その18

その彼女と目があって。
僕も顔が火照るのを自覚する。
本当に、可愛い人だと思う。

・・・僕は一昨日の晩、その笑顔の中に抱きすくめられてたんだ。
そして、唐突に。
背中を思い切り叩かれた。
「何ニヤニヤしてるんだ、理樹」
「え・・・恭介、べつにニヤニヤしてなんか。というかいつの間に?」
「おー、恭介先輩、戻ってきたんだ、おっかえりぃ」
口いっぱいにリスのごとく頬張ってた律さんが。
「おう、やっと終わった。いやまいったよ、突然の呼び出しでな」
「あ、さわちゃんだ」
「はい、みんなお疲れ。どうだった、今日の練習は?」
「あ、はい、なかなか充実してたと思います」
一緒にきたとおぼしきさわ子先生に、唯さんと梓ちゃんが。
「美魚さんがほとんど譜面を揃えてくれたんです。
おかげでレパートリーが一気に増やせそうで、楽しみです」
澪さんが生真面目に。
「それはよかったわね。美魚さん、ありがとう。
うちの子たち、ディランとかで結構ムチャクチャ言ったんでしょう?
よく揃えてくれたわね、本当に」
「いえ、まだまだこれからです」
謙遜してみせる美魚さん。
「それからぜひ、衣装でも協力させてください」
「頼りがいありそうね。皆にはいっぱいいろんな服着せたいから、
これからいっぱい打ち合わせしないとね、よろしく」
「・・・はい」
少しだけど、頼られて嬉しそうな感じにも思える。
「さわ子先生のところに行ってたんだ?恭介さん」
葉留佳さんが。
「いや、ちょっと違うな。俺は就職の方で話があったんで行ってきたんだが、丁度終わったころにさわ子先生から電話が来たんだ。
そうしたら結構近くのホールにいて、吹奏楽部が無事にコンクールを終えたんで、
迎えに来て欲しいって言われたからさ」
「今日は来ヶ谷さんから、こっちには電車で来てくれ、って話をされててね。電車だとめんどくさいから恭介君におねがいしちゃった、ってわけ。
せっかくイケメンくんに運転手してもらえるわけだし」
「おー、じゃあ今日は恭介せんぱいのキャラバンなんだー。
おっきくて楽しい車だし、みんな一緒に乗れるからいいなぁ」
唯さんがのんきそうに、でも本心から嬉しそうに言う。
「「そういえば、吹奏楽部はどうだったんですか?」」
梓ちゃんと佳奈多さんが。
「おかげさまで3位。
全国大会はあと一歩で逃したけど、私はよい演奏をしてくれたから満足満足。
あなたたちにも聴かせたかったわ」
「「それはおめでとうございます!」」
澪さんと梓ちゃんが嬉しそうに。
「ええ、ほんとうによかったですわ。さわ子先生も誇らしいでしょう」
「3年生はこれで引退になっちゃうわけだから、そういう意味では寂しいけどね。
ただ、いくらか本音を加えると、ここで全国大会ってことになっちゃったら仕事倍増だし、
軽音部のことを観ていられなくなっちゃうから、そういう意味ではほっとしてるかも」
ちょっと舌を出してみる仕草が、意外と可愛らしい。
「恭介、就職のほうでなにか動きがあったの?」
「・・・ああ、まあな。もしかしたら、という感じだが。
とりあえず来週、面接をひとつやらせてもらえることになりそうだ」
・・・あれ、ちょっと歯切れが悪い。
それと。
さっきまでニコニコしていたはずの、紬さんの表情が、少し硬い。
それには気づかない様子で、
「さあ、今晩は飲むわよー!
仕事が一つ片付いたし、車の心配もないし、せっかく来ヶ谷さんに誘われたんだし」
さわ子先生の爆弾発言。
応えて、「いささかこの状態だとしまらないがな」と、唯湖さんがコーラのグラスを挙げて。
「・・・飲むって、お酒をですか?」
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まろやか投稿小説 Ver1.30