連載小説
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第1話 -騒がし乙女が遺したモノ-
 照りつける太陽は、いつしか肌を撫でる程度になっていた。
そればかりか寒い。凍えるほどではないにしても、だ。
温かい飲み物が恋しい季節なのに、この墓地がある公園の自販機は、
田舎特有なのだろう。未だに500ml増量版のアクエリアスなんかが
置いてある。
この時期のこの時間帯にそんなジュースを買う奴の気が知れない。
理樹はそれでも無表情に、あくまでコインを入れて、選ぶ。
だけど、待機時間オーバーになり、コインが払い戻される。
「…」
腹立たしさはない。苛立ちもない。
鋭くもない、だけど色もない瞳は、その繰り返しを楽しんでいるようで。
気が付いたら、払い戻しは10回を超えていた。

 バスが転落した、初夏の太陽はもういない。
そこで立ち止まっているのは、自分だけなのかと錯覚する。
違う。みんなの季節は、あまりに若すぎた彼らの夏は、永遠に、
その時間でストップしてしまったのだから。
だとしたら、生きている自分だけでも先に進む必要があった。
必要に駆られた動作。自己嫌悪しながら。
「…」
でも、本当は立ち止まっていたかった。もう放っておいて欲しかった。
みんなが死んだら、彼らに支えられた自分も死んだも同然。
理樹は心のどこかで、そう決め付けていた。
「…」
それでも周りは、それを許さない。
立ち止まるという選択肢が許されていないのだ。
彼らにとって事故はもう遥か昔の話のように、たまに空気を読まない
生徒が口にするくらいで、後は誰もそれを覚えていないように思える。
大事な親友や、もしかしたら妹や弟を亡くしたかもしれないのに。
割り切って生きること。生きている以上生死で別たれることは宿命。
それを受け入れて生きているのだろう。
彼女も、また。
「直枝」
「…」
同じように冷めた目の少女は、彼の動作にいらだっているように思えた。
「私もジュース買いたいんだけど」
「…」
答えは帰ってこない。
もう、感情などないのだから、当然だけど。
「どきなさいよ」
「…」
「直枝」
「…」
首を横に振ったり、縦に振ったりもない。
理樹の心が死んでしまっている、そう判断した彼女は。
「覇気がないのはいつものことだけど、迷惑かけないでよ」
「…」
酷な一言をあえて投げつける。だけど、答えは帰ってこない。
「直枝。もうリトルバスターズはないの。みんな死んだのよ」
「…」
それは分かっているよ。口ではなく、瞳が語りかける。
褐色の、光のない瞳が。
「そのリーダーがこのザマ。最初からその程度だったのよ」
あなたの想いは。
心にもない全否定。
ジュースを買おうと思って自販機に近寄ったらどいてもらえなかった。
そんな理由ではない。

---私だって、失ってるのよ---

 「どいてくれないなら、もういいわ」
彼女の普段の姿には似つかわしくない、自転車。
「ここにいても風邪引くだけだもの。ごきげんよう」
トゲを含ませた言い方。自転車にまたがり、こぎ始める。
その直前、チラと理樹を見たが、彼の目は、最早誰も捉えていなかった。
「…」

---1人だけ被害者面、か---

 ポケットの中の、お守り。
冷たい、金属。
それは、高熱で焼かれ、表面はすでに酸化を超えて融解している。
その表面に、小さく残ったほんのり白い、カルシウム質の破片。
彼女の、たった一人の大切な人が残した、唯一の遺骨。
大切な、大切だったはずの、妹が。

 三枝葉留佳の遺体は、現場からは発見されなかった。
それは彼女だけではない。全滅した2-Eの全生徒に言えること。
上半身でも残っていれば幸運だった。
その殆どが部分遺体。
昔御巣鷹山に日航機が墜落したときも、乗客は520名くらいだったが、
墜落のショックで遺体は爆散し、部分遺体だけで2500体発見された。
幸いだったのは、あの時はDNA鑑定技術が発展していなかったから、
身元が判明しなかった遺体すらあった。この事故では、全員の身元が判明。
遺品も遺族に帰ってきた。それくらいか。
…一瞬で40名近くの人間を、バラ肉に変えた事実は、拭われないが。

 
 「葉留佳、アイツ、思ったより腑抜けているわ」
そこに誰かが、まして本人がいるわけでもないのに、遺品に語りかける。
三枝の家と二木の家の妙な慣習と、それに伴う因縁。
それはいつかのセカイで確かに理樹が解決してくれた。
しかし現実世界では。
三枝葉留佳の死により、争う必要のなくなった両家。
後継者は二木佳奈多。いずれそこそこの地位の男と結婚させ、
子どもを孕ませ、血を繋いでいこう。
その喜び様は、気の狂った犬が吼え散らかすようなサマに似ていて。
「…」
それ以来、彼女は。
「葉留佳」
この金属…タンバリンの金属の一部を葉留佳と呼ぶようになった。
いつも肌身離さず携帯し、何かあれば語りかける。
鬼の風紀委員長と恐れられた彼女は、もうない。
家の因縁に、そしてバス事故に運命を捻じ曲げられた少女が、いるだけ。
短いスカートに吹き込む風が、鬱陶しい。
「…」
寮に戻ったら、あーちゃん先輩に濃いお茶を淹れて貰おう。
両脚に感じる秋の冷気に多少表情をゆがめながら、彼女は走る。

---結局すべては、終わったことなのだから---



 理樹は、ベンチに座っていた。
空はすっかり暗くなり、星が綺麗。
人は死んだら星になると昔から言われているのを思い出したけど、
それが何なんだ、と解決する。
死んだら、骨になるだけ。
星は、いつか燃え尽きる。人間と同じように。
双眸に映るその景色すら、彼には。
「あの…風邪、引きますよ?」
「…」
声をかけられた気がしたけど、理樹の目は動かない。
興味が沸かないから。
「…」
ふと、身体にかけられるストール。
それは人の肌のぬくもりを吸って、久々に心地いいという感情を、
理樹にもたらしてくれた。
「…♪」
横目に見ると、とても柔らかい表情の女の子がいた。
「この季節の天体観測は楽しいけど、風邪引いたら本末転倒です」
暫く星、見れなくなっちゃいますから。
星を見に来たわけでもないのに、ヘンな女だ。
理樹は、疲れて動かない身体を、どうして動かそうか。
どうやって、この場から離れようか、考えていた。
09/10/27 02:05更新 / 相坂 時流

■作者メッセージ
1回目から早速支離滅裂。
前半は理樹と佳奈多の簡単な折衝。
最後に、謎の女の子。
どんな子なのかは、次回のお話にて。

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