-生きて虜囚の辱め?お前生まれたこと自体恥じろよ-

 雪姫を拾った帰り道のこと。
「ねえお兄ちゃん。クリスマスだよ」
「あぁ」
駅前通りは人口の少ない街とはいえ華やかで、とてもそれには似つかわしくない、鮮やかなイルミネーションに飾られている。今にも雪が降りそうな寒空。
「むしろお前の場合は誕生日だろ」
「むー」
何を隠そう雪姫は、ちょっと惜しいが12月23日が誕生日だったりする。その兼ね合いで小さなころから誕生日とクリスマスを一緒に祝われることが多かった。今年も那覇はそのつもり。
「お願いだから去年みたいにWiiとか贈らないでね?私もうそんなお子様じゃないんだから」
「んじゃ僕がえっちぃ下着贈ります!」
「吾作テメェ黙ってろ!童貞のまま斬るぞ!」
「ど、どどど童貞ちゃうわ!」
一連の掛け合いに、クスクスと笑う妹。
「なんだ」
「なんでもー」
「言ってみろ」
「叩かれるからヤだ」
「自覚しちまうくらいのことなのか」
そんなこともあり、車はもうすぐ店に到着する。
「帰りにケーキ買ってよお兄ちゃん」
「そうだそうだお兄ちゃん!」
「吾作今すぐ死にてぇか?」
「酷い!僕の扱い無駄に酷い!」
「鉄板にはじけ飛ぶソース並みに無駄な扱いだろ?嬉しいか?」
「僕はMじゃありません!」
吾作は餌を目の前にした犬のようにはしゃぐ。よっぽど妹が嬉しいのだろう。車をリバースで荷受けシャッター前に止める。運転終了。

 その時だった。
来る。いつも通りのタイミングで、ピントのぼやけが。
「お兄ちゃん?」
雪姫が気付く。しかし。
「疲れ目だ。先に店の中入ってろ」
「…うん」
何でもないと思ったのか、それともただならぬ何かを察したのか。ともあれそれ以上追及されることはなく、彼女は店内へ。
「吾作、テメェも段ボール下ろしてさっさと業務に戻りやがれ」
「は、はいっ!」
ついでに邪魔な奴も追い出すと、彼は。
「……ここ数日で間隔がだいぶ狭まって来てやがる。あともうちょっと、そう、妹の高校入学まで待ってくれよ…」
予測以上に侵攻の速い病魔。やがては脳髄まで侵される勢い。
「今ここで立ち止まるわけにはいかねぇんでな…」
「そうか、お前さん、あくまでこの仕事を続ける気か。目が見えんようになっても」
「…平さん、知ってたのか」
スーツの上から黒のトレンチコート、そして白いマフラーとサングラス、手には葉巻。マフィアのボスの出で立ちをした平が、そこにはいた。
「あぁ。病院を手配したのは俺だしな。医者も俺の馴染みだ、知らんわけあるまい」
「ホントずるい男だよ、アンタ。勝てる気がしねぇ」
「HAHAHA。まだ老いぼれてはおらんよ。で、どんな塩梅かね」
「…」
一呼吸。そして。
「少なくともまだBGMに『青空』は流れていないな。ラーメンセットを要求するあたりか」
「なんだまだ序盤じゃないか。お米券代わりに手篭め券をもらってこい。俺が10万円で買ってやる」
「このエロジジイめ。さっさと姐さんに絞られちまえ」
煙とも息とも分からない、そんな白いものを空に吹き上げ、平は。
「しかしな。妹には話してやれ。あんな純真な子だ。おめぇさんが隠していたらきっと後で」
さえぎるように、那覇が言う。
「後悔するときは地獄の閻魔相手だ!俺は最期までいい兄ちゃんとして振る舞う。そしてそんなとんでもねぇ偽りの演技をした罰で、地獄で舌を引っこ抜かれる。それでいいんだ、おれたち兄妹は」
「那覇…」
「いくらアンタでも、こればっかりは譲れねぇ。頼む。妹にも吾作にも、普通に振る舞ってくれ。ヤバそうになったら真実を話すから」
「…分かった。手篭め券ただでくれるならな」
「エロジジイ、非
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まろやか投稿小説 Ver1.30