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「理姫」  エピローグ 「見える距離」(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 近くて遠い。 遠くて近い。 それが兄妹の、距離。 兄妹の絆を紡ぐストーリー







「かんぱ~~~~~いっっっ!!」



――ボフッ、ボフボフボフッ



 満開に咲き誇った桜の下。

 リトルバスターズが全員揃って紙コップをぶつけ合う。



 僕たちみんなでの――

――お花見の開催だ。



「うおおおおおぉぉぉーーーっ!? オレの紙コップがぁぁーーーっ!!」

 さっそく真人が紙コップを握りつぶした。

「わぁっ、私にもジュースがかかりましたーっ」

 巻き添えは乾杯しようとコップを近づけたクド。

「真人、強く握りすぎだよ……」

「こいつ、くっちゃくちゃ馬鹿だな」

「ほら、二人ともちょっと手を上げて」

 理姫がクドの服の汚れに布巾を当て始めた。

「わふーっ、わふふっ、理、理姫さんっくすっ、くすぐったいのですーっ」

「ふふっ、もうちょっとだから我慢だよ――はい、もう大丈夫」

「次は真人くん」

「お、わりぃな」

 理姫が、万歳をしている真人の服を拭いている。

「理姫……真人が悪いんだから、そんなことしてあげなくてもいいよ」

「放っておいたら真人くん、自分で拭かなそうだから……はい、終わったよ」

「サンキュー」

 それを見ていた来ヶ谷さんの目が輝きを放った。

 ……嫌な予感がする。

「おっと、手が滑った」



――バシャッ。



 ……来ヶ谷さんが、自分の胸元にジュースをこぼした。

「しまった…このままでは汚れが残ってしまうな。理姫女史、悪いが――」



「おーい、おまえら肉が焼けたぞー。理姫、小毬、悪いが持って行ってくれ」

「あ、はーい」

「了解だよ~」

 理姫と小毬さんが少し離れて肉を焼いている恭介と謙吾の方へとかけていった。



「……」

「……」

「おねーさん、こんな屈辱を受けたのは初めてだよ……」

「……下心があったのがまずかったのではないでしょうか」

「西園女史、悪いが……」

「お断りします」

 ……来ヶ谷さんがションボリしながら、自分の胸元に布巾を当てていた。

 もしかして、来ヶ谷さんを翻弄できるのは理姫だけなんじゃないかな…。



――ブルーシートの上に、次々とお弁当箱やバーベキューの串が乗った皿やお菓子が並べられていく。

 桜が舞う中、僕たちリトルバスターズはいつもの大騒ぎだ。



「ほわぁぁぁ、おいひいよ~」

「神北よ…」

「なぁに、謙吾君?」

「バーベキューにマシュマロとは……一体どんな味覚をしているんだ」

「マシュマロは焼くと美味しいんだよ~」

「さすがに肉と野菜の串に一緒に刺して焼くのはどうかと思うよ……」

「ふえぇ?」

 なんでそこで不思議そうな顔をするのかが全くわからない。



「やっぱりお菓子といったら魅力はこれですナ」

 ……葉留佳さんはお菓子から袋を取り出して、何かを始めた。

「ふむ、葉留佳君は何をしているのだ?」

「なにって姉御、そんなん決まってるじゃないッスか」

「じゃーーーんっ、ケロン軍換装ドッグーーーっ!」

「……ほう、ケロロ軍曹ですか」

「さすがみおちん、わかってるっ」

「やっぱりお菓子といったら食玩に決まりですヨ。ケロッケロッケロッ――」

 一人で歌いながら、食玩を作り始めてるし…。

「時に葉留佳君」

「はいよ」

「その食玩はどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、みんなの買い物にひっそり潜ませておいたんですヨ」

「うむ、あれほどみんなで食べれるものを買うぞと言っておいたのにな」

「罰としてキミのお菓子はそれだけだ」

「へ…?」

「って、これガム一個しか入ってねーーーっ!」

 うん。

 こういうのを自業自得と言うんだと思う。



「鈴、ちょっとジュース取ってくれ」

「ファンタか? それともコーラか?」

「ネーポン」

「ずいぶんとまにあっくだな…」

 恭介に目を向けると、鈴と肩を並べて座っていた。

「きょーすけ、ピーマンをやる」

「好き嫌いするなよ」

「違うぞ。あたしはきょーすけの健康を心配しているだけなのかもしれない」

「マジかよ……」

「ん」

「ちょーうめぇぇぇーーーっ」

 恭介が鈴からもらったピーマンを歓喜の声をあげながら食べている……。

「そうか。ならニンジンもやる」

「マジかよ……」

「ん」

「ちょーうめぇぇぇーーーっ」

 ……恭介も存外単純だ。



「ふふふっ……くすくすっ」

 僕の横にちょこんと腰を下ろしている理姫を見ると、みんなの様子を見て肩を震わせて笑っていた。

「こんなに賑やかなの、久しぶり」

「そうだね」

 入院の前の夕食パーティー以来だ。

「――お花見、ずっとずっと楽しみにしてたんだ」

「みんなと…理樹くんとのお花見」

「初めての、お花見」

「すごく……うれしい」

 僕らの頭上に咲き誇る桜に負けないくらいの微笑みだ。



 みんなの大騒ぎの声を聞きながら、二人で桜の木を見上げる。



「綺麗、桜」

「うん」

「病院で、ちょっとフライングしちゃったけど」

 胸の前で指を組んで、遠くを見つめるように桜を見ている。

「――理姫さ」

「なに?」

「退院する前の日とその前の日に会えなかったけど……何かあったの?」

「あ……それは…………」

 途端に理姫の顔が桜色に色づいた。

 何か変なこと聞いちゃったのかな?

「笑わないって約束できる…?」

「うん」

「……」

「……」

「耳かしてね」

「え、うん」

 理姫の方に耳を近づけると、理姫が僕の耳に手を当てて小声で呟いた。

「…………お…………」

「お?」

「…………おなら…………」

「え?」

 理姫を見ると…。

 おでこでお茶が沸かせるんじゃないかと思うほど真っ赤になっていた。

「……だって……その……先生が……」

「……おならがでるって……言うんだもん……」

「…それで会いたくなかったの?」

 真っ赤な顔で小さくコクンと頷く理姫。

「………………ぷふっ」

「理樹くん、ひどいよ……笑わないって約束したのに」

「ごめんごめん」

「じゃあさ、そのお詫び……というわけでもないけど」

「おわび?」

「うん」

 理姫が胸の前で指を組みながら、期待のこもった目で僕を見つめている。



「みんなの前でもさ、学校でもさ、出かけた先でもさ」

「僕のこと……お兄ちゃんって呼んでほしいな」

「いいの?」

 理姫の笑顔がより一層、輝きを増す。



「当たり前だよ」

「だって、僕たち」







「――兄妹なんだから」






***







■あとがき

みなさん、こんにちは。作者のmです。
SS「理姫」を読んで下さり、本当にありがとうございます。
楽しんでいただけたら光栄です。

さて、このSSのメインテーマはもちろん『兄妹』です。
時にはゆっくりと、時にはいつの間にか、兄妹の絆を紡いでゆく物語です。
日々の思い出を積み重ねる中で、兄妹特有の程よい距離を見つけていく。
いつしか二人の歩調が合っている。
そういった思いをこめています。

サブテーマは、『距離』『夕焼け』。
近づいては離れ、離れては近づく二人の物理的な距離。
けれど精神的には一歩ずつ縮められてゆく距離。
夕焼けを通して書き表していたりします。具体的には、点在している夕焼けを歩くシーン描写の冒頭を見ていただければ良いかと思います。
加えて、各所で理姫が「冗談だよ」と言って目をそらして笑うシーンがあります。
実は、そう言ったときが理姫の本音です(笑)
最初から、理姫はお兄ちゃんと一緒に手をつないで歩きたかったんです(笑)

最後に。
理姫はWEB拍手コメントから誕生したオリジナルキャラクターです。
私は、そんな理姫を読んで下さった皆さんの心の片隅に居続けられる子になる様に、丹精を込めて書き綴りました。

このSS「理姫」を、読んで下さった皆さんが楽しんでいただけたのなら幸いです。


追記:
病院で理樹が医者の会話を立ち聞きするシーンでひとつだけ調べていない単語があります。

アッペ→虫垂炎。

つまり、盲腸の意味です(笑)