-感動的に愛らしいだろ?使用人に身を窶したオレもよ-

「で、何があった」
プシュッ。プルタブが上がり、押し出された炭酸がコーラを泡立てる。
「汗臭いです。男の方の汗は好きじゃありません」
「うるせぇ。いいから事情を話せよ」
「…」
百合愛は少しずつだが話し始めた。
店長があんまりに酷いこと、誰も彼女を止めないこと。
そして、自分への負担の増大と、それに伴う大切な人への迷惑。
「結局お前、ケーキ食べ損ねたこと根に持ってんだな」
「全然話聞いてませんね」
冗談だ、と那覇は煙草に火をつけ。
「でもよ、相坂はそんなの全然気にしないだろうし、ぶっちゃけ、あんな店長だからまとまってると思うんだ、俺」
「そうでしょうか」
「あぁ。クソ真面目なやっこさんならモチベーションの維持は難しいし、馬鹿でも店は回らない。マスコットやらお飾り程度で自分から収まってくれるアマのほうが楽だぜ、現場としちゃな」
現場としては。
でも現実はどうだろう。百合愛はあくまで中間管理職。そして。
「振り回されるほうは辛いだけです」
「分かるよ。良く。だがあいつはお前がアテになるからあんなキャラでいれるんだろ?それを理解したうえでさ、もっと周りに甘えていいんだよ、お前も」
「簡単に言ってくれますね」
「あぁ。言うだけならタダだしな」
「……そうですね。有難うございます、なーちゃん」
「うっせ。あとその呼び方辞めろ、反吐が出る」
「はいはい」
そっぽを向いて煙草を吸う彼に背を向けて、百合愛は歩き出すのだった。また、店内へ。
「…でも、そう簡単には許してあげられそうにありません、なーちゃん」
煙草の臭いが少し付いてしまったベストを気にしながら、彼女は。


「ふえーんお客様増えてきちゃいました!百合愛さーん帰ってきてー!」
「ゆりあおねぇちゃーん!」
ピークタイムでもお構いなく休憩を続ける百合愛。ハンドリングの出来ないえみると、てんてこ舞いなゆり。
翠はそれを横目に。
「…にしし♪」
りありんぐっじょぶ、と心の中で唱えるのだった。


「那覇さん、何だかんだで店次長のこと気にかけてるんですね」
「まぁ、お前と比べたら雲泥の差があるからな。無論お前が泥だ」
「この鬼畜!」
「黙れ童貞」
「どどどどどっどどどど童貞ちゃうわ!」
いつもの掛け合い。トラックに荷物を積み込むと、出動だ。
「ねぇ那覇さん、今日は城見町から赤佐古町まで行って、それから幸町のルートでいいですか?」
「あぁ、それでいい。お前も配送が板についてきたな」
素直な賞賛に吾作は。
「相坂さん情報でこの城見町の水無瀬さんって奥さんがすんげぇデカパイだって聞きましたから!早く拝みたいんです!」
「…」
ぴこん。那覇は何かを思いつき。
「あぁ、水無瀬さんか。あの人はやめとけ」
「どうしてですか?」
「大きいのはな、囲われてるんだ。あの人社長夫人、でも社長も愛人が多いからさ、奥さんも浮気し放題なんだ」
「!」
吾作の目の色が変わる。
「そ、それってい、いいいいいわゆるスワッピ●グ…」
「まぁそうなるな。しかもその中にはコワモテさんとかもいるからな。迂闊に色目を使うとお前、明日には湖に沈んでるかプカプカ浮いてるかのどっちかだ」
「…」
顔が真っ青になり。
「ど、童貞卒業できるとおもったのに…ッ!」
「…まぁ、社長夫人以外ウソなんだけどな」
「那覇さんっ!」
直後、例の如く急ブレーキ。那覇の鉄拳制裁が、吾作をシートに沈めた。
11/11/08 01:12更新 / 相坂 時流
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まろやか投稿小説 Ver1.30