「「いただきまーす」」
ぱくっ。ぴちゃぴちゃ。
最初のうち、それは甘く優しい、どこか懐かしい味を出す。
しかし2秒以内にその味は塩を含んだ喉の渇きそうなものに変わり。
やがて、鼻に上がってくる嫌な臭いとともに、薬草臭さが口中に広がる。
「…ゲロマズ…」
「ま、まじゅいですw」
「あらそう?こんなにおいしいのに」
いいタイミングで休憩時間が重なったえみるとゆり。そして相坂。
相坂が持ってきた今日のおやつに興味津々の二人は、ついついそれに手を伸ばす。それが、悪魔を呼ぶお菓子だと知らずに。
「サルミアッキ、フィンランドじゃ国民的お菓子なんだけどね」
「ここはにほん……うげぇっ」
「ゆりひゃん!?」
欲張って6個同時に口に含んだゆりは、サルミアッキの禁忌とされる『思わず噛んじゃう』をやってしまい、まだ歯にこびりつく薬草臭さをお茶で流そうとするが、なかなか上手くいかない。
えみるも2個同時に含んでこの有様。相坂、動じずに次々口に放り込む。
「ときるんるん…強い…」
「誰がときるんるんか」
口にもう一個放り込まれるゆり。刹那、白目をむいたゆりは意識だけ空を飛んだ。
「ゆりちゃーん!」
「ピースさせましょうか。アヘ顔ダブルピース」
「そ、それは完璧えむ得ですがやめてください!ゆりちゃん、帰ってきて!」
「うぐぅ……」
「今夜はケーキをホールで買ってあげますから帰ってきてください!」
「…!」
ゆり、目を覚ます。舌打ちする相坂。
「なぜ舌打ちw」
「なんでもないわ」
と、そこで。
バタン。ドアが全力で開く音。
「ときるんっ!」
「翠、どったの?」
全力疾走翠が事務所に飛び込み、そして相坂の腕を引っ張る。
「翠?」
「売り場!いいから売り場!今すぐ売り場へごー!」
「ちょっと、休憩時間中なんだけど」
「いーからいこーよー!」
言いだしたら聞かない翠のことは、相坂もよく知っているつもり。
しかし休憩時間にわがままを言うのは初めて。不審に思い腕を解いて。
「?」
「翠、理由を聞かせてくれないと休憩を続ける」
「いいからきてっ!」
「理由!」
「きやがれってんだー!」
「黙れマイペース娘!」
「むむむ!」
「何がむむむだ!」
「ま、まぁまぁw」
思わずえみるが心配する勢いのにらみ合い。そして。
「…スイさん好みのすんごい可愛い子が来てるの」
「へぇ」
「そんでね、彼氏へのクリスマスプレゼントを探してるの!でもスイさんパソコンと周辺以外分からないの!てへり☆ミ」
「よし帰れ」
「なんでっ!」
翠、全力で相坂にしがみつく。
「いーから売り場ー!スイさんの恋を実現させてよー!」
「ちょっと待て。相手彼氏持ちでしょ?あんたスワッピングされるだけじゃない」
「彼氏って言っても男の子とは限らないもん!」
うわ、ド天然。
思わず吐き出したため息とともに。
「あんたは那覇とラブってればいいじゃん。まぁでも、彼氏思いの彼女にちょっとキューピットごっこするのもいいかもね。えみるん、休憩あとで余分に貰っていい?」
「あ、はい、相坂さんさえよければw」
「分かった。翠、案内して」
「がってんしょーちのすけっ!ときるんなら言ってくれると思ってたよ!」
満面の笑みで相坂の手を引く翠。売り場のドアは、もうすぐそこだ。
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