その頃、那覇と吾作は。
「ふぃー。異常なくてよかったですね」
「まぁそうだな。だがこれからそういうことが相次ぐかもしれん。準備は怠るなよ」
「はーい」
温泉街の郊外をひた走るまごころサービスカー。先ほどまで急な出張訪問サービスで出動していたのだ。
「こたつのヒーターが付かないって騒いだ挙句コンセントが抜けてたなんてヌケてるのはじいちゃんばあちゃんじゃないですか」
「仕方ないだろ。この地域はジジババが多いんだ。だからこその出張訪問だろ。それくらいのことで心臓止まられても面白くないしな」
「那覇さん冷静っスね」
「あぁ。童貞じゃないからな」
「ど、どどどど童貞ちゃうわ!」
思わず急ブレーキしそうになるけど、今日はポンピング。
「分かってきたじゃないかブレーキ」
「殴られるのは御免ですからね。って、あれ、ゆきひめちゃんじゃないっスか?」
「…」
信号待ちをしていると、目に付いたのは、確かに雪姫だ。
しかし、いつもとは様子が違う。そう、若い男に絡まれている。
「助けに行かないと…ってもういないし!」
吾作が提案しようとする頃には既に那覇は助手席にいなかった。
「あの、だから」
「いいじゃん。お茶だけって言ってんだしさ?」
「そーそー。でもキミの態度次第じゃ、お茶だけじゃ済まなくなっちゃうかもしれないよ?」
刹那、若い男の一人がポケットから棒を取り出す。
その棒はロックを外すとたちまちナイフが現れる。いわゆる、バタフライナイフという奴だと雪姫が気付くのにそう時間は掛からなかった。
「可愛い顔に傷付けたくないしさ、大人しくお茶しようよ。まぁその後じっくり舐めまわしてあげるけどさー」
「おいおいお前ナイフ出して、この子がチビったらどーすんだよw」
「そんときゃホテルにでも連れ込んで俺直々にぱんつ引っぺがしてお手入れしてやるだけさ」
下品な笑いをするが、雪姫は一切動じない。
そればかりか至極冷静なのに、ナイフを持った男の方がキレる。
「おいアマぁ!あんま冷静にしてっと腹にブッ刺すぞ!もっと怖がれよ!怖がって俺たちに詫びて、ついてこいよ!」
「…えぇと、なんて言ったらいいのか」
その目は、憐みに変わり。
「もっとコワーいモノ持った実の兄がお二人の後ろにいてですね…」
「「…へ?」」
恐る恐る振り返ると、後ろには。
「おい若いの。誰の妹に妙な口聞いてんだ?アァ?」
既に愛用の太刀、薩摩拵を抜き放ち、刀を肩に近寄ってくる屈強な男が一人。間違いなく、悪鬼羅刹な那覇だ。
「おっと逃げんなよ」
峰が一閃、ナイフを持った男の腕を強烈に叩く。骨が折れたかと思う衝撃と同時に、ナイフが地面に落ちる。
「いっでぇぇっ!」
雪姫が那覇の後ろに隠れる。と、同時に。
「俺たちゃまごころをお届けする運び屋だ」
「「へ?」」
「だからよぉ、地獄の閻魔様にまごころ込めててめぇら送り届けたところで、バチは当たらねぇ、そうだよなァ!」
刃一閃。ガードレールが斬れる。
「…」
「言っとくがこいつは薩摩拵って言ってな、柄が異様に長い。示現流を使う人間にはたまらなく便利なイチモツだ。つまり」
構えが、蜻蛉になる。
「薬丸自顕流中目録の俺が使ったらどうなるか、テメェの身体で味わいやがれ」
すると、男の一人が、震えながら言う。
「……こいつ、聞いたことあるぞ…」
「間違いねぇ、『5中の血達磨製造機』だ…」
「な、なんだよそれ…」
まだ雪姫が生まれるちょっと前の話。
中学時代、荒れに荒れていた那覇は、叔父がやっていた剣術道場を破門されている。それは、喧嘩に剣術を使ったためだ。
しかし、それは、彼自身
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