待てと知らせると、えみるの場所に急行するのだった。
「何事も段階は大事ですねw」
「バカ。少しは反省しろ」
「あたっ」
デコピン。那覇だ。
「チビにはそういう耐性がねぇの、見て分からねぇか?興味があってもそれが好きだとは限らないんだ。多少は自重しやがれ」
チビ=ゆり。
「キスは誰でも嬉しいもののはずなんですが…w」
「そういう発想が理解出来んな…まぁいいや、次自滅しても助けなければいい話だしな」
「そんなひどいっw」
「んじゃ、俺配送出るから後頼むわ。入り口施錠頼むぜ」
「えーそんなまってー!w」
無情。ドアは閉まり、倉庫はまた静かになるのだった。
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