それなりにソルフェージュできてたとわかって、それもちょっとほっとしたりもしたんですけど。
言葉でどうこう論じてみたって、本当に世界を理解してるわけではないとも思います。
でも、理解とはまたべつに、感じてしまうものもきっとあると。
それでも、私にとって、理解したいと願った。
初めての英詩でした。
梓ちゃんはそう言った。
「梓ちゃん、次はサックスさせてよね」
「はるちゃん」
「私を救ってくれたのもこの曲なんだ、というかボスにかな。世界は絶望に満ちているけど、少しずつ、確実に変わっていく、よいことも増えていっている、って教えてくれたのは、ボスだから」
「そうなんですか」
理解者の登場に、梓ちゃんが笑顔になる。
「うん、それとクラレンス・クレモンズにも。ジャズで哀愁を謡ってるだけだと思ってたサックスが、あんなにかっこいいものだって教えてくれたのは彼なんだ。”ザ・ビッグ・マン”の愛称は、彼が巨人だからというだけじゃないよ。68歳にもなってるのに、今も演奏の熱さが少しも変わらないのも、すごいけどさ」
「昨年亡くなられましたね、ダニー・フェデリシ。Eストリート・バンドのキーボーディスト、オルガニスト。ロイ・ビダンと2人のキーボーディストを擁する点でEストリート・バンドはロックバンドとして特異ですけど、このおふたりが見事に役割を分担していたことも特筆されるべきです。わたしは、彼のオルガンがボスでは一番好きです。チャレンジング、ということならロイ・ビダンに挑んでみたいですけど」
ね、ちょっと一緒させてもらっていい?
紬さんの声に、唯さんと梓ちゃんがうなづいた。
それにこれだったら、来ヶ谷さんも参加できますから。
ダニーを、お願いしてもいいですか?
あ、策士がいた。
やるな、といいたげに唯湖さんが笑う。
そして、ギター2本とキーボード2台という変則構成で、前半部分だけ。
律さん、澪さんは演奏を聴きつつ、自分たちでも譜面を確認。
・・・いまの時点でも、文句なしにかっこいい。
かなりゆっくりめなテンポなんだけど、ムスタングをまるでテレキャスターのように御しつつ(あとで唯湖さんが言うところでは)、かすれ気味だけどそれだけに凄みさえも感じるボーカルを張る梓ちゃん。
まだまだ譜面どおりにするのも大変そうだけど、それでもしっかり下を支える唯さん。
そしてやはり隙のないところを見せる、2人のキーボーディスト。
熟す直前の、香気を漂わせる唯湖さん。凛とした、清冽な水の流れを響かせる紬さん。
設定は同じはずなのに、何故かちゃんと個性が出るのも不思議。
それにしても、どうして、少し譜面をみただけでなんとかしちゃうんだろう。
あの2人。
佳奈多さん、和さん、佐々美さんはもう呆然と眺めてる。
昨日までのしなやかさもしっかりふくんだ演奏とは打って変わる、激しさに。
「うわ、やっぱりやってみたいわ。ワインバーグもいいよなぁ」
たぶんドラムを頭の中で鳴らしていたんだと思う、律さん。
「うん、梓、ちゃんとボーカルできるんじゃん。梓にもボーカルやコーラス、やってもらうのもいいな」
澪さんが頷く。
「え、私はまだまだだめですよ、澪先輩。好きな曲だし、仮に当ててるだけですから」
あわあわと否定する梓ちゃん。
「そんなことないわよ、かっこいいわ」
「少しハスキーなのがまたいいわね。この曲は詩を知ってるから、つい訳を頭の中で変換して聞いちゃってたわ」
佳奈多さんと和さんにすかさず言われて、ますます真っ赤になって小さくなる梓ちゃん。
うん、可愛いかも。
これが萌えだっていうのは、僕も理解できる。
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