その3

「・・・かわいいわね、貴女たち」
ユリアさんの声が、久しぶりに艶を帯びています。
それになぜか真っ赤になってしまうわたしに。
アルマールのみなさんの、微笑が向かってきます。
気がついたら、ネプチューンさんも、かすかに笑っていました。
ユリアさんの側で。
「あ、やほー、ユリアさーん。
わたしたちの事みていらっしゃったんですね」
そこにのんきなお姉ちゃんの声。
「ユリアさんは、きょうはお加減いいんですか?」
澪さんの、ほっとしたような心配してるような声。
「11階に乗り込んでしばらく経つって話を聞いてるし、
今日はちゃんと貴女たちのことを見ておかないと、って思って。
わりと体調もいいほうよ」
「それはよかったです」
紬さんの、優しい声。
「っと、あなたたち。少し静かにしてね」
「うぉっとぅ」
お姉ちゃんの声がまた聞こえます。
「梓ちゃんかムギちゃん、透視おねがい」
「あ、はい、ではわたしが」
すぐにモードを切り替えたらしい紬さんの声。

「宝箱、ね」
アイさんのかすれた声がでます。
「・・・中身は期待してもいいはずですけど」
リリスさんも、真剣な表情で。
向こうの緊張は、こちらにも移ったみたいです。

それはそうです。
もしかしたら、敵対者との戦闘よりも怖いかも知れない。
それが、大事な物やお金・宝石の詰まった宝箱との対峙です。

こちらの声は、向こうにもわたしのインカムを通じて聞こえています。
「ずいぶんしっかり隠されていたからな。
このパターンの場合は、大抵いいものがあるはずなんだけど・・・」
律さんの声が、映像と共に届きます。
「なにがでるかな、武器かな、ローブかな」
「こら、唯もちゃかすな」
そんなことを言いつつも、律さんの後ろに付いてしまう澪さん。
それはそうです。
「そうよあなたたち、おねがいだから少し静かにしてて」
宝箱に正面から向き合うさわ子先生。
水晶玉を通してでははっきりとはわかりませんが、
たぶんもう真剣勝負、汗をかいていらっしゃるのだと思います。
側で低い声で呪文を唱えつつ、
そっと宝箱の表面ギリギリをなぞるように滑らせていた、紬さんが。
「パターンD−6A−B、罠は”レインボー・レイ”」
そっと声にだします。
少しだけ宝箱に触れながら、そっと様子を探っていたさわ子先生も。
「オーライ、まちがいなさそうね」
そっと額と指に浮いた汗を拭います。

「”レインボー・レイ/七色光線”」
リアンナさんの瞳に、淡い緊張の色が入ります。
・・・何が起きるかわからない魔法の光が、
解除を試みたパーティ全体に降り注ぐ恐怖の魔法罠です。
最悪、全員が麻痺や石化、もっとひどければ即昏倒してしまい。
その場で全滅してしまう可能性もある、恐るべき罠なのです。
魔法を使う魔物、特に悪魔系が好んで使う仕掛け、です。

「さて、いくわよ」
さわ子先生の、硬い声が届きます。
わたしたちも緊張します。
失敗すれば惨事も予想される凶悪な罠。
すでに何度か解除はされているさわ子先生ですが、
なおのこと慎重に、
そっと鍵穴と継ぎ目に針金とピック、ヤスリを差し入れ、
すこしずつ仕掛けを外していきます。

ほとんど気休めなのですが、律さんがその後ろで盾をかざしてます。
お姉ちゃんも、肩当てを宝箱にむけて、精一杯みなさんをまもるように。
そして、梓ちゃんはあえて宝箱に背をむけて、
お姉ちゃんに寄り添うようにして、周囲に注意をくばってます。
澪さんと紬さんは、律先輩の盾と体に身を預けるようにして。
そっと作業の進行を見守っています。

「・・・もう、すこしっ」
長いこと続い
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まろやか投稿小説 Ver1.30