その11

甘いほう。
憂ちゃんいわく、「チョコレートアイスクリームケーキ」。
唯湖さんに言わせると、
「ほう、趣向としてはイタリア・トスカーナのズッコットか」
セミフレッド(冷やして固めた状態)ででてきた、半球ドーム状のチョコスポンジケーキのなかに、バニラアイスとスイートチョコレートのチップ、グリオッティーヌ・オ・キルシュ(ダークチェリーのキルシュヴァッサー漬け)を封じ込めてある冷たいケーキ。
表面にはたっぷりココアパウダーとチョコレートクリーム。
苦いほう。
憂ちゃんいわく、「タルト・オ・ショコラにイチゴとチョコレートあるいはバニラアイス添え」。
こちらは紬さんが、あまったチョコをひとかけらつまんで。
「結構ビターな味付けです。・・・チョコレートはクーベルチュールから起こされたんですね、綺麗に艶が出ていていい感じです。そうでしたか、お昼のアイスはこれのためのものなんですね」

「わたしが見たい、っていっても楽しみにしてて、って言われた理由がわかった。すごいできだよ、これ。うーん、とっても美味しい!」
チョコケーキを一口した、小毬さんがたちまち溶けてしまった。
奪い合いにはならない。
普通の食事の時には結構かっとぶ女性陣、でもお茶とお菓子が相手だと覿面に空気が変わる。みんな、自分の分を、丁寧にじっくり味わってる・・・。
一番ぶっとびそうな3人、疲れ果ててて比較的おとなしくなってるのもあるんだろうけど・・・。
「憂、ほんっとに最高だよ!もうくちゃくちゃ美味しい!!」
甘いものが入った瞬間にあっさり再起動した唯さん。
その隣で、「お上品さ」を放り出してオラオラどころかドラドラ状態でケーキを掻きこむ律さん。
「憂ちゃん天才!言っちゃ何だけどたぶんこのケーキは人生史上最高!いますぐ海原先生呼んで来い!至高のメニューに加えるのだ!!」
葉留佳さんまで一瞬でトップギア。
憂ちゃんが少し恥ずかしげに、「お姉ちゃんたち、ちょっと褒めすぎだよ・・・」
「うむ、こうくると紅茶もいいがウィスキーかワインがほしくなるな」
またもやしれっと、あるまじき事を口にする唯湖さん。
「何をいうかな。ヨーロッパでは当たり前のことだ。日本でも最近は、国産や海外のシングルモルトやワインと併せて出すスイーツ屋があるしな」
「それ以前に、僕たちみんな未成年どころか学生なんだけど・・・」
「む、仕方がない。理樹くんが付き合ってくれないならさわ子先生と一緒に楽しむことにしようか。憂くん、タルトは残るか?」
「あ、はい。お代わり用に3個余分に作ってあります」
「なに、まだあるのか、憂ちゃん」あ、一応気を使ってる真人。
「お姉ちゃんと同じく呼び捨てでいいですよ。皆さんがよければもう1個どうぞ」
「そうだな、昨日の星間飛行を讃えて真人くんはもう1個よし」
澪さんの言葉に誰も異論はなく、真人はもう1個をありがたく押し頂いた。
「へへ、ありがとよ、澪」
「いやいや。みんなノッてたし。またやって欲しいな」
「そうなのですっ。井ノ原さん、また「キラッ☆」してくださいねっ」
それにしてもめずらしい。タルトなんて上品系のお菓子を欲しがる真人なんて、はじめてみた。
「では残り2個は、さわ子先生と私がいただいてしまってよいか?」
「はい、どうぞ」
にっこりと笑う憂ちゃんに、貫禄たっぷりに唯湖さんがティーカップを掲げて拝礼。
で、そこに、ごく自然に近づいた紬さんが、そっと耳打ち。
「うむ、それは面白い。ぜひ御相伴させてもらうとしようか」
「はい、ぜひ」
なにやら謎の意思疎通が通った後で。
「「2人」の好意をありがたくいただこう
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まろやか投稿小説 Ver1.30