その20

「・・・え、ええ!?」
僕は、あまりの事態に言葉がでなかった。
「りっきゅんさん、それは本当です。
わたしは一人娘です。直系で近い親族はだれもいません。
私を産んでくれた母は、3年後に体を壊して亡くなりましたから。
そしてその後、今にいたるまで父は後妻を迎えようとはしていません。
母をそれだけ愛してくれていることに、誇らしい気持ちはあります。
ですが。
その結果はいうまでもありません。
わたしは、琴吹家の跡継ぎに指名されている身です。
ですが父は、わたしに権力を持たせることに無理が有ることは理解しています。
よってわたしに、いい婿を迎えたいと思っているのです。
・・・恭介先輩は、その候補者のひとりなのです」

僕には、あとを続けることができなかった。
そんな、まさか、恭介が。

・・・それは無理もない。
恭介が、鈴を手放すような選択肢をとるわけがない。

「いえ、鈴ちゃんは実権はともかくとして、
可能であれば仕事につく段階で迎え入れたいと父は言っています。
お父様・・・いえ父は、実のところ鈴ちゃんも気に入っているのです。
うまく教育すれば、野生動物や保護が必要な種を守る、NPOなどの仕事につけて、
将来はその幹部として才能を伸ばせないか、と」

いえ、それだけではありません。
琴吹家は、リトルバスターズの皆さんについて、かなり調査を入れています。
そしてその結論は。
みなさん全員を、何らかの職務につけて、
成長させたい、できればわたしを中心とする、次世代の組織で、
中核とするべく英才教育を施したい、と。

もちろん、りっきゅんさんもそのひとりです。
ただ、りっきゅんさんにはちょっと違った役割が期待されています。

つまりこういうことさ。
俺たちリトルバスターズのメンバーを支える接着剤としての、役割を。
理樹、お前は期待されているんだ。

「ですけれど、恭介先輩がそれを断ってもらえるなら、
とても申し訳ないことなのですが、とてもありがたい事だと私は言うしかありません。
なぜなら・・・放課後ティータイムの4人は、私が、誰かと、何かと、
取り換えることなど想像もできない、みんなのことは」

父の構想には、どこにも居場所がないからです。

「お父さんは・・・放課後ティータイムのことを評価はしてないの?」

僕はかろうじて、そう言った。
そんなのおかしい。
放課後ティータイムが、将来のあるバンドであることは僕にだってわかる。
音楽に対して、ろくなセンスがない僕にだって。
唯さん、澪さん、律さん、梓ちゃん、そして紬さんがつむぎだすグルーブが。
演奏のすべてが。
将来の成功を、かなりの確率で約束されている才能だってことを。

僕にだって、この事はわかる。
「芸術的才能は、軍事的才能と並んで、努力は必ず才能の前に敗北する」
才能をもつ人間が努力をすれば。
それは他者が決して追いつくことをゆるさず。
社会も個人も、才能のある人間こそを支持する、って。
判官贔屓を是とする一部の例外の感傷を、除けば。
そしてそれが永続性を持つことなど絶対にありえないのだと。

モーツァルトとサリエリを、見ればわかるように。
たとえ生前に才能を認められなくとも。
いずれ誰かが掘り起こすのは、
真に才能のある存在に限られることを。
シューベルト、フォスターたちがそうであるように。

そして。
今の段階で、人を感動させる、
いや泣かせてしまうような才能が。
偽物やメッキで、あるはずがない。
鈴と睦美さんの涙が、偽物や感傷であるわけがない。
あの涙は、熱い本物だったから。
たとえ唯湖さんがい
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まろやか投稿小説 Ver1.30