「鈴ちゃん?・・・あ、よしよし、こっちおいで」
鈴が抱いていたコバーンが体を動かしたのをみて、さわ子先生が手を伸ばす。
そのままひざの上に迎え入れて、少し残っていた釜揚げしらすをふたつまみ。
「あまり食卓に近いところで、食べ物を与えるのはよくありませんわ」
察した佐々美さんが、昼の自分を棚に上げて渋い顔をするけど。
「ま、一口だけね」
コバーンって名前に免じて許してあげて。そう言って手の上で食べさせる。
「手の上でやる分には猫はちゃんと意図はわかるぞ、ささみ」
「猫にもよりますわ。まあコバーンはかなり頭のいい子ですから大丈夫でしょうが」
水をさしたと思ったのか、すっと立ち上がる。
鈴と無言のコンタクトをしてから、片付けに移る。
「小毬さん、とりあえず家庭科部室でいいかしら?」
「あ、さーちゃん、一緒に行くよ」
2人が離れたのをみてから、やや独白気味に。
「まあ、それしか選択肢がなかったというべきかもね。
高校大学とさんざんバンドで時間使っちゃったし、でもプロデビューは果たせなかったし・・・
厳密に言えば私がデビューする気がなくて、メンバーと対立することになっちゃったのもあったし、音楽大学に入ってたおかげで急遽単位をとりまくって、なんとか・・・たぶんコネによる加点もあったんだろうけど、なんとか滑り込んだ次第。
ただ私立ってね、先生の入れ替わりがほとんどないのが誤算だったわ。事情を知らない先生のほうが多いけど、古参の先生には、私の過去をちゃんと覚えてる先生がいるのがねー。猫かぶりを知ってる人がいるのは、ちょっとやりづらいわ。成長ととってくれる人もいるんだけど、本性が変わってないのを気づいてる人もいらっしゃるし」
「それにしても、どうしてデビューされなかったんですか?
来ヶ谷さんにマッディ・キャンディの演奏を聴かせていただいたんですが、音楽趣味を別にすれば相当のレベルには行っていたと感じましたが」美魚さんが。
「え?あれ聴いたの?・・・というか誰、あれ聴かせたの」
かなり渋い顔をする先生。
その隣で、
「澪ちゃんしっかりして、トラウマスイッチおふおふ」
「ああもうまただ、おーい澪、もどってこーい」
突然がたがた震えだして座り込む澪さんに、唯さんと律さんが慌てて看護をはじめる。
「どうしたんだ、澪は?」真人が問いかける。
「あ、あの、澪先輩はものすごく怖がりなんです。で、先生が昔お友達と組んでいたバンド、マッディキャンディの記録を見てから、それがハードコア・ヘビーメタル・・・というかもうかなりデスメタルに近い世界だったので、「おばけこわい」になっちゃって」
おろおろしながらせめて、と澪さんを抱き寄せる梓ちゃん。
で、なぜかその2人をさらにぎゅっとしてる唯さん。
なんとなく律さんが不満げなのはなぜ?
「・・・ああ、そういうことだったのか」
何に納得したのかが結構微妙だったけど、ともかく謙吾と恭介がうなづく。
「デスメタルってなんだ?」
「スラッシュメタルとブラックメタルの複合体に近いものだな。
メタル自体も厳密な定義は欠く、というべきだが、技巧と速度、なおかつ低音のパワーを重視するメタルの要素をさらに進めて、”地獄”感を持たせた不快感ギリギリの演奏と、ドスの利いたないし金切り声を上げまくって「おまえら死んじまえ」か「社会は腐ってる」をぶちまける歌詞、非常に大雑把に言えばそこに特色があるとされる」
真人の質問に唯湖さんが。
にしてもなにもそれっぽく声をつくらなくても。
憂ちゃんの腰が引けた。澪さんはパニック度合いが少し重くなったし。
「・・・一応
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