午後3時。
午前10時の開店から既に5時間が経過しているにも関わらず。
「売上、1万円ですか…」
もはやこのレベルの売り上げでいいんだろうか、なんて頭を抱えるは、
この店舗の店次長(てんじちょう)、平たく言えば副店長でチーフフロア長、売り場の2番目に偉い責任者の百合愛(ゆりあ)。
「まぁ、開店セールも大して来なかったですし、仕方ないと言えば仕方ないか」
言いながら、見つめるカレンダーは、赤マジックで×がたくさん。
×を付けているのは、本社から与えられている予算を達成できなかった日。
そして、それが付いていない日は一度もない。
客の姿の見当たらない店内で、店長PCのテーブルをバンッ!と叩き。
「ですからっ!店長!のんきにお茶なんか飲んでないでください!ゆりちゃんも!」
青筋の立った顔でギロリ、と睨みつける先には。
「んー。今日のフロマージュたまらないですwコンビニのとは思えませんw」
「おいしぃ…ねぇお姉ちゃん、もう1個もらっていい?」
「どぞどぞw」
百合愛の怒りもどこ吹く風。このマイペースな店長ことえむと、レジ担当のゆりは、3時のティータイムを楽しんでいる。それはもう、ぽわぽわーとお花がたくさん浮いている勢い。
これで給料もらっているんだから、間違いなく給料泥棒。
「どぞどぞ、じゃありません!私だって我慢してるんだからもとい、いくらなんでもこの売り上げだと明後日の小商圏店長会議で怒られますよ!」
「私休みだから関係ないですw」
「あぁもう!」
「ゆりあお姉ちゃん怖ぃ…ゆりのせぃ?」
「だ、断じてそんなことはありませんよゆりちゃん!悪いのはこのちゃらんぽらんな店長です!」
「酷いですよっw」
店長PC周りがやかましいこの時間帯でも…。
「那覇さん、次は幸町でしたっけ」
「あぁ、幸町の坂下様、洗濯機設置とリサイクルだ」
軽快に幹線道路を走るは『いつもニコニコ地域の味方 まごころサービスカー』とでっかくステッカーの貼られた、配送工事専用サービスカー。
ハンドルを握るのは、この仕事に入って2年目の若輩、吾作。そして助手席で地図を見ているのは、この道一筋10年。配送工事のエキスパート、商菅(商品管理)長、那覇だ。
「ねえ那覇さん、配送終わったら温泉行きましょうよ!」
「行くか馬鹿。終わったら出張訪問サービスが2件、さっき相坂から電話があった」
「えー」
「無駄口叩くな前見ろ。事故ったら始末書じゃ済まされんぞ」
その口ぶりから察するに、那覇も相当無茶をしたのだろうか。
それを聞く勇気もなく、吾作は、握るハンドルに力を入れる。
「相坂さんも人使い荒いですよねー」
「いや。出張訪問が入れば部材代と本社からも金が出る。儲けたければどんどんやるべきだ」
「えー」
吾作にとって、出張訪問は面倒くさいことばかりだ。
「何が悲しくてジジババのテレビの設定やらお茶飲みだけのための出張やらしなきゃならないんですか」
「地域密着だ。俺は案外楽しませてもらってるぞ」
「那覇さんは大人だなー」
「お前が童貞なだけだ」
「ど、どどどど童貞ちゃうわ!」
いつも通りの掛け合い。吾作は童貞であることが相当コンプレックスなようで。
「今は黙ってせっせと仕事しろ。ちゃんとやることやったら風俗だろうとおっパブだろうと連れて行ってやる」
「ホントっスか!?約束ですよ!?」
「そうやってがっつくから童貞ってバレるんだ」
「だ、だから童貞ちゃうわ!」
直後、前の車がブレーキ踏んで急ブレーキ。配送商品は無事だったが、ブチ切れ那覇に吾作がフルボッコされたのを付け加えておく。
「ときるんー。退屈
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