その7

「わたしはもう覚悟は決めてます」
梓ちゃんの眦が美しいです。
「律先輩、澪先輩。わたしに任せていただけるんですよね?」
「異議なし。梓になら任せたい」
「梓でだめなら、まだあきらめが付く。
こんないい方はしたくないけど、他の人に律の運命を任せたくない」
「憂とムギ先輩の助けを借りられるんです。
成功しないはずがないじゃないですか。やってやるです」
ふん、と気合をいれる梓ちゃん。
気がついていないかもしれませんが、その仕草、お姉ちゃんと一緒です。
見ている全員が微笑ましい、
と思っているのに気がついているのかいないのか。
「よし、それならそれでいい。
場所は地下1階、潜ってすぐのポイントを使おう。
解呪の影響が大きくて周囲が吹き飛ぶような事態になっても、
あそこならまだ被害は最小限で食い止められる」
律さんがきびきびと決めます。
「なんかへんだな、律」
「なにがだよ、澪」
「だって言ってみれば、
この話し合いは律の死に場所を決めるようなものだろ?
なんで律がそんなのをばんばん取り仕切ってるんだよ」
「そういう言い方はすんなよ」
口をとがらせはしてますけど、律さんは余裕あり気でした。
「そういえばまだ澪は昏倒したことはなかったよな?」
「あ、ああ」
「唯もまだ一度もないよな」
「そうだけど?りっちゃん」
「経験者はさわちゃんとムギ、それにあたしだな。
憂ちゃんもなかったもんな」
「それがなんだと言うんだ?律」
「いや、この際だからさ。
昏倒したときにあたしたちがどんな状態になるか、
澪にも教えてやろうかなー、って」
まるで音符でもつけたくなるような律さんの話しぶりに。
「いーやーだー、聞きたくない聞きたくない聞きたくないっ!!」
「りっちゃん・・・」
「律先輩、澪先輩が嫌がってますからやめてください!」
頭の上に汗が見える紬さんと、真面目に心配してる梓ちゃん。
にへら、とでも表現するしかない笑いを浮かべた律さんは。
「まあ今日のとこはこれでいーだろ。
午後はそれぞれ必要と思うことをやること。
決行は明日。
時間もないし、あたしも宿題はさっさと片付けるのが流儀だしさ」
「うそをつけ、律」
「うそはよくないよ、りっちゃん」
澪さんとお姉ちゃんが同時にツッコミをいれます。
「おまえらなぁ」
そう言いながらも、律さんは笑みを崩してはいませんでした。
「どっちにしたって、後にしていいことは何も無い。ちがうか?」
「それは、そうね」
さわ子先生も言います。
「ここも良い世界だし、いい人もたくさんいる。
でも私たちが居るべき世界は、やはりここじゃない。
いつまでもブーストされない楽器や、
聖堂のパイプオルガンでムギちゃんに運指の練習だけはなんて
環境じゃつまらないわよね」
「そうだ!あたしらはバンドだ、放課後ティータイムだ!」
「おー!ギー太ともアンプで一緒に歌いたいよ!」
「わたしもそろそろ、エリザベスに本気を出させたい」
「ショルキーもいい子だけど、トライトンに会いたい」
「むった・・・ムスタングもしっかり鳴らしたいです。
弦も騙し続けるの限界ですし」
「いくら工房で手入れしてもらっても、物には限度があるからね」
「・・・それに、ここには味噌汁はありませんもんね」
「憂ちゃんらしいわ。でもそれはまちがいないですね。
わたしもお味噌汁が飲みたいです。ご飯と、沢庵といっしょに」
「やっぱり食べ物は郷愁の根っこなのかな」
「あったりまえだ!帰ったら澪に朝御飯をつくってもらうんだからな」
「そういう才能はむしろお前のほうがもってるだろ、律」
「そういうところが澪はダメ
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まろやか投稿小説 Ver1.30