視聴覚室の鍵は開いていた。
「おー」
「綺麗なお部屋ですね」
「相変わらずほとんど使われていないみたいですが」
「でも、ゆいちゃんはちゃんと掃除はしてるみたいだよー」
「あの方らしいですわね。でもそういうところは人に見せないのが来ヶ谷さんですが」
「あ、みてみて」
「ん?」
「キーボードとパソコンが置いてあるよ」
「あら。私のトライトン・エクストリームですね」
「アンプも繋がってるね。起動していいのかな」
「唯湖さんが用意されたなら大丈夫でしょう。ちょっとごめんなさい」
しばらく設定を調べていた紬が、顔を上げた。
「設定は私のものと完全に同一です。これは唯湖さんがご用意していただいたものですね」
PCはネットに繋がってますから・・・
「はい、自宅の私のPCからデータも取り出せます」
何度目かのパスワード入力、それからエンターキーと同時に、放課後ティータイムでは古参の曲、”ふわふわ時間”が鳴り出す。
「わ、やっぱり全部入ってるんだ。キーボードって基本的には1台で全部演奏できちゃうんだよね。ドラムもベースもギターも」
「この子はメモリーが最大まで増設されてますから、一回分、15分のセッションくらいは全部取り込めますね。もっともメモリがすごく旧式だと聞いてますので、調達はそれなりに大変だったと思いますけど」
ちなみに生産終了品、お値段は時価で約20万。
「じゃあ、このキーボード一台だけで演奏するひともいるんだ」
「キーボーディストの中にはそういう方もいらっしゃいます。もっとも多くの方は、特にソロで活動される方だと、台数を束ねて自分では1台から3台くらい、
残りは全部PCに委ねて演奏させてます。ソロの場合はたいてい、「とにかく音を厚く」ですから。ブライアン・イーノ、小室哲哉さんや浅倉大介さんたちがこのスタイルです。
逆にバンドに参加されているかただと、キーボードがあまりしゃしゃりでることを嫌がるバンドメンバーも多いですし、まず何よりもPC任せではアドリブが利きませんから、作曲はともかく演奏時には一台だけになることが多いようです。」
「ムギちゃんは一台だけ?」
「そんなに台数あっても使いきれません。放課後ティータイムはまずバンドですし、作曲のときにどうしても比較したくなっても、いまはPCがサンプリングで足りない分をフォローできますから」
「そういうもんなんだー」律が言う。
「あたしや唯はあんまり個々の楽器に口出しとか質問とかしないもんね。考えないといけないところはムギと澪にまかせっきりになってたなー」
「そうだよね、ムギちゃんがいなかったら作曲できないから、わたし達コピーしかできないよ。これからもよろしくね」
めずらしくきりっとした笑顔で紬の手をとる唯。
「あらあら、こちらこそです」
少しだけ照れて微笑を返す。
あ。
「じゃあ、今日は楽器を持ってきてるの私だけですけど、
ギターだけを重ねて演奏もできるってことですね?」と、梓。
「それいいじゃん、せっかくこまりんやさーちゃんいるんだし、
ちょっと聞いてもらおうよ」
「お、アンプもある。これは唯湖さん、皆に聴いてもらうつもりで準備してたな」
ギターアンプが2台、ともにマーシャルのMG。
ベースアンプがピーヴィーのMAX158。
中廉な量産品だが扱いやすく音も良い、お約束品。
「私たちの普段使いとおんなじ。楽器さえ持ち込めばここで練習できる勢いだね」
「来ヶ谷さんの実家は名士ですから。それでご用意できたんでしょう」
「だから視聴覚室なんですね。音楽室は大抵クラシック系の音楽部がおさえてますし」
「いや、た
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