そして今日は、梓ちゃんの番だったんですよね。
お姉ちゃんは今日は紬さんのところですよね、きっと。
わたし、やっぱりめぐまれてますね・・・。
夕食はなしくずしに軽くなりました。
前菜替わりの「ショールバ(さまざまな豆をすりつぶしたスープ)」と、
鯉の塩焼きといったかんじの「マスグーフ」。
アイさんが夕食近くに開かれていた会議の間をぬって
わたしと一緒に作ったものです。
午後まで探検が続かず、遅いお昼がけっこうがっちりだったので。
マスグーフはホブズ(ピザ生地風の薄い無発酵パン)に挟んで食べるんです。
ちょっとフィレオフィッシュを思い出させる、
淡白であっさりとした味。
ピクルスや塩コショウとかで味づけしてかじりつくと、
衣の脂がない分体に優しいフィレオフィッシュ/フィッシュアンドチップス
みたいな感じです。
あんまりホブスが脂を吸わないので、
手と指はけっこうべたべたになっちゃいますけど、
これと冷野菜のサラダは、
見かけよりずっと低カロリーで、夜に向いた食事です。
だいたいみなさんが食べおわったあたりで。
片付けに入ろうとしたアイさんを、律さんが引き止めました。
「もしよかったら、アイさんにも一緒して欲しい。
今後のあたしたちのことで、みんなに話と相談をしたいんだ。
アイさんにも聞いてもらった上で、意見をほしいんだ」
律さんも、梓ちゃんとおなじく覚悟を決めたような顔をしていました。
かなり体力を消耗して、そこに一杯食べたおかげか、
少し眠そうにされていた紬さんも、
お姉ちゃんから離れて背筋を伸ばしました。
可憐だけどやっぱり、受けた教育がちがうんだと思います。
澪さんと梓ちゃんは食事中からいろいろ話していましたが、
その声に応じて向き直りました。
あと実はこの場にいなかったさわ子先生、
−わたしたちの代表ないし代理として会議に出られていたらしいですーも、
少しして部屋にいらっしゃいました。
紬さんにちょっと不器用にですけどかいがいしくしてたお姉ちゃんも、
ゆるいけどちょっとだけ真剣さを交えた目で、
椅子に座りなおします。
「あたしさ、さっきマルスさんと話をしてきたんだ」
律さんはこう、切り出しました。
「あたし、やっぱりロード(君主)になる。なりたいんだ」
そう言った部長さんは、決然と皆さんを見渡しました。
「でも、りっちゃん・・・」
僅かな沈黙の後で、声をだしたのは紬さんでした。
「転職についてはある程度話は聞いているわ。
りっちゃんが君主職になるのはとても頼りになると思う。
でも、わたしは、唯ちゃんと基本的にはおなじ、反対です」
律さんは反応しません。
たぶん予期はしていたんでしょう。
「私もムギや唯に賛成。律ひとりが危険に身をさらす必要はない。
この挑戦にかかったときから、
私たちみんなで決めたこと、あったよな。
命のリスクは全員で分担して支え抜く、ひとりだけを犠牲にはしない。
律、おまえはその言葉をわかってて、
いや、これを言い出したのは律、おまえだよな」
澪さんの声は、怒りよりもむしろ深い悲しみの色に包まれていました。
「律先輩。
私は自分のポジションをリリスさんに諭されて、転職をやめました。
でもそれにはもう一つ理由があります。
わたしまで律先輩と一緒に戦力ダウンということになったら、
もとの状態にもどるまでの時間が長くなりすぎる、
それはつまりユリアさんやミオさんたちの苦しみ、
アルマールの危機が長期化することもあるからです」
梓ちゃんは冷静に、淡々といいました。
「だから転職のために時間をかけるのは反対です。
回り道を
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