第5話


日も落ちて、今日もまた街が夜の姿へと変わりつく頃

四人は小さな部屋の中にいた
高校生になってから友達など呼ばれたことのない小さな秘密を隠し持つ部屋
しかし現在、そこはこんなにも友達でうまっている
こんなにもくだらない話しで安らいでいる
そう…
そことは紛れも無い、なんらいつもと変わらない私の部屋

「ゆり、さっそくだけどアレ 見せてもらっても平気? 」
灯の真剣な声が静かに部屋の中に響く

………
「ぅん 」
自分自身、ちゃんとみんなに見せれるよう気持ちを整理して
しばらくして…静かに一人立ち上がる
全開に開けていた部屋の窓を閉め、外からは絶対に中の様子が見えないようカーテンまでも閉める
そして…、リリスがしまわれている押し入れの扉の前へと立つ
毎日変わらずあり続けるこの空間…

細い指先でそっと扉に手をかける

(……… )
ドクン…ッ
左胸の奥の心拍数があがる
じんわりと冷たい鉄のように冷めた指が扉をじわじわと開けてゆく
異質などんよりとしたほの暗い空間の中を小さく覗いてみると

「……… 」
一糸まとわぬ姿でひっそりと無造作に横たわるリリスの姿がそこにはあった
しまい込んだまぐろの…死体

暗闇の中で凝らした目が、強烈なリリスの眼球と合う
それだけで、半分まで扉にかけていた指が震えているのが自分自身わかった

「……っ 」

「ゆ、ゆり…? ごめん、やっぱりまた今度でも全然大丈夫だよ? 」
「だ、大丈夫…っ 三人にも私の痛み 見てほしいから… 」
全体がようやく見えたリリスの、ちょうど尾びれとの細く掴みやすい付け根の部分を左手で握り
そのまま
押し入れの荒い木の床から、ザザッ…っと床とを擦りながら三人の前へとさらす

「これが…リリス これが…私の痛み…だよ 」

この世の女子高生が持つはずのない異質な物体を前に
その場にいた誰しもが声を失った…

………
……
「本当に…あったんだ 」

そんな空気を破ったのやっぱり灯だった
「ゆりの…痛みなんだね、これが 」
「ぅん…そうだよ… 」
「ウィッチも同じ? 」
「…たぶんね」

私の身長、152センチと同じほどもある身の丈ほどのまぐろの大刀、リリス

背にかかる深い蒼は綺麗な紺色を染まらせ
蛍光灯の光をも反射する純白のフォルムをまとい、なんとも美しい…死体の凶器

これは紛れも無い
あの日、あんなに苦しみもがきながら死んでいった中学生だったころの私の死体なのだ
誰がわかるというのだろうか…
暗い暗い海の真ん中にぽつんとひとりだった堪え難い恐怖と絶望感
もうだめだと涙さえ流せば、それすら恐怖に変わり
呼吸を求め…海水を飲み込み、身体を何度も波に叩かれ、どれだけ生きたいと願って…沈んでいったことか

無惨な…本当に無惨な…
‘私の死’そのものが‘コレ’なのだ

「ゆり…?」

(ビクッ…!? )
ふと、灯の私を呼ぶ声に正気に戻ると
私はひとり、三人の前とも関わらずまた呆然とあの日を思い出し立ち尽くしてしまっていた

中学生のころに覚えてしまった…
死ぬ、という事を…

「ゆりちゃん…ごめんなさい 」
「ぅ、ぅぅん…大丈夫… ちょっと思い出しちゃっただけだから」
「それならよろしいのですが…  あの、もし本当に苦しいときはいつでも私たちに相談していただいて構いませんからね? 」
「ぅん…本当にありがとう ひより」

…………

「ゆりさんっ、一つ質問いいですかっ 」
「質問? どうぞ 」
有珠ちゃんが空間を変えようとしてくれたのだろうか
変に力の入った声でそう私に問い掛けた
「どうしてゆりさん
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