「ターイラー・ターザンメ・ウォウアリフ・イェーター(TILTOWAIT)」
両軍が睨み合う野原と化した廃村の真ん中に、巨大な光が湧きあがる。
次の瞬間に、異次元から転移して解放された風と熱が、
集中点とその周辺を一気に焼き焦がし、暴風となって上昇していく。
ほんの数瞬後、両軍の兵士は完全に色を失っていた。
建物がすべて消滅し、広場にできた真円に近い、巨大なクレーターに。
「さて、申し訳ないんですが、私のお話を聞いていただけますでしょうか?」
あまりにも穏やかな声が、音の消えた周囲に響く。
その一言に押されたように、両軍の兵士たちは腰を抜かしたり、武器を捨てて
這いつくばったりした。
力を解放したツムギは、かろうじて、という体裁でなんとか立っている両陣営の指揮官に、
その特上の笑顔を向ける。
・・・所詮野盗の親玉クラスの力量しか持たない「自称将軍」たちに、
その笑顔に抗するすべはなかった。
彼女の左側からナハトが。
右側からは短く刈り上げた銀髪に、巨人というべき身長とそれに見合う筋肉の塊、
と表現するしかない存在が歩み出す。
「タイラント」と呼ばれる剛腕の重騎士。
フルプレートアーマーを重ね着して、通常の戦士と同じだけ動けるとてつもない膂力と、
その肢体からは信じられない軽敏さを兼ね揃えた、北部連邦総軍でも
屈指を謳われる強戦士。
本名タイラー・ウォルドン。
ナハトは冷たい瞳を向けて、震える彼らから武器を取り上げる。
タイラントはその手間さえも省き、武器を自らのバスタード・ソード、
「ソードオブスラッシング」で落としていく。
彼らふたりが、指揮官クラスの武装解除を始める折に。
「リリィちゃん、それにカズちゃん。ちょっとやりすぎです」
ツムギは、笑顔のまま、彼女の後ろにいた僧侶とその使い魔に声をかけた。
「・・・ちょっと魔力干渉、強くしすぎたでしょうか」
リリスが後ろで、首をかしげている。
「・・・ぼくまで手を貸したのが効いたのかな?」
その懐かしい声に、思わずツムギは自分の左肩をみる。
「あら、ゆきひめちゃんじゃない」
左側で様子を見ていたスイが、声をあげる。
「えへへ、ちょっと来ちゃった」
まさしくはぁと、という調子で語りかける、小さな人形の姿をした女の使い魔。
「ゆきちゃん!」
ツムギは破顔一笑、さっきよりもさらに極上の笑顔で彼女を抱きしめる。
「う、うわ、ちょっと」
慌てるゆきひめに、ツムギは話しかけた。
「ひさしぶりですね、ゆきひめちゃん。元気にしていたの?」
「ぼくはいつでも元気だよ。ゆきだるまに不可能はないっ!」
で、そこで本当に小さな声で。
「ユリアさんに、何かあったの?」
「ううん、そうじゃない。・・・ユリアは元気だよ、一応ね」
その一言だけで、ツムギは頷いてあとは口にしなかった。
耳ざとく聞いていたスイが、
「まさかスパイでもしに来たって訳でもないんだよね?」
と問いかける。
それに対しては、
「スパイかもしれないよ。でもムギちゃんに、そういうことをするように命令したと
思われてるなら、ユリアも不本意だよね。だいたいこっちに来るのだって、
ユリアはずいぶんダメだししてたんだから」
「ん、そか。一応聞くだけしてみたかったんだ、スイさんとしては。ごめんごめん」
そう言って緊張を抜く彼女。
「わ、ゆきちゃんだ、ずいぶん逢わなかったですね」
「げ、ゆきひめだ」
リリスのうれしさに満ちた表情と、相反して困ったと露骨に書いてあるカズに。
「でもぼくも手伝ったおかげだよね、両方の兵士さんたちが誰も死なないで終わったのは」
「・・・え
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