それをみたさわ子先生がなにか言おうとしたのを。
律さんが押しとどめます。
「さわちゃん、時間がもったいない」
よし。
気合を入れなおした律さんが、まずはエクスカリバーを手にします。
無言から、少しずつ、少しずつ、口を動かし、声をだして、
剣に呼びかけていく律さん。
あんな長い呪詞を、すこしもまよわずとどまらせもせず。
わたしたちでも聞き取るのが困難な綴りを、律さんが唱えていきます。
その刹那。
「求む、エクスカリバーよ、あたしに力を頂戴。
あたしがあなたの、あなたの永遠の主たるキング・アーサーに
見合う人物足りえるなら、あたしに仲間を、世界を守る力をっ!」
律さんの、カチューシャがはじけ飛びました。
そして剣がゆれ、大きく青白い閃光を放ちます。
風も力もない光が消えると。
少しだけ濁った光を放つ、「エクスカリバーだったもの」、
エクゼキューショナーと。
肩を落とした状態から背筋を伸ばす、律さんがそこにいました。
「・・・ふぃー」
息をはいて、2度3度と首をふって、軽く腰をひねります。
「何も変わったような気はしないな。
言われてはいたけど、すぐに僧侶系魔法が使えるようにもならない。
でも、これで、あたしは君主になったのか」
「りっちゃん、心配はいらないわよ。私の警戒心がビンビン来てるから」
忍者のさわ子先生が、ちょっとおどけたように言います。
「りっちゃん、おめでとうっ!」
お姉ちゃんが抱きつきますが、
律さんがぎりぎりのところでそれを押さえます。
「まだだ、これからが大事だ。
それに、いまならわかる。唯が持ってるそのガラクタ剣が、
実はものすごい代物で、あたしを呼んでうなってるのをな」
「りっちゃん」
「律」
「よし、唯、そいつをよこせ。これからが本番だ」
そう言った律さんが、
お姉ちゃんが仮の鞘から抜いた、ぼろぼろの剣を握ります。
柄までボロボロに錆びきったそれが、
律さんの手のひらに喰い込み、血を滴らせます。
うっとなってしまう光景です。
でも、澪さんも、全身の意思をふるって、かろうじて見つめています。
わたしたちが目をそらすわけになどいきません。
「さて」
律さんがあらためて、紬さんと、梓ちゃんと、わたしを順繰りに見つめます。
「あとは頼んだぜ、3人とも。少し下がってくれ」
その言葉で、みなさんが少しずつ下がります。
律さんを取り囲む、魔力結界の外側に。
「直視するなよ。
いまでさえ、こいつが爆発しそうな勢いで
中から力をふるおうとしてるのがわかる。
なるほど、これをくらったら灰にもなろうってもんだよな」
律さんの髪が、しだいに逆立ち始めます。
「ネプチューンさんが言ってた、トゥルーワードを唱える暇もないかもな、
こりゃ」
そういった直後に、律さんが真剣な声をあげました。
「みんなさがれ!こいつは危険だ!!伏せてこっちを見るな!!!」
下がれと言われても、もうここまで来たら結界を信じるしか有りません。
直後にわたしを抱きしめて、梓ちゃんが押し倒すように床に伏せます。
そのわたしたちに体をかぶせるようにして、お姉ちゃんが。
向かい側では、律さんにそれでも手を伸ばそうとする澪さんを紬さんが抑え、
さわ子先生がやはりふたりの守りに入ります。
結界を押し破る勢いで、魔力が拡大してくるのを感じます。
わたしたちも、爆発の瞬間にそなえるために魔力を継ぎ足して強化します。
そして、その手応えを感じたその直後。
世界は白く塗りつぶされました。
音も感じない、光からもたらされる衝撃が、
次々に結界を食い破るのを、恐怖と共に自覚します。
でも。
かろうじて
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