第7話

-9月9日-(火)-

「ふぁ… 」
部室の窓辺に両手をかけ
あくび交じりのため息ひとつが窓からすっぽり落ちた

4階から見える朝の駅前を見つめながら、ふと携帯の時計を見る
現在、朝の 7時5分…
(きっとみんなまだ寝てるよね…、遅刻ぎりぎりの灯なら絶対にだよね )

誰もいない、静まり返った校舎…
いつもなら、私は決まって7時45分に家を出る

それなのに今日に限っては、慌てて制服に着替えて朝から家を飛び出してきてしまった

はっきりとした理由などなかった…
ただ昨日の事、警察が N.M.C. を結成したこと

高校生になって恥ずかしいかもしれないけど
それが関係したのか、今朝は久しぶりに悪夢と呼べるものを見た…
孤独が怖くて…っ
目覚まし時計のアラームより先に早く起きた朝
第一声に街から響いてきたパトカーのわめき立てる声や、雑踏の車の音は、私には悪夢交じりの恐怖の他なかった…

(また家に警察が来ないかなぁ )
そんなことをもやもや膨らませると
いつもの街が表情を変えた気がして…
いてもたってもいれず布団から這い出して乱暴に制服に着替え
そして気がつけば、こんな時間から走ってたどり着いたここでため息をこぼしていた

ここにいる理由がそんなことだなんて三人が知ったら
(…きっと笑われちゃうかな )

………
「掃除でもしてようかな 」
誰に言うわけでもなく、一人ぼっちの部室に呟く
水道で濡らした雑巾で床や辺りを拭きながら、邪魔にならないように髪を後ろに結わいて、昨日と同じ、いわゆるポニーテール姿になる
…実は昨日からこの髪型が気に入ったりしていた

からっぽの学校の静かな空気の澄んだものは独特である
今日も真夏日になるはずのジリジリした天気なのに
どこかひんやりとした空気が溜まる

窓を拭きながら、思う
本当に私たちはウィッチを捕まえることなどできるのか…

掃除をしながら意味もなく後ろを振り向いたりして…

…………

***
昨日片付けた部室だけでも、すでに十分使えるものになっていた
ただ少し床や窓に小さな汚れや埃がちらつく程度で、私ひとりで30分も掃除を続けるとあっさりと終わってしまった

「綺麗になったかな 」
教室の木の床、白い壁、ちょっとだけ高い天井
そして校舎の最上階の隅に孤立したため、ここは両側が窓になっていた
両側の窓を全面全開にすれば、そよ風がそのまま通り過ぎてゆく
そして、ここはまるで部屋が飛んでいるんじゃないかと思えるほど景色がいい
右の窓からも左の窓からも一面の青空が広がっている

「ふぅ… 完成したんだね、私たちの秘密の部室っ、軽音楽部っ 」
子供のころ秘密基地を作ったときのようなワクワクした気持ちが舞い戻る

「ぅぅ…でもやっぱり今日も暑いなぁ 」
うっすらブラウスにも汗を含ませていた

一段落して、灰色に汚れた雑巾を洗いに水道に行く
雑巾をじゃぶじゃぶ洗いながら外の校庭の様子を見ると、もうすでにまばらに生徒が登校してきていた

………
……
まったりとした空気が流れる朝の校舎の一角の

そのときだった…!

「めっちゃ綺麗になってるさぁーーっ!! 」

…ビクッ!!?
(な、なに今の声??… )
静かな校舎が揺れるほどぴりぴり響いた声のするほうにばっと頭を向けた
(部室の…ほうだよね? )

慌てて叫び声の聞こえたほうへ走って戻る

するとそこには
「ぉーっ、嫁がいるー オハヨー 今日は早いんさねっ 」

(…はぁ…なんだ )
「…灯かぁ、もうびっくりしたなぁ、おはよう てか…嫁じゃないし 」
「ぃやーっ、だって
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