-愉快なときだけ思い出して-

 翌日は朝から生憎の雨。
それも少し横殴り気味。ベランダを越え、窓をノックする雨粒の音で目を覚ます相坂。
「うぅー…ん、今日は雨かぁ」
2LDKのこのマンションに一人で住んでいた頃は、無機質な壁と天井に包まれて目を覚ますだけだったのに、今は。
隣に、大切な人が寝ている。
「百合愛。起きなさいよ。そろそろ支度しましょ」
「うー…無理です、起き上がれません」
うつ伏せに眠っている百合愛がなかなか起きてくれない。正確には起きているのだが起き上がれないそうなのだ。
「お腹でも痛いの?」
「違いますー」
「なら起きなさいよ。車見に行くの付き合ってくれるんでしょ?」
軽く揺さぶってみるが、その気配もなく。
返事は、こうだった。
「ならときるんちゃんが抱き締めて起こして?あと、ぱんつも穿かせて欲しいです」
「何ゆえ」
そこで、しまった、と相坂は何かを思い出すが、先に百合愛から切り出す。
「そもそも原因は昨夜ときるんちゃんが調子に乗ってわたしのお尻を真っ赤になるまで叩くからです…」
「あー」
百合愛が恥ずかしそうに捲った掛け布団の先には、まだ痛々しく赤い、普段は白磁のようなお尻が控えていた。
「でも百合愛だってもっと!もっと!オシオキしてー!って喜んでたじゃない」
「それは……きっとお酒が入っていたからです…」
「どーだか。百合愛って案外Mっ気あるし」
「ありませんっ。仮にあっても放っといてくださいっ」
ちょっと反抗的な百合愛にムッとしたのか、相坂は、まだ赤い大きなお尻を軽く撫でてみる。
「ひゃっ!」
「あ、軽く跳ねた」
「酷いですときるんちゃんっ!」
ごめんごめん、と謝る相坂に、ふくれっ面の可愛い姉貴分は。
「触るなら、もっと優しく、わたしの髪を愛でてくれるいつものときるんちゃんみたいに…ね?」
「仕方のない子ね」
布団は昨夜の激しい契りで、汗以外の色んな液体に塗れ、濡れていて気持ち悪い。それでもそんなものを気にしない二人の嬌声は、それから更に2時間ぐらい続いたのだった。


 流石に雨の中オープンにする気もなく、屋根の被ったカプチーノになる。
あの後更に激しい粘膜の愛し合いで汗といろんなものに塗れた二人は、シャワーと洗濯を高速で行い、その間に相坂が準備した遅めの朝食を平らげ、身支度を整えると、11時過ぎにマンションを出た。
「良く降りやがるわ」
「本当ですね」
狭い車内。どうせ車見てお昼食べて夕飯の買い物をして帰るくらいだからと、Tシャツの上からオリーブドラヴのパーカー、お気に入りの赤のデニムというとんでもなくラフな格好の相坂に対し、百合愛は。
「ねぇ百合愛。別におめかししていくところでもないでしょうに」
薄化粧の相坂に対して、百合愛はちょっと気合入れ気味。足りないと思った分は車の中でやっちゃってる。
「ダメです。どういうときでもだらけた格好なんて他人様には見せられません」
「ホント生真面目が服を着て歩いている感じだ」
そんな生真面目が着ている服は、いつか誕生日に贈った黒のワンピース。その上から薄紫のストールを羽織り。
「…下着も、誕生日にときるんちゃんが贈ってくれた、えっちなの、着けてます…」
「え、あの黒歴史にしたいイヤーンアイテム?」
誕生日に黒のワンピースを送るようにしていたけど、ちょっと冗談を効かせて白のえっちぃ下着とガーターベルトのセットを先に渡したのだ。当然百合愛はしばらく口を聞いてくれなかったが。
「……今は、もう恥ずかしいところ見せ合っている間柄ですから…」
「あー」
でもそんなもの着けて気合を入れるほどの場所でもないのに。相変わらずどこか
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まろやか投稿小説 Ver1.30