「ふう…」

僕は、今

「立派なメイド」

になるための教育を受けていた。

バイブルは…



立派なメイドになるための百八つの技能



ハヤテのご◯く



仮面のメイド◯イ



正直、不安だ…。

「理樹君」

「来々谷さん…」

ピシッ、いきなり僕の頭をはたいてくる。

「何するの来々谷さ…」

「頭が高いぞメイド、君は主のことをさんづけで呼ぶのか?」

「それは…」

僕は答えることができない。



僕のこの状況の発端は1週間前のことだった。
いつものように真人と部屋にいたら、恭介と鈴がやって来て、やたらハイテンションな謙吾が「マーン!!」とか言い出して、それにつられた真人が「筋肉、筋肉〜!!」とか叫んで「おまえらキショいんじゃボケー!!」と鈴がいつもより激しくハイキックを二人にかましてたら……いつのまにかいつものメンバーが揃っていた。さらに珍しいことに、二木さんと笹瀬川さんと自殺に失敗して謙吾に諭されて復活した古式さんの計12人が、僕(と真人)の部屋に押しかけて…まさに溢れかえっていた。
そんなゴチャゴチャになってしまったところに恭介が「スマ◯ラ大会やるぞ」といい始めて、みんながそれにノって、恭介がどこから持ってきたか不明なスマブ◯のトーナメントをやって、いろいろカオスな状況を作りながらの混戦の末……

僕が最下位になり、来々谷さんが優勝した。

……優勝者から最下位へのペナルティの命令が、「メイドになって1日中奉仕する」というものだった。
さらに来々谷さんはそれだけでは飽き足らず、「ここにいる全員にもメイドになって1日中奉仕する」などという条件までつけてきた。
勿論僕は「みんな!男のメイドに奉仕されて嬉しいの!?」と反論したが…なぜかはわからないけどみんなはノリノリで、僕の反論は無視同然。一応来々谷さんに僕がメイドをする理由を聞いたら
「ふむ、理樹君はそんな簡単なこともわからないのか?」
「わかるわけないよ!」
「だったら、教えてあげよう…」
「おねーさんは理樹君のメイド姿が見たかったからだよ!」
そう言われた瞬間、僕の脳内が軽く異次元に飛んでいった…。

――来々谷さんが言うには、真人と謙吾にはメイドをしなくていいらしい。
本当は恭介も外そうとしていたらしいけど、西園さんの強い希望により恭介は外されなかった。
「棗×直枝…ぽっ」
と西園さんが小声で言ってたのを聞いてしまったけど深く追及しないでおいた、というか記憶から抹消しておいた。
そういうわけで9日間、僕は人に尽くす生活をしなければいけないということをしっかりと頭に刻みつけられ、今に至るというわけだった。





回想もかねて2時間が経った。

そして…

「とうとうこの時が来たようだな…」

来々谷さんがフッと不敵に笑う。

「まさか…」

僕はすぐに予想がついた。

「そう、理樹君、君に一流メイドの称号を授け明日から行動開始してもらう」

理樹は【一流メイド】の称号を得た!

「いらないよっ!」

僕は反論したけど来々谷さんは引かない。

「ほう、この称号を拒否するということは今までの苦労を全て無駄にするということだが、それでも拒否するというのかメイド」

「うっ…」

そう言われると僕は何も言えない。確かにこの1週間は来々谷さんの言う『一流メイド』になるための教育を受けてきた。

美味しい紅茶の淹れ方やメイドの作法、料理、掃除、情報戦を生き抜く能力、立派な猫の育て方、本当にこれメイドに必要な能力!?とまで思うものまで覚えさせられたこの1週間を無駄にするなんて…僕にはそんなこと…。

「…わかったよ」

来々谷さんはもう一度フッと笑うと一気にたたみかけてきた。

「では理樹君にはこれを装着してもらう」

「これは…!!」

そう来々谷さんが持っていたのはエプロンドレスだった。

「やはり、メイドならばこれを着なければ締まらないだろう理樹君?」

「うう…」

僕は反論できない…というか、したとしてもすぐに覆されて着せられるだろう。

「フッ、ではこれを着てもらうとしよう。葉留佳君!」

「はいヨ〜姉御〜お呼びですか〜?」

どこからともなく葉留佳さんがやってくる。

「ふむ、理樹君にこのエプロンドレスを着せるのを手伝ってもらおう」

「そんなことこのはるちんにまかせて頂ければラクショーっすヨ!」

「そうか…では理樹君」

「でわでわ〜♪」

そして僕のエプロンドレス装着が開始された。





数時間たって装着が終了したらしく僕に鏡が渡された。

そこに写っていた自分を見て唖然とした…!

「こ、これが……僕……?」

胸には蒼いブローチが付いたピンクのリボン、黒と白であしらわれたメイドの象徴とも言えるエプロンドレスを来て、頭には白いカチューシャ、エクステンションで髪は長くなり耳にはピアス…の代わりにイヤリングをつけられ、口紅などの化粧をした僕がそこに写っていたのだから…。

来々谷さんと葉留佳さんはその様子を僕を見て満足そうにしている。

……自分で言うのも難だがかなり可愛い……。

嗚呼…天国の母さん、僕はもうお婿にいけなくなるかもしれません。

「はっはっは、明日から頑張ってくれたまえメイド君」



かくして明日から9日間、僕はメイドとして生きていくことになったのであった。







番外

「けど来々谷さnゴホッゴホッ来々谷お嬢様」

「なんだね、メイド君」

「なぜあの状況で勝てたのですか?」

あの状況でというのはスマ◯ラのことだった。

その時の状況は、



謙吾対笹瀬川さん対古式さん対来々谷さんだった。



はっきり言って来々谷さんの勝利は絶望的だと思われた。だが、来々谷さんは勝ったむしろ圧勝に近い勝ち方だった。



「それはだな、あの全員がワンパターンだったからだ」

「と言いますと?」

「思い出して見るといい、謙吾少年はア◯ク、古式女史はリ◯ク、笹瀬川女史はネ◯だったろう?」

「そうですね」

「だったらもうメイド君も気がつくだろう?」

「あっ…!」

「そう謙吾少年はア◯クの剣しか使わず、笹瀬川女史はネ◯のホームラン◯ットしか使わず、古式女史はリ◯クの弓しか使わずのワンパターンだった、そこをつけば楽に勝てる、それに」

「それに?」

「笹瀬川女史と古式女史が勝手に自滅してくれたからな、実質おねーさんが相手をしたのは謙吾少年だけだった」

「そういうことでしたか…」

「なんだねメイド君、そんなに顔をひきつらせて?」

「いえ、何でもございません」

「違う!!何でもございませんわ(はあと)だやり直し」

「ええー!?」

「メイドとしての教育が足りないようだな、あと1週間は教育が必要k」

「ああーもうわかったよやるよ」

「ああ言うがいい、(はあと)もつけ忘れてはいかんぞ」「うー…な、何でもございませんわ(はあと)」

「そうだ、それでいい」

「うう、僕の男としての貞操が…」



来々谷さんを敵にするのやめようと夜空の星に誓った今日のこのころ。





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