その14

それが、単なる閲覧ならともかく。
「すでにグレーな手段でダウンロードされている痕跡はありました。また、それ以外の方法で、映像を入手した人も。そしてその中に、レコード会社や、その周辺にいるブローカー・独立マネージャーや、その関係者の方がいたらしいんです」

「・・・あたしたちのことを、調べてる人間がいるってことか」
律が単刀直入に。
普通に考えれば、これはむしろ出て行くきっかけをもたらすことなのかもしれない。
でも、今の私にとっては、それは程度の差こそあれ、嫌悪感をもたらすものでしかなかった。
断りもなく、いつのまにか自分たちのことが調べられている。
善意であれ悪意であれ、ある種の恐怖感と気持ち悪さは否定できない。
「そのなかに、琴吹家や私に対して、接触を試みてきた方がいたんです」
唯が、おびえた表情を見せる。
傍にいる憂ちゃんに、めずらしく、瞳にきつい光が宿っている。
律は難しい表情で腕を組んでいる。
梓は無表情。ただ、そっとムギの手を包んでいる。
和は困惑半分、怒り半分。
「父は撥ねつけました。デビューや実習生など未成年のうちから認めるはずがない、
芸能活動など、学生のうちからすることではない。
アマチュアとしてならまだしも、プロデビューを前提とした活動など、本人がよほど強く希望している、なおかつ現時点でアマチュアとして十分な実績があるならともかく、仮にも琴吹家の人間が安易に選択することではない。まして友人たちを巻き込んでしまうなど問題外だ、と」
「・・・」
「その通りです。少なくとも彼らの半分は、私たちに音楽そのものではなく、音楽家を装った
芸能人となることを望んでいます。
はっきり言ってしまえば、女子高のお嬢様たちがガールズバンドを組んでいる、しかもそれが「先方が言うところによれば」美少女・・・自分でいうとかなり違和感ありますね、ばかりだということに目が行っていて、そして、そこそこ「できる」という評価があり、ファンができ始めている、ということに、「商売」ができる魅力を見出しているだけだということは、私にも推察はできます」
だから、父の拒絶は当然です。
私もそれなりに色々な現実は見てきていますから、こういう言い方は生臭いと思いますが、
「うまい話には裏がある」のは事実だと言わざるをえません。
いつのまにか、泣き止んでるムギ。
ほんの少しずつだけど、目に光が戻ってきてる。
「わたし、そんな大事になりかけてるなんてぜんぜん知らなかったよ」
知っていたって、こんなことにでもなっていなければ唯には話せない。
唯は特別な子だから、いろんな意味で・・・でも。
「・・・ごめん、隠していたことになっちゃって。実は私は聞いてた。
正確に言うと、ファンクラブの子が私に教えてくれたんだ」
「え?本当なの?」
「うん、特定された子がうまくかわしてくれたんで、今のところ私のところに直通にはなってないんだけど、ファンクラブ周りには、接触を試みられている人がいるらしいんだ。
一応「勝手連なんだから、私に迷惑はかけない」という不文律をもってくれているらしいんだけどね、みんな。だからいまのところ、直接にはきていない。
ただ、私に向かって、たまに街中とかで不審な視線を感じる・・・気にしすぎだと信じたいんだけど・・・、ことがないとは、言えない」
全員の視線が、私に向く。
「由々しき事態ね」
和の表情が硬くなってくる。
「あたしは今のところないなぁ」
律はひょうひょうと。
「やっぱり澪ちゃん、ムギちゃん目立つからなのかな」
「梓はどうだ?なんか変な話はある?」
「私にも今のところは
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まろやか投稿小説 Ver1.30