第8話

-‘selling day’-


私たちは本当に偶然だった

一度の死を経験し、人とは思えない冷めきった体温と異物を与えられてしまった者

そんなどうしようもない冷めた人間を同性とも関わらず好きになってしまった、いわゆる…レズビアンとして生きる者

過去に酷い失恋を経験し、傷は癒えず、最後には接触障害という重度の病気だけを引き継がされてしまった者

学校を編入してままならないというのに、髪の色に瞳の色…見た目の偏見に、理不尽に…いじめ行為を受けている者

愛されて、裏切られて傷ついて悲しんで苦しんで…だから、笑いたくて

声に出さずとも、誰もが小さいながらに今を変えたいと願っていた
勝手にそっぽ向かれたこの‘聖蹟桜ヶ丘’という街で…
わけもわからない苦い敗北感の中で…
友達もいない学校で長い長いずっと孤独を抱きながら

けれど今
― もしかしたら 変えられるかもしれない ―

そう思えるスタートラインまでようやくたどり着いたんだ

なんとなく透かした街と、くすんだ景色と、食い違えた衝動が交差するとき

そんな私たちの遅い9月の夏物語ははじまったのだ

どんな過酷な状況が目の前に立ち塞がっていても、どんな忘却の中の涙でも、私たちは選択することができる

その最初の一歩を、一番簡単なことをするか、一番難しいことをするか
それが正しいか正しくないか …しかし決して間違いと言うわけではない

―― そして、その中には 必ず答えが私たちを待っている ――

悲しみや傷は限りなくなくなることはないけれど…
それなら、私たちが生き続ける理由だってきっとあるはずだ

ただ本人が気がついていないだけで ――


***
-放課後-

ソラの教室

私たちの軽音部部室には、右奥の隅にひとつの古びた小さな扉が備わっている
長い間使われていなかったであろう古びたその扉は灰色にこけ、ギィィと軋み擦れる音を鳴らしながら、開いたその先には

いわゆる‘非常階段’に繋がっていた
どんな学校にも付いているごつごつとしたコンクリート製のぼろい非常階段

屋外に設置された不安定な無限回路のような螺旋階段に、4階から剥き出しの外に通じるそこは私たちには展望台に近かった
下を見れば落ちるのではないかと思う高さにちょっとだけ怖い気持ちになる
けれどそれよりもこんな場所があったことに感動して、校舎の隅の隅、なぜかその狭い場所にちょっと落ち着く気持ちになる

放課後とはいえ、まだまだ暑い夏の青空が広がり、障害物ひとつないその広い広い空が前も横も上にも広がって
高い位置独特の吹くそよ風が私のポニーテールに結わいた後髪をなびかせた

「風がとても気持ちいいですね こんな場所があったなんて巡り逢えて幸せです 」
いつも空を見ているひよりが幸せそうに空を見上げながら語った
「そうだねっ、屋上は行く人は多いけどきっとこんな場所を知ってる生徒は私たちだけだよね 」

私たち四人は、そんな新しい秘密のお気に入り特等席で、ひんやり冷たい不安定なコンクリート階段に一段一段座り込む涼みながら、辺りにお菓子を置いて話していた

お昼休みに結成した-selling day-として相変わらずのくだらない話し交じりで

………
「selling dayと名乗るなら、このチームの三人には4つのルールを守ってもらう 」
灯が四本指を突き出して真っ直ぐな瞳で言った

「ルール…? 」
「そうっ、ルール 」

「どんなルールでしょうか? 」
「めっちゃ簡単なことだよ、あたしらがまた一人で孤独に潰れないための防御でありながら強力
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