その13

寒い寒い、襟元から袖口から入り込もうとする寒さがきつい。
「うう、高宮さんも勝沢さんもこういうときだけはしっかり結託するんだもん・・・」
前に比べればムチャは言わなくなった2人のルームメイト。
本来は仲良しだった、一時的に変調を起こしただけだとずっと我慢してたときに、
リトルバスターズの来ヶ谷さんが一喝したことで、ようやく自分たちを取り戻してくれてから。
でも、あいかわらずこういうとき(たとえば夜の買出し)に、連合してちゃっかり押し付けるようなところは変わらない。
それでも、いいんだけど。
もう間に合わない時間なのにとか、用事に茶々や無理をいうことはなくなったし。

でも、寒いものは寒い!
これから寒さが進めば慣れてしまうものだけど、11月は昼間はまだあったかいぶん、よけいに堪える。
帰ったらもう一度シャワーしないとなぁ。また冷え性でてきてるし。
そういえば来ヶ谷さん、「冷え性は代謝の低下が最大の原因だ。もっと体の「中」を暖めること、そして適度に運動をしないと改善されないぞ」って言ってたっけ。
本当はシャワーはだめで、お風呂で温めを長く、とか。でもやっぱりそうは言われてもお菓子止められないし、運動すると2人に笑われるし・・・うん?

あのひと、どうしてあんなところに、こんな時間に?

白いコートに半分隠れてるけど、そこから覗くリボンは2年生のゼラニウム・レッド。
色を抜いているのではないことは、すぐにわかるさらさらの栗色の髪。
夜の暗がりの中でも映える白い肌。
一言で断言できる、すごく綺麗なひと。
怖じているわけではないんだけど、
どこか慣れていない場所にためらいととまどいを隠せない様子。
どうしてこんな時間に、制服姿でひとりでいるんだろう。
わたしなんか、私服でストールつけて外出してるのに(みんなにはないしょね、これ、本当は規則違反。寮生は、私室内以外では私服で行動しちゃいけないの)。

声、かけたほうがいいのかな。
でも、わたしが声をかけても迷惑かな。

でも。
・・・あ、もしかして。
「あの、もしかして、「放課後ティータイム」の方ですか?」
普段人見知りな自分でも不思議なくらい、あっさりと問いかけができた。

で、彼女の反応は・・・うん、ちょっと面白かった。
丁度折り悪く、携帯を出しかけていたこともあったんだろうけど。
「え、ええ?・・・きゃっ」
取り出しかけてた白い端末をお手玉して、なんとか落とさないで済んだのを確認して。
ちょっとほっとしてから、ゆっくりと彼女はこちらに視線を向ける。
「ええと、「放課後ティータイム」をご存知なのでしょうか?」
「えっと、はい。あーちゃん先輩たちからお話は伺ってます。みなさんのお部屋の用意もお手伝いさせていただきました。生活委員会所属の、杉並睦美です。
理樹くん・・・直枝さん、、井ノ原さん、宮沢さん、来ヶ谷さん、能美さん、西園さんとはクラスメートです」
「そうなんですか、よかった。こんな時間にそちらに伺うのもどうか、なんですが、それ以前にちょっと道を間違えたかと不安になってて」
そういって、彼女はにっこりと微笑んだ。
ああ、もう。
なんていうか世界が違う人だと思わずにいられない、綺麗な笑顔。
「桜丘女子高2年生、軽音楽部所属、「放課後ティータイム」の琴吹紬と申します。
ご挨拶が遅れまして申し訳ありません」
「あ、いえ、こちらこそ、差し出がましかったかもです、ごめんなさい」
すっと伸びた背筋で頭をさげる彼女に、わたしは半分以上わたわたしながら応える。
・・・ああみっともない。いつまでたっても、こういう自分が
次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
TOP 目次
投票 感想
まろやか投稿小説 Ver1.30