その彼女と目があって。
僕も顔が火照るのを自覚する。
本当に、可愛い人だと思う。
・・・僕は一昨日の晩、その笑顔の中に抱きすくめられてたんだ。
そして、唐突に。
背中を思い切り叩かれた。
「何ニヤニヤしてるんだ、理樹」
「え・・・恭介、べつにニヤニヤしてなんか。というかいつの間に?」
「おー、恭介先輩、戻ってきたんだ、おっかえりぃ」
口いっぱいにリスのごとく頬張ってた律さんが。
「おう、やっと終わった。いやまいったよ、突然の呼び出しでな」
「あ、さわちゃんだ」
「はい、みんなお疲れ。どうだった、今日の練習は?」
「あ、はい、なかなか充実してたと思います」
一緒にきたとおぼしきさわ子先生に、唯さんと梓ちゃんが。
「美魚さんがほとんど譜面を揃えてくれたんです。
おかげでレパートリーが一気に増やせそうで、楽しみです」
澪さんが生真面目に。
「それはよかったわね。美魚さん、ありがとう。
うちの子たち、ディランとかで結構ムチャクチャ言ったんでしょう?
よく揃えてくれたわね、本当に」
「いえ、まだまだこれからです」
謙遜してみせる美魚さん。
「それからぜひ、衣装でも協力させてください」
「頼りがいありそうね。皆にはいっぱいいろんな服着せたいから、
これからいっぱい打ち合わせしないとね、よろしく」
「・・・はい」
少しだけど、頼られて嬉しそうな感じにも思える。
「さわ子先生のところに行ってたんだ?恭介さん」
葉留佳さんが。
「いや、ちょっと違うな。俺は就職の方で話があったんで行ってきたんだが、丁度終わったころにさわ子先生から電話が来たんだ。
そうしたら結構近くのホールにいて、吹奏楽部が無事にコンクールを終えたんで、
迎えに来て欲しいって言われたからさ」
「今日は来ヶ谷さんから、こっちには電車で来てくれ、って話をされててね。電車だとめんどくさいから恭介君におねがいしちゃった、ってわけ。
せっかくイケメンくんに運転手してもらえるわけだし」
「おー、じゃあ今日は恭介せんぱいのキャラバンなんだー。
おっきくて楽しい車だし、みんな一緒に乗れるからいいなぁ」
唯さんがのんきそうに、でも本心から嬉しそうに言う。
「「そういえば、吹奏楽部はどうだったんですか?」」
梓ちゃんと佳奈多さんが。
「おかげさまで3位。
全国大会はあと一歩で逃したけど、私はよい演奏をしてくれたから満足満足。
あなたたちにも聴かせたかったわ」
「「それはおめでとうございます!」」
澪さんと梓ちゃんが嬉しそうに。
「ええ、ほんとうによかったですわ。さわ子先生も誇らしいでしょう」
「3年生はこれで引退になっちゃうわけだから、そういう意味では寂しいけどね。
ただ、いくらか本音を加えると、ここで全国大会ってことになっちゃったら仕事倍増だし、
軽音部のことを観ていられなくなっちゃうから、そういう意味ではほっとしてるかも」
ちょっと舌を出してみる仕草が、意外と可愛らしい。
「恭介、就職のほうでなにか動きがあったの?」
「・・・ああ、まあな。もしかしたら、という感じだが。
とりあえず来週、面接をひとつやらせてもらえることになりそうだ」
・・・あれ、ちょっと歯切れが悪い。
それと。
さっきまでニコニコしていたはずの、紬さんの表情が、少し硬い。
それには気づかない様子で、
「さあ、今晩は飲むわよー!
仕事が一つ片付いたし、車の心配もないし、せっかく来ヶ谷さんに誘われたんだし」
さわ子先生の爆弾発言。
応えて、「いささかこの状態だとしまらないがな」と、唯湖さんがコーラのグラスを挙げて。
「・・・飲むって、お酒をですか?」
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
TOP 目次投票 感想