絶世の美人。という以外表現のしようのない人でした。
長い金髪に翠色の瞳、染みも曇りもない白い肌。
そして、人でないのは。
惜しげも無く晒した全裸の背中から異形の美しさをもって広がる、
蝙蝠の羽でわかります。
彼女は、わたしたちに包囲されますが。
「戦う意志はないわ。さすがというべきね」
艶然とした笑顔を、わたしたちに向けたのです。
「それにしても蚩尤を一撃で葬る侍に、
時間差を計算して同時にジンをしとめる忍者。
そして我らにとって
崩壊と消失さえもたらす危険極まりない剣の持ち主たる君主か。
素直にあの姉妹をさっさとのっとってしまえば侵入口は開けたのに、
あの「女王陛下」の「妹を地上の依り代として
世界を掌握する」ことにこだわった無益な指示のおかげで、
こんな強大なものたちを招き寄せる結果を招いたのだからな」
しかし、その言葉には、美しい声の中身としては歪んだものがありました。
「交渉を試みようか。そなたたち、
姉妹とこちらの世界を引き替える気はないかの?」
「どういう意味だ?」
剣を抜いた律さんに。
「われらが仮初の主は、
あの姉妹を支配ないし完全に乗っ取ることでこの世での実体化を可能にし、
そなたたちが神とよぶ存在に復讐をはたすことを望んでいる。
いまのままでもいずれ支配をすることは可能だが
時間がかかりすぎる。
そのことがどうにも不満らしくてな、矢の催促だ。
自らが決定的な存在ではなく、一時的にわれの主人たる
「ベール=ゼファー」さまを含めた6人の王たちを
従えているだけにすぎない以上、
焦る気持ちはわからなくもないが、
しょせんは神に間の抜けた手段で倒された女というべきではあろうな」
事情ははっきりしません。が。
「向こうは一枚岩ではないのね」
紬さんが、小さくつぶやきました。
「ふむ。強いだけではなく飲み込みが早い存在もおるのか。
それにしても美しい女たちだ。
われと共に生き、われの主に仕えれば、
老醜も死の腐敗からも逃れて永遠にその美貌を保つこともかなうのに、
その意思がなさそうなのが残念だな」
どこまで本気かはわかりませんが。
普段人一倍「美貌」にうるさい・・・ごめんなさい・・・さわ子先生も、
そんな誘惑に乗る気配はないようでした。
「ふふふ、まあよい。
妾からはひとつおぬしたちに問いたいことがあるのだ」
「味方につける。あるいは敵として今すぐ滅ぼすではなくてか?」
「ふん。現状ではどのみち我らが全力で進出はかなわぬ。
なぜわれらのなかでも実力がある者たちが直接そとにでることをしないのか、
それくらいは察しているかと踏んでいたのだが」
それはよい。
「そなたたちはこの世界を支配していると認識しておるようじゃが、
この世界そのものはそもそも我らが仮初の主の
滅びた肉体を活用したものとも言い換えられる。
そしてそなたたちは主に使役される奴隷としての役割を担うはずだった。
しかし「神」に介入され、
主によって創りだされた者たちもその運命からのがれ、
神が創りだした者たちと交わることによっていまのそなたたちになった。
ついでに指摘しておこうが、
そなたたちはいずれにしても
「神」ないし「主」の趣味としてその姿をもっているに過ぎぬ」
沈黙を持って答えるしかありません。
「そこでだ。そなたたちにこの世界の支配権を渡す。
そういう選択肢はありえぬかとな」
・・・。
「そなたたちの力はすでにアルマールの面憎い女たちを超えつつある。
そなたたちがその気になれば、
あの街を逆に手に入れることはそれほど難しくはないとみる。
最初の奇襲に成功さえすれば
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