「百合愛さんっ!大変ごめんなさいでした!」
「でしたぁっ」
ピークタイムのすぎた、というより、もう閉店間際のバックヤードで、おかしな日本語で頭を下げるえみると、ゆり。
「百合愛さんがそんなにケーキを食べたかったと知らず私たちだけでひとりぢめしてしまってっ!」
「いやその程度で怒ってませんから…」
前言撤回、許そうとした百合愛もさすがに思いとどまる。
「いいえっ!お菓子は女の子の主食だってなんかの歌で歌ってましたし、今後は一緒に食べましょう!」
「ましょう!」
「いえ、それ店潰れますから…」
ため息。何にも分かってないみたいだ。
「でも、まさか百合愛さんにそんな思い悩むくらいの負担を与えていたなんて」
「…」
やっと分かってくれたか。
「ケーキくらいで悩むなんて可愛いゆりあお姉ちゃん…」
約一名未だにわかっていなかった。
「店長失格ですね、私」
「あぁ、立派に失格だ」
「って那覇さんっ!」
後ろには、配送を終え、ダンボールを下ろしていた那覇が。
「失格だと思うならちっとは店長らしいことやれよ。口先だけじゃなくてよ」
「た、例えば?」
その質問に那覇は。
「脱ぐとか」
「セミヌードですか!?フルヌードですか!?」
「いや本気にしなくていいですから…」
百合愛、苦笑いでツッコミ。那覇が続ける。
「それは冗談にしてもな」
「冗談なんですか!?乙女の純情を踏み躙る鬼畜那覇さんですねっ!」
「いや誰もお前の貧しい裸なんざ見たくねぇし」
「鬼畜を越えてド鬼畜変態野郎ですっ!」
「…くすんっ」
ゆりまで泣き出す始末。やれやれ、と頭をボリボリ掻き。
「アレだ。実質店長殿が悩んでいたのは、こんな売り上げでも安穏としているお前の態度にだよ。もっと良くしていこうとか、何か対策を練るとか、オープンからもうすぐ2ヵ月半、何か考えて実行したか?」
「…うぐぅ」
「お前がやるとイライラ通り越して哀愁すら漂うからやめろ」
「ネタ分かってるんですねw」
「真面目に聞けよ。殴るぞコラ」
握りこぶしを作り威嚇する那覇。冗談で流そうとしたえみるも流石に襟を正して。
「確かに、何も考えず、平和な日々が流れていけばいいと思ってました」
「だがその甘さでこの店が不採算店舗になったら、何人の雇用を失うと思う?お前らバカ姉妹の身勝手でな」
「…はい」
那覇は、流石に厳しいと思ったが続ける。
10年以上この会社に在籍して、色んな管理職とやり合って来た彼だ。場数だけならえみるには負けない。だからこそ、変わってほしいと願い。
「悪いと思うならお菓子用冷蔵庫は今日を以って撤去する。リサイクル料金は俺が何とかしておくから安心しろ」
「ま、待ってください!さすがにそれだけは!」
「うっせ馬鹿。反省してないんなら小商圏営業本部に垂れ込むぞ」
「そ、それも…ヤです…」
項垂れるえみる。それを見て彼は。
「ってことだ、実質店長。こいつらも懲りたはずだし、この案件ではもう何も言うな。水に流せ。それがこの業界人の美徳だぞ」
「いや、別にお菓子冷蔵庫まで捨てる必要はないかと」
「なんだお前、それで怒ってたんじゃないのか?」
「…」
結局、誰一人彼女の怒りをわかっていなかったのだろうか。
「冗談だ。ともあれ、こいつらにはコレまでおさぼりしていた分を徹底的に働いてもらう。おい、半人前店長」
「は、半人前じゃないです!」
「うるせぇ馬鹿。とりあえず今日の配送工事伝票の完了、お前が上げろ」
「で、出来ませんっw」
「やれ。やらねぇと…そうだなぁ、小商圏営業本部の宮園部長って俺の同期なんだわ。番号知ってるし」
「はわわわわわわーっ
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