-幸せなら手を叩き、死合わせなら香を焼け-

 「あ〜〜〜〜〜むっ」
ぱくっ、はぐはぐはぐ。
どこかの小動物系な誰かがたい焼きを頬張る。翠だ。
「んー。誰かのおごりだと思うと必要以上に甘く感じるね、なはりん」
「変なあだ名付けるな。後人の金だからって少しは遠慮しろ。今何個目か自分で分かってるか?」
「んー」
顎下に人差し指をぴとっ、と付け、そして中空を向く考え事してんだぞーポーズの後。
「たぶん4個くらい!」
「馬鹿。その4倍だよ」
「え!スイさんってば16個も食べちゃってたの?んー。言われてみれば粒あんこしあんカスタードにチーズ…確かに16個行ってるかも!」
それでもスイさん太らない体質だからガンガン行けちゃうんだけどねー。もう一個紙袋から取り出しぱくり。
「だから少しは遠慮しろ。そして油断するとすぐ太るぞ」
「太る太るってなはりんは何も分かってないよー。太らないって本人が思ったらきっと太らないんだから心配しなくてなんくるないさー」
なんくるないさーの誤用、無駄遣い。
那覇も諦めたのか煙草に火を付け。
「親父さんよ。俺にはドネルケバブのイスケンデルスパイシーを」
「あー!スイさんもそれがいい!」
「お前は少し遠慮しろ」
デコピン。たい焼き持ったままおでこを押さえる翠。
「あいたっ。うー、DVだ!」
「文句あるなら等価交換だ。お前のたい焼きよこせ」
「なんだよー。最初から食べたいって言えばいいのに」
そうして紙袋に手を突っ込むが、どうやらこれが最後の1個だったようで。
「…食べかけでいい?スイさんケバブも恋しかったし」
「…」
受け取れば、合法的に間接キス。
受け取らなければ、食べ物の恨みで翠が延々突っついてくる。
どっちに転んでも正しいというのであれば。
「…それでいい」
「あー。なはりんムッツリ。間接キッスだよー」
「…やかましい。早くしないとケバブ食っちまうぞ」
「あー待て待てっ!」
等価交換のつもりが、とんだプラス。
手渡しする時の翠の手の滑らかな肌触りと温かさ。
そして、歯形が残るたい焼きにかぶりついた時の、ほんのり甘酸っぱい味。
それがやがて痛みに変わる…。
「……おい、てめぇ何しやがった…」
「あ。ごめん、あまりに甘すぎたからデスソースもらって付けたんだった」
たい焼きはあいにく翠が嫌いなチョコ。25000スコヴィルの辛さが甘党の那覇を襲う。
「……」
「あ、ときチーノだ!」
その時、翠は何かを見つけたらしい。
信号待ちをしている、相坂のカプチーノ。
「むむむ。りありんも乗ってるし!これは事件のかほりだ!」
そうして那覇の180SXに乗り込んだはいいが。
「…なはりん、早くエンジンかけてよー。追撃しないと間に合わないよー」
「……この唯我独尊娘、め」
そこで那覇の意識はどこかへ飛んでった。


 同じころ。
海岸通りをジョギングしているのは、吾作。
そう、体力づくり、のはずが。
「なんで追われるんだよー!」
後ろからは『最強♂とんがりコーン』だの『救いはないんですか!?』だの『Fuck♂You!』だのやかましい筋骨隆々なナイスガイたちが追ってくる。どうやらジョギングをしているうちにハッテン場のトイレのある海浜公園に入ってしまったらしく、しかも名刺を落として拾われたものだからさぁ大変。
「僕はガチムチレスリングとは無関係だからーっ!」
蟹にはなれないしね。
パンツ脱がされたら人間として負ける。童貞を奪われる前に、後ろの穴の処女を奪われるなんてクリスマス前のギャグにしては悲惨すぎる。吾作はいつも以上の速力で目の前の警察署に飛び込んだ。
…直後、あまりの息の荒さにすんごい薬物キメて警
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まろやか投稿小説 Ver1.30