■4月21日(月)
お天気 晴れ

井ノ原さんとリキが二人で「筋肉、筋肉」と言いながら踊っていました。
とてもお二人とも仲良しで、見ている私まで楽しくなってしまいます!

あ、そうなのです!
佳奈多さんに夜ご飯を振舞ったのですが「クドリャフカの高野豆腐の煮付けは薄味だけど…とても愛情がこもってるわね」だそうです!
佳奈多さんの嬉しそうな顔を見れてしまいましたっ!



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■4月22日(火)
お天気 晴れのちくもり

休み時間に井ノ原さんとリキが腕立て伏せをしていました。
リキは12回でぎぶあっぷしたのですが、井ノ原さんは何と100回を超えても普通の表情で続けています!
私が横で応援していると、井ノ原さんが「クー公、オレの背中に乗ってみろ」と言うので恐る恐る乗ったのですが…。
それでも平然と腕立て伏せを続けていました!!
しかも「クー公、軽いな」だそうです。わふー、うれしいのですっ!
井ノ原さんの背中は広くて、とても逞(たくま)しいのです。

お昼休みは、井ノ原さんとリキが教室でパンを食べるそうなのでご一緒させてもらいました。
井ノ原さんは私が玉子焼きを一口食べる間に…もう食べ終わっています!
「……食った気がしねえ」と不満げな顔です。
「宜しければどうぞ、なのですっ」とお弁当を差し出すと「お、悪いな」と井ノ原さんはパクパクと全部平らげてしまいました!
本当はおかずを2つ、3つのつもりだったのですが……。
けど、井ノ原さんは何度も「おいしい、おいしい」と言って、とっても嬉しそうでした!
「明日から毎日頼むぜっ」と井ノ原さんが言うので「はいっ、井ノ原さんの分も作ってきますっ」とお答えしたら、とても驚いていました。
どうやら冗談で言ったつもりだったようです。
お料理は大好きですし、人にも食べていただきたいので…明日からは少し早起きをして井ノ原さんのお弁当も作ろうと思います!

はっ、英語の宿題が出ていたことをうっかり忘れていましたっ!
わふー…今からやらなければいけません。
今日はここで筆を置くとします。



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■4月23日(水)
お天気 快晴

クドリャフカお手製玉子焼きーっ
タコさんウインナーっ
昆布巻きーっ
ハンバーグーっ
きんぴらごぼうーっ
ウサちゃんりんごーっ
そして!
かーまーぼーこーっ
腕に縒(よ)りをかけてお弁当を作りましたっ!
それと最後の仕上げです。
実は、こっそりと井ノ原さんの好物を宮沢さんに訊いておいたのです。
ご飯に井ノ原さんが大好きなのりたまもたっぷりと振りかけましたし、これで準備万全ですっ。

お昼休み。
「ホントにいいのかよっ!?」と言う井ノ原さんに「はい、どぞどぞ、井ノ原さん」とお弁当を差し出しました。
井ノ原さんの反応が楽しみですっ。
「いっただきまー……うおっ!?」
わふー、お弁当の蓋を持ったまま目を丸くしていますっ! 喜んでいただけたでしょうか?
「って、のりたまだらけじゃねぇかっ!?」
おかしいです!? 井ノ原さんはのりたまが大好きと言うのでいっぱいかけたのですが…嫌そうな顔をしていますっ!?
「宮沢さんから、井ノ原さんがのりたまが大好きと訊いたのですが…」「そりゃ謙吾の好物だ」って!?
ガーン!?
…どうやら宮沢さんは間違って自分の好物を教えてくれたようです。
しょんぼりです。
ですが、顔を上げると…井ノ原さんが「こ、こりゃうめぇっ!」とすごい勢いで食べていました!
特にクドリャフカお手製玉子焼きがお気に召されたようです。
「こいつは、カツ3切れと交換してもお釣りが来るぜ」だとか!
井ノ原さんの好物はカツだそうです!
情報入手、なのですっ。

って、お野菜を全部残していますっ!?
どうすれば野菜嫌いの井ノ原さんも美味しくお野菜を食べてくれるのでしょうか……。



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■4月24日(木)
お天気 またまた快晴っ

「クドリャフカ、重箱なんて持ってどこへ行くの?」
朝、こっそりと部屋を出ようとしたのですが佳奈多さんを起こしてしまいました。
私が井ノ原さんにお弁当を作っていることを説明すると、佳奈多さんは「あなた、もしかして……」と怪訝そうな表情です。
「どうしたのですか、佳奈多さん?」と尋ねると「自分で気付いていないのね」とクスっと笑っています!
「わ、私は何かおかしなことをしているのでしょうかっ!?」と訊いたのですが「私も手伝うわ、お弁当作り」と着替えを始めてしまいました。
何やら、はぐらかされた気がします……。

さすがは佳奈多さんなのですっ!
テキパキとおいしそうなさいどめにゅーが出来上がっていきます!
タコさんウインナーに至っては……うねる足や吸盤、ぐったりとした頭まで見事に再現されていて、とてもリアルなのですーっ!
私は、めいんのカツサンド作りですっ。
野菜嫌いの井ノ原さんでも、大好きなカツと一緒なら食べられるのではないでしょうか!
タレはお味噌べーすでいこうと思いますっ。
八丁味噌と少し砂糖を多めにした甘味噌のタレです!
井ノ原さんは少し濃い味がお好みのようですし。
気に入っていただければ良いのですが。
これをカツにたっぷり塗って、野菜とパンでさんど、なのですっ。
わふー……井ノ原さんの喜ぶ顔が目に浮かびますっ!
「――クドリャフカ、顔がニヤけているわよ」
佳奈多さんがお姉さんのような表情で私を見ていましたっ!
「お、おいしそうに出来ましたのでそれで…ごにょごにょ」
作っているときに、なぜだか井ノ原さんの顔ばかり思い出してた自分が恥かしくて、言い淀んでしまったのです……。
「まあ、いいけど」
またクスっと笑いましたっ!?
き、気になるのですーーーっ!
「さすがに朝からカツとじを作ると、胃もたれしてくるわね」
またはぐらかされてしまいましたっ!

待ちに待ったらんち・たーいむっ!
重箱を見た井ノ原さんの第一声は「うおっ!? でけぇ!!」でした。
「ぜーんぶ、井ノ原さんのですよっ」
私は重箱を広げて、くっつけた机の上に並べます。
「オレは今、カツ・ドリームでも見てんのか……!?」「やべぇ、カツの、カツによる、カツのための宴じゃねぇか…」
井ノ原さんは両手をワキワキさせながら白目で泣いていますっ!
「クー公…最高だぜ」
わふーっ!?
そこまで喜ばれると…とっても恥かしい…のです。
「じゃあ、早速……」「井ノ原さん、いただきます、なのですっ」「お、おぅ、いただきまーすっ!」「はいっ、もりもり食べてください〜」
「カツサンドからいただくぜ」
井ノ原さんが、カツサンドに手を伸ばして――
パクッ!
食べましたっ、井ノ原さんがお野菜を…お野菜を食べたのですーーーっ!!
しかも、
「うめえぇぇぇぇーーーっ!! こ、こいつは……」
「ミ・ソ・カ・ツ・革・命だぁぁぁぁーーーっ!!」
大絶賛なのですーーーっ!!
ひょいパクひょいパク、すごい勢いで井ノ原さんのお口にカツサンドが吸い込まれていきますっ!
「こっちはカツとじ丼か……どれどれ」
佳奈多さんが作ってくれたお野菜たっぷりのカツとじ丼(重箱の下段に作ってもらいました)に箸を進めました。
「こっ、こいつは……」
「カツと卵の肉弾戦だぁぁぁーーーっ!!」
わふーっ! 例えはよくわかりませんが、佳奈多さんのお料理も気に入ったようなのですっ!
井ノ原さんもこれで野菜嫌い克服ですねっ。

井ノ原さんと私の2人でお昼をしているところに、恭介さんたちがやってきました。
「こいつはすごいな…能美が作ったのか?」と恭介さんが興味津々のご様子です。
「はいっ、良かったらみなさんもお摘みください〜」「いいのか?」「どぞどぞ〜」「どれ…」とみなさん、お料理を手にとってくれました。

「このカツサンドはほっぺが落ちそうだぜ……略してザ・カッペーってどうだ?」
「それ、略してないと思うよ……」
「きしょい名前をつけるなっ、馬鹿兄貴っ」
「ふみゃっ! うまいぞ、かっぺーっ」
「ふむ…のりたま無しでここまで美味いとはな」
「謙吾、何にでものりたまかけようとするの止めようよ……。クド、とっても美味しいよ」

みなさんに褒められてしまいましたーっ!
えへへ、なのですーっ!
けど……。
「うっめえぇぇーーーっ」
何故だかはわかりません。
けど、嬉しそうにしている井ノ原さんの顔が一番うれしいのですっ!



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■4月25日(金)
お天気 きれいな晴れっ

聞いてくださいっ!!
えーっと、えーっと。
何から書いたら良いのやら。
ちょっとお茶を飲んでから続きを書きますね。



今、佳奈多さんが入れてくださったミルクティーを飲んでいます。
いえ、それを書きたいのではなくて…!
そうです、聞いてくださいっ。
今日は井ノ原さんとお昼をご一緒しながらお話していたら……!
あさって、日曜日に井ノ原さんと一緒に映画を観に行くことになったのですっ!!
わ、わふーっ!?
どうしましょう!!
わ、私はよそ行きの服もそんなに持っていませんし、おしゃれなあくせさりーもあまり持っていないのですっ。
そのことを佳奈多さんにご相談したら「明日一緒に買い物、なんてどうかしら」と誘ってくださいました!
やっぱり佳奈多さんは優しいのです〜。

先ほど、佳奈多さんに髪を梳(と)かしてもらっているときに「あんなの(井ノ原さんのことだそうです)のどこがいいの?」と訊かれました。
どこ…と訊かれましても、井ノ原さんと一緒にいると……えーっと、言葉に出来ません。
私が困っていると佳奈多さんは
「やっぱり……」
「趣味悪いわ」
ガーン!?
井ノ原さんと遊ぶのは悪趣味だったのでしょうかっ!?


井ノ原さんと観に行く映画は、去年大ブレイクした『ニクノート』の続編『M change the 腹直筋』です。
『ニクノート』は、そのノートに名前を書かれると華奢になってしまうノートを巡る、主人公・夜神筋(“筋”と書いてマッチョと読みます)と探偵・Mが壮絶な肉弾戦を描いたお話です。
探偵Mは、夜神筋が通っている日体大にまで押しかけますが……。
そこで大ファンのガテン系アイドル・天音ムキ(通称:ムキムキ)が夜神筋の彼女と知ってしまい、ドロ沼にっ!
その続きなのですっ!

わふ〜、今から楽しみで眠れるかわかりませんっ!
そういえば今日は金曜日ですので、佳奈多さんと一緒のベッドで寝る日でしたっ!
わふ…ご迷惑をお掛けしないようにしないと。



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■4月26日(土)
お天気 青空さんさんなのですーっ

佳奈多さんと一緒に起きて、お着替えをして朝食を頂いた後、お部屋を後にしました。
そうですっ!
今日は佳奈多さんとお出かけなのですっ!
佳奈多さんとのお出かけは今日が初めてでしたので、それが嬉しくて嬉しくて。
そんな私を見て「随分と嬉しそうね」と佳奈多さんは言いますが、佳奈多さんだって笑顔なのですっ。


今日は佳奈多さんと二人ということもありましたので、いつもは入りづらい大人っぽいお店に突入です。
わふ〜…。
お店には素敵な服や靴がたくさん並んでいますっ! どれにしようか迷ってしまいますっ!
見て回っていたらとても魅惑的なハイヒールがあったので足を通してみました。
わ、わふ〜っ!
足元はもはやオフィスレディなのですーっ!
「これで私も大人の女性の仲間入りですっ」と自信満々に佳奈多さんにお見せしたのですけど「おママゴトしている子どもみたいだわ…」と言われてしまいました!!
ガガガガーン!?
よく見ると店員さんも苦笑いをしているのですーっ!?
だぶるしょっくなのですーっ!!
私はそこまでお子様だったのでしょうか!?
しょんぼりです…。

佳奈多さんが言うには、私には可愛い系の服が似合うそうです。
他のお店のウィンドウを見ながら歩いていた途中のことです。
「能美と二木じゃないか」と呼びかけられて振り向いたら、なんと恭介さんがいました!
恭介さんに可愛い系の話をしたところ「そういうことなら俺の出番だな、こっちだ」だそうです!
さすが恭介さんですっ! 頼りになりますっ!
なんでも、一度私に着けて欲しかった物らしいのです。
どんなものか、わくわくするのですーっ!
恭介さんが「ここだ」と入っていった先は…。

ララちゃんランドセルなのですっ!?

あの冷静な佳奈多さんも目が真ん丸ですっ!
それに比べて、恭介さんの目は少年のように光り輝いていますっ!?
しかも「能美、これを背負ってくれ。おっと、こいつを忘れてたな」と嬉しそうにランドセルの横に縦笛と給食袋をつけていますっ!!
わ…わふーっ!!
私はそこまでお子様ではありませんっ!
「準備OKだ。ちょっと後ろを向いて――」と恭介さんが私に触れようとした瞬間のことでした。
佳奈多さんが脚を動かしたと思ったら……。
鈍い音と共に恭介さんが奇妙に体を曲げながら、まるで木の葉のように飛んでいったのですっ!
「その汚れた手で私のクドリャフカにさわらないでくれないかしら?」と佳奈多さんが私の肩を抱いています!
佳奈多さんはカッコイイのですーっ!


恭介さんとお別れした後(ランドセルはちょっとした冗談だったそうです)恭介さんが紹介してくださった可愛らしい服専門のお店に佳奈多さんと入りました。
可愛らしい服が色々ありすぎて、どれを選べばよいのやら。
迷っていると「私がしてあげるわ、コーディネート」と佳奈多さんがおっしゃってくれました!
佳奈多さんでしたら安心して任せられますっ。
「このフリルのキャミソールと黄色い七分袖のカーディガンなんてどう?」
私の体に様々な服を当てている佳奈多さんの目はとてもキラキラしていますっ。
早速試着してみると…。
わふーっ! 春らしくてとてもとても可愛らしいのです〜っ!
佳奈多さんからも「よく似合ってるわよ、可愛いわクドリャフカ」と太鼓判を頂きましたっ!
けれど「はあ…アレに見せるためだなんて勿体無さすぎるわね」となぜか佳奈多さんはため息をついています。なぜなのでしょう…?

さらにお洋服に合わせて、あくせさりーも新調ですっ!
佳奈多さんと一緒に選んで、この三日月お月様の可愛らしいイヤリングにしましたーっ!
わふーっ、なにやら私もオシャレさんの仲間入りといった感じなのですっ。

井ノ原さんは私を見て何と声を掛けてくれるでしょうかっ!
早く見てもらいたいのです〜。
可愛いなんて言われてしまったら…………わふーっ!


えっと、えーっと、10時待ち合わせですから目覚ましは7時にせっとです。
明日のために今日はもう寝ようと思います。
ではでは、おやすみなさいっ!



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■4月27日(日)
お天気 曇り

井ノ原さんとリキと私で映画を見ました。
井ノ原さんはずっとずっとリキとばかり話をして……その…あの……。
楽しかった……です。



また明日…なのです。




■4月28日(月)
お天気 曇りのち雨

お昼は井ノ原さんとリキと一緒でした…。
二人でとても仲良く私のお弁当をつついていました…。
本当はうれしいはずなのに……よくわかりません。
井ノ原さんの笑顔はリキにばかり向けられていて……。

なぜでしょうか。
その…お二人が仲良くしているところを見るとモヤモヤしてとても胸が苦しいです…。

明日はお休みですし、佳奈多さんにご相談してみようと思います。



また明日…なのです。




■4月29日(火)
お天気 曇天

今日はずっとひとりだったのです……。

佳奈多さんがお家のご用で朝早く出かけてしまいました。


ひとりでお部屋にいると苦しくて寂しくて……。
けど、部屋から出て、あの二人が一緒に仲良くしているところを見たら…。
そのことを考えると胸が張り裂けそう…なのです。



あ、あれ…涙がでてます…。



……。




■4月30日(水)
お天気 よく…覚えて…ないの、です…。

今日はお弁当を……いえ……作るのを忘れてしまいまいました…。


そしたら…そしたら…井ノ原さんはリキと一緒に学食に行ってしまいましたっ。

私は…どうしたら…どうしたら……。

涙が…涙が……とまり…ません



……。




■5月1日(木)
お天気 。










……。




■5月2日(金)
お天気 雨、のち、晴れ

「うあああああんっ! クーちゃんーっ!」
「くちゃくちゃ心配だったぞっ」
「コラー! いつもの元気いっぱいの…いっぱいのクド公はどこいっちゃったのさっ」
「……能美さん、わたしたちで良ければ相談にのりますよ?」
「本来首を突っ込むべきところではないが……見るに見かねてな」
みなさんが私たちの部屋に来てくださったのです。
「これだけいれば心強いでしょう? ね、クドリャフカ」
どうやら佳奈多さんが呼んで下さったようです。
……そう、です。
昨日も、一昨日も佳奈多さんが私のためにお食事を作ってくれたり、声をかけてくれたり、頭を撫でてくれたり…。
…こんなに心配してくださっているのに、私は、私は……。

私は今までのことをみなさんにお話しました。
井ノ原さんと一緒にいると楽しいこと。
井ノ原さんが笑ってくれると嬉しいこと。
井ノ原さんのことを考えると胸がドキドキすること。
けれど……。
井ノ原さんとリキが仲良くしていると胸が苦しくなること。
私といるときよりも、リキといるときの方が楽しそうに見えて…息が詰まりそうになること。
そのことを考えると……泣きたくなってしまうこと……。
話の後半は…涙が…止まりませんでした。

「――それは『恋』というものだ」
私の話を終わって、静かになった部屋に来ヶ谷さんの声が響きました。
こ…い?
こ、恋!?
「わ、私はもしかして……」「そうよ、あなたは井ノ原真人に恋をしているの」と、佳奈多さんがハッキリと私に告げました。
「これが……恋、なのですか…?」
イメージと全然違います…。
もっと楽しいのではないのでしょうか…? こんなに、こんなにも苦しいのでしょうか…?
「……恋は、その人といるだけで幸せで、胸が踊り、全てのものが美しく見えさえします」
西園さんの真剣な眼差しが私を捉えています。
「ですが、人を好きになるということはとても苦しいことでもあります」
「人の心は見ることが出来ません」
「もしかしたら、その人は違う人が好きなのかもしれません」
「もしかしたら、もう誰かとお付き合いしているのかもしれません」
「もしかしたら、その人はわたしのことを疎(うと)ましく思っているかもしれません」
「もしかしたら……」
「挙げると切りがありません。しかし…その不安は頭の中で堂々巡りしてしまうのです」
西園さんのおっしゃる通りなのです…。
私もずっとそのことが頭の中でぐるぐると渦巻いていたのです…。
「恋で何よりもつらいのは嫉妬…つまりヤキモチ、ね」続いて隣に座っている佳奈多さんがおっしゃいました。
「ヤキモチは漫画で表現されているような滑稽なものではないわ」そうおっしゃる佳奈多さんのお顔は…どこかつらそうです。
「例えば好きな人がその相手と出かけてしまったとき…苦しくて、つらくて、けどどうしようもできなくて…胸が焼けてしまいそうになるわ」
……。
まさに私のはそれでした。
井ノ原さんとリキが一緒に行ってしまわれたとき…もう胸はズタズタだったのです…。
私は…リキにヤキモチをやいていたようです。

私のこの気持ちの原因も理由もわかりました。けれど――。
私はどうしたらよいのかと、みなさんにお伺いしました。
その問いに対して、来ヶ谷さんがおっしゃいました。「――恋とは心と心を紡ぐことだ」と。
「ひとりだけで考えても、そこからは何も芽生えもしなければ育ちもしない」
「まずは相手との距離を縮めることだ……たとえどんな壁があろうとも、な」
「遠目の後姿ばかり見せていたのでは、どんな馬鹿も振り返ってはくれないだろうさ」
…………そ
そうなのですっ!
ひとりで考えても何も解決しませんっ!
井ノ原さんだって、自分から逃げてる女の子を好きになってくれるはずがありませんっ!

私が自分の気持ちに気付いたからでしょうか。
それともみなさんとお話したからでしょうか。
なんだか今まで胸につかえていた物がなくなったような感じがしますっ!

「私、井ノ原さんに振り向いてもらえるように頑張りますっ」と私はみなさんの前で決意表明をしましたっ!
「けどあの理樹くんがライバルですヨ。万里の長城より大きな壁――」
そこまで言った三枝さんは、佳奈多さんから延髄チョップを受けグッタリとしてしまいました。
たとえリキがらいばるだとしても私は一生懸命がんばるのですーっ!


あ、そうそう、なのです!
明日は私が元気になった記念として――なんとっ!
遊園地に行くこととなったのですーっ!
わふーっ! 遊園地なんて久しぶりなのです〜。

みなさんには本当にご迷惑をお掛けしてしまいました。
けれど、みなさんのお陰で私も少しは成長したのかもしれません。
感謝してもしきれないほどなのですっ!



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■5月3日(土)
お天気 雲ひとつないお天気なのですーっ

わふーっ!!
びっくり仰天なのですっ!
どれくらいびっくり仰天かと言いますと…………とてもびっくり仰天なのですーっ!

はーふー、はーふー。はっはっふー。

ちょっと落ち着いてからまた日記を書き始めますね。




佳奈多さんがしっとりクッキーを作ってくださったのですーっ。
今、それを頬張りながら日記を書き綴っています。
ほっぺたが落ちそうなのです〜。
あ、そうでした!
それを書こうと思っていたわけではないのですっ!
今日のことを順を追って書こうと思いますっ!


今日はみなさんと遊園地に遊びに行くということでしたので目覚ましをかけて寝たのですが…なぜか鳴りませんでした。
わふー!! この時間ではみなさんの待ち合わせの時間に間に合わないのですっ!!
しかも佳奈多さんもすでにお部屋を出てしまったようで……。
きっといつまで経っても起きない私に業を煮やして行ってしまわれたのですっ!!
昨日あんなにみなさんに良くしてもらったのに、申し訳なさすぎなのですーっ!!
半べそで慌てふためきながら準備をして、急いで遊園地に向かいました。

けれど、遊園地についても誰もいません。
私がうろうろとしていると突然後ろから「ようっ!」と声を掛けられたのですっ!
こ、この声は……っ!
後ろを振り向くと、そこには……そこには……
包帯ぐるぐるのミイラ男が立っているのですーーーっ!?
私は逃げようとしたのですが、ミイラ男に捕まえられてしまいましたっ。
命を覚悟しました…。もはや私の頭の中では走馬灯のように人生の名珍場面が駆け巡っていました。
けれどミイラ男は「クー公、オレだって、オレっ」と私に訴えかけてくるのです。
よくよく見ると――。
な、なななななな、なんとっ! 井ノ原さんでしたっ!!
どうして包帯ぐるぐるなのかとお伺いしたら、なんでも今巷で大ブレイク中らしいのです!
私が落ち込んでいる間に時代は目まぐるしく変化してしまったようです。私もやはり包帯や眼帯をするべきなのでしょうか!?
その後、みなさんに連絡をしようとしたのですが――。
『ごめんなさい、偶然だけど全員に予定が入ってしまったの。だから今日は行けないわ』
『仕方がないから、今日は二人だけで楽しんできなさい』
「――って、二木が伝えてくれだとよ」
井ノ原さんがほっぺをポリポリと掻きながらそうおっしゃいました。
…………もしかしたら、みなさん…………。


「クー公っ! まず何に乗るっ」「こーひーかっぷ、なんていかがでしょう!」「おっしゃぁぁぁー!」「おーっなのですーっ!」
最初はコーヒーカップに突撃ですっ!
コーヒーカップは家族連れの方々が微笑みながら乗れる、よくあるアトラクションのひとつです。
ここのコーヒーカップは、真ん中のハンドルを回すことによって、よりあぐれっしぶな回転を楽しめる優れものなのですっ!
「うおおおおおおおおっっっりゃあああああああああーーーっ!!」
井ノ原さんの咆哮と共に
ぐわあん、ぐわぁん、ぐわん、ゥワン、ワンワン、ウワンワンワンワンワワワワワワワワワワワワァァァァァー!
コーヒーカップがありえない速度で回転を始めましたっ!
「わわわわわわわっっっっっふふふふふふふーーーーーーっ」
スゴイのですーーーっ!!
今まで体験したことのないほどのGなのですーっ!!
あまりのGに腕すら動かすことがままならないほどですっ!!
これは楽しすぎるのですーーーっ!!

降りた後は私も井ノ原さんも、目がグルグル回って10分ほど身動きが取れませんでした。
休憩している間も二人で笑ってしまって笑ってしまって…お腹がとてもくたびれてしまいました。

続いてお化け屋敷なのですっ!
お化け屋敷も笑ってしまって笑ってしまって……もうとても大変だったのですっ。
だって聞いてくださいっ!
暗い道を歩いていたら、突然落ち武者さんが「うわらばー」と天井からぶら下がってきたのです。
井ノ原さんといったらそれにすっかり驚いてしまって!
その落ち武者さんをそのまま掴んで筋肉バスターを食らわせてしまったのですーーーっ!
けれど落ち武者さんは心の広いお方で
「まさか筋肉バスターがくるとは思わなかった。だがそこまで驚かせることが出来た自分を誇らしく思う」
と、終始大人の対応だったのですーっ。

お昼も過ぎて。
「井ノ原さんっ、井ノ原さんっ! 次はふりーふぉーるなんてどうでしょうかっ!?」
「わふーっ、ミッチーマウスとドナルドさんがいますっ! 私たちも一緒にらんらんるーしましょうっ!」
「井ノ原さんっ、井ノ原さんっ! あの風船、あの風船は何でしょう!? 購買意欲がそそられるのですーっ」
「おいおいクー公、そんなに引っぱるなって」
その井ノ原さんの言葉でハタと気づいてしまいましたっ!!
わ、わふーーーっ!?
私…私…いつの間にやら井ノ原さんと腕を組んでしまっていたのですーーーっ!!
こ、これは――チャ〜ンス、なのですっ!!
あえて気付かないフリをしてそのまま…ずーっと井ノ原さんと腕を組んで遊園地中を練り歩いてしまいましたっ。
これは傍から見たら、恋人同士にしか見えませんっ!!
えへへへ〜、なのです〜。

お日様も西へ傾き始めました。
お腹がすいて何を食べるか相談したのですが、1なのせかんどで焼肉食べ放題に決定しましたっ!
井ノ原さんの食べっぷりはやはりすごいのです。
こっそりとお肉とお肉の間に玉ねぎを挟んだりしたのですが、それに気付かずに食べてしまっていますっ。
私もデザートまでいただいてしまいましたっ!
満腹になって、座りながら今日のお話を井ノ原さんとしていたはずなのですが……。
どんどん…まぶたが重くなってきて……ねむねむ……
…………。
……。
気付いたら自分の部屋のベッドに寝ていたのですっ!!
どうやら私は遊び疲れて眠ってしまったようです。
佳奈多さんがおっしゃるには、私は井ノ原さんにおんぶされて戻ってきたそうです。
わふ〜…まったく覚えていないのです。
後で井ノ原さんにお礼を言わないといけませんっ!


「今日は…楽しかった?」
「はいっ! とてもとても楽しかったのですっ!」
「これも佳奈多さんたちのおかげなのです〜」
「あら、私たちはただ『何もしなかった』だけ」
「楽しめたのなら、それはあなたが一歩を踏み出すことが出来たから…じゃないかしら」
「そ、そうでしょうか――えへへ、なのです」
「やっぱり……」
「あなたには一番似合うわ、笑顔が」
わふー…。
撫で撫でしてくれる佳奈多さんは、本当にお姉さんみたいなのですーっ。



とぅー・びー・ねくすと・だいありー、なのですっ




■5月4日(日)
お天気 雨降って地固まる

わふーっ!!
昨日の様子をみなさんに見られてしまっていたようですっ!!
用事があると言ったのに、こっそりと私たちを着けていたようです!

そ、それで……みなさんにお伺いしたのです。
わ、私たちが……その……あの……恋人同士に見えたかどうかをっ!

そしたらみなさん口を揃えておっしゃいました。

『大木にしがみついたコアラみたいだった』

ガガガガガガーーーン!?



FIN、なのですっ




■あとがき
by m

みなさん、こんにちは! 作者のmです。
「クドの日記」は日記調に物語が進む少々風変わりなSSです。
一日一日の日記から、その日のクドの様子や、どう思ってどう感じているのかを考えながら読んで下されば良いかと思います。
楽しんで頂ければ幸いです。

クドの日記のテーマは『初恋』です。
初恋の芽生え、浮かれっぷり、そして想えば想うほど相手が遠くなってしまう苦悩を、クドの目線を通して追体験していただきたい…そんなことを考えながら書き綴っています。
みなさんご自身のかつての甘酸っぱい思い出を記憶の底から引っ張り出して読んで頂ければ(笑)

途中から真人が冷たくなったように感じると思います。
しかしSSの前半を読んで頂ければわかりますが、真人の行動は最初から一切変わっていません。
変わったのは真人に対するクドの見方です。
真人の接し方は以前と変わっていないのですが、恋に落ちたクドは自然にもっともっとを望んでしまいます。
その自分の心境の変化に気付いていないクドは、まるで自分が相手にされていないような不安に囚われてしまっています。
真人と理樹の関係も全く変わっていないのに、それがとても羨ましい、そして疎ましい光景としてクドの目に映るようになったのです。

最後に、このSSにはもうひとつの恋を忍ばせてあります。
お気づきの方も多いかと思います。
この恋は決して報われることのない悲恋として描いています。
本人も実ることのない恋だと気付いています。気付いているからこそ、自分がどうあるべきか…それをわかっています。
彼女は相手の笑顔のために、つくすことに決めたのです。
それもまたひとつの恋の形でしょう。
『愛(いつく)しみ』――こちらのサイドテーマです。