第4話

-5時間目授業-

さすがにあんなに段ボールを持った後なだけに腕がジンジン痛い
(たぶん明日の朝には筋肉痛になってるかも… )
でも、なんだかそれも嬉しい

黒板の文字や教科書の四角い文字などには全く興味はなく、あるのは私たちの部活のことと、腕の痛みと、ほんのちょっとの眠気だけ
そんなことを思って外の景色を見ると、一人でにやけてしまう自分がいた
たった一日でこんなサプライズをくれた当の本人は私の前の席で幸せそうに居眠りを堂々としてやらかしていた

***
-放課後-

帰りのホームルームが終わるやいなや、私と灯はカバンを持って駆け足で部室へと向かった
途中、周りの生徒からの冷たい視線がちらつく中
子供のように一緒に横で走る発案者の灯と、ばかみたいに浮かれた顔の私とで
もうお互い何がそんなに楽しいのかも分からないほど、笑顔がこぼれ落ちちゃいそうなくらい口元がほころんでいた

4階への階段をバタバタ駆け上がり息をきらし教室へ着くと、すでにひよりが一人段ボールの片付け作業をしていた

「はぁはぁ… ひより 早いねっ 」
「あらあらっ ゆりちゃん 灯ちゃんも大丈夫ですか? 」
「はぁ…っ めっちゃゆりと走ってきてしまったんさっ 」
「ふふっ そうだったんですか 」
ひよりはいつも以上に優しい笑顔で答えてくれた

バタンッ!
そのすぐ後に続けて私たちの後ろのドアが開いた
「はぁはぁ… 遅れましたですっ 」
「あらあらっ 有珠ちゃんもですか ふふっ」

すぐさまカバンをドサッと辺りに放り投げると、細い華奢な腕でまた段ボールを持ち上げる
お昼休みの時間に移した分の残り半分弱の段ボールと、イスや行事用品をまた隣の隣の教室へ移す作業を続ける

放課後の校庭に響く賑やかな部活動の声
そんな景色を4階から眺めながら私たちもまた、新しい部活動の掃除を黙々と進めていく

…………

30分も作業を続けると、途端に額が汗でびっしょりになり、前髪に至ってはペッタリおでこにくっついてしまう
教室を何往復もする間
たまに階段に座ってずる休みをしようとする灯を捕まえて

紺色のカーディガンがとっても暑そうな上機嫌に鼻歌を歌うひよりに

自分と同じサイズ程の段ボールを必死に運ぶちっちゃなちっちゃな有珠ちゃん


………

薄っぺらい夏服のブラウスを汗でほのかに透かし
喉が渇いて、ふと廊下に付いてある錆びかけの水道を捻る
いつもあんなにまずいと思っていた学校の水道水
蛇口から流れ落ちて夏の光りに反射すると、こんなにも水色が綺麗に光って見える
水の匂いに涼み癒され、口へとつけた水道水も今日だけは特別喉に潤いを感じさせてくれた

………

静かに時間は流れ
あんなに部室の中を占領していた段ボールも残り数個になって、灯とひよりが最後のイスやらを外に出していたころだった

「今 何時頃かな? 」
「にゃぅ?? 」
すぐ横にいた有珠ちゃんから猫な返事が返ってくる
すっかり掃除に夢中になりすぎて今の時間が何時なのか忘れてしまっていた
カチッと携帯を開き、デジタルな文字の時計を見ると7時過ぎを示していた
(3時間以上も掃除してたんだ )
ハッと辺りの空を見渡すと
気がつけば、窓から茜色の空が覗かせていた
所々に暗い灰色が混じったような夏独特の日没空へと変わっていた

山積みの段ボール、重ねられたイス、わけのわからない大きな物、
教室全ての物を移動し終えたところで、とうとうやっとこの教室の一望を見ることができた

本当にやっと…
やっとここからがスタートの私たちだけの教室

「地味に広いね 」
「め
次へ
TOP 目次
投票 感想
まろやか投稿小説 Ver1.30