花ざかりの理樹たちへ その8 ~理樹の大変身編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「では、仕上げといこうか」
「最後は……化粧だな」
「ええぇーっ! 化粧までするのっ!?」
「何を当たり前のことを言っているんだ。女の子なんだから化粧の一つもしなければな」
「男だよっ」
「その顔で言われても、全く説得力がないぞ」
――みんなの方を向くと……
「理樹はどう見ても女の子だ」
「……直枝さん、自分のことを男性だと思っているんですか?」
「女の子なんだから、おめかししなきゃダメだよ~」
「れーっつ・めいくあっぷーっ」
……もはや誰も僕のことを男だと思っていなかった!
「葉留佳君」
「ハイヨ姉御っ、化粧道具一式持ってきてますぜっ」
「うむ」
「化粧は全て葉留佳君に任せて、我々は学食で談笑しているとしよう」
「あたしは理樹の化粧が見たいぞ」
「わふー……私も見たいです」
……化粧をしているところをマジマジと見られるのもなぁ。
「はっはっは、楽しみは取っておくものだ」
「今見ているより、完全に仕上がってから見たほうが面白いぞ」
「それもそうだな」
「来ヶ谷さんは思慮深いのですっ」
……しかし、葉留佳さんだけで本当に大丈夫なのだろうか?
「理樹くん、心配しなくても大丈夫ですヨ」
「こう見えても、メイクの腕は確かですからねっ」
「では、葉留佳君。健闘を祈る」
「任せとけってんだーっ」
「終わったら連絡をしてくれ」
――みんなは少し名残惜しそうに部屋から出て行った。
……やっぱり少し不安だ……。
「んー……理樹くんはベースがいいからナチュラルメイクで良さそうだねー」
「じゃあ、私がいいって言うまで鏡は見ちゃダメですよ」
「わ、わかった」
――パタパタ、パタパタ――
――しゅーしゅー――
なにやら顔にイロイロなことをされている。
化粧なんかしたことないから……一体何が起きてるんだろう……?
――パタパタ――
――しゅっしゅっしゅ――
――ぽんぽんぽん――
………………
…………
……
――開始からおよそ30分。
「…………理樹くん、終了ですヨ」
何か葉留佳さんが複雑な表情を。
「ええーっと、鏡はみんなにお披露目した後でってことで」
「じゃね…ホラ、そこに隠れてて」
……すごく不安になってきた。
――間もなくして。
――ガチャリ。
「葉留佳君、出来はどうだ?」
「わくわくしすぎて転んでしまいました……」
「クーちゃんが走るからだよ~。けど、たのしみだね~」
「……直枝・劇的ビフォーアフター」
「理樹に変なラクガキしてないだろうな」
――みんなとても楽しみにしているようだ……。
「…………」
「フッフッフ……ついにはるちんの実力が白昼の元に……」
「前置きはいいから早く理樹君をお披露目しろ」
「はるちゃん、じらしちゃダメだよー」
みんなからブーイングのコール。
「ブーブー、みんなせっかちだなぁー」
「じゃあ、気を取り直して……」
「理樹く――じゃなくて、理樹ちゃん」
「どーーーぞーーーーっ!」
葉留佳さんが片膝立ちで、手をひらひらさせている
パチパチパチパチーーーッ!!
う、みんなから盛大な拍手が……。
「…………」
――僕は意を決して、みんなの前に出た!
「…………………………………………」
……ええっ?
――拍手が鳴り止んだ。
何とも言えない静寂がこの部屋を包み込んだ。
「…………」
鈴は口を開けて硬直している!
「…………」
小毬さんは口を手で押さえて目を真ん丸にして硬直している!
「…………」
クドも大きな目を点にして硬直している!
「…………」
来ヶ谷さんは複雑な表情で止まっている!
「…………」
西園さんはデジカメを構える途中で硬直している!
……う、うわ、みんな動かないよ!
やっぱり葉留佳さん、変なことをしたんじゃ……
――ゴトッ!――
西園さんのデジカメが手からすり抜け、床に落ちた。
その音を皮切りに……
「「「「キャーーーーーーーーーーーッ!!!!」」」」
「う、う、うわーーーっ!?」
部屋が揺れているのではないか、と思うほどの黄色い歓声がっ!!
「わわわわわわーーーっ!? 理樹く――理樹ちゃんかわいいーーーっ」
「わふーーーっ!? ほんとのほんとにあなたはリキなのですかっ!?」
「……はあ、直枝さん、化けすぎです……ビューティーコロシアムは目じゃありません」
「理樹、もーくちゃくちゃだ! いや、もーけちゃけちゃだっ」
「……化粧一つでこうもレベルが跳ね上がるとはな……」
――みんながみんな、すごい反応だ!
「いやー……私も化粧をしながらビビりましたヨ」
「――自分のサイノーがコワイ、このサイノーをこんなところに留まらせていいものかーって」
「それは理樹君のベースが良いお陰だろう」
「がーんっ」
「うむ、理樹君」
「な、な、何?」
「はっきり言って、今の君はここのメンバーの誰よりも可愛いぞ」
――来ヶ谷さんが萌えている……。
「ええーっと、鏡は……」
「ハイッ!」
葉留佳さんが大きめな姿見をこちらに向ける。
「……………………」
「…………」
その姿見の中には、少女が立っていた。
細身ながらに引き締まった身体、女性らしいふくよかな膨らみ。黒い制服と紺のハイソックスが映える。
髪は両側に綺麗にまとめられている。髪をまとめている赤と黄色のチェックのリボンが少女の可愛さを引き立てる。
だが、幼さを残した可愛さの中にも、どこか凛とした雰囲気を漂わせている。
可愛さと気丈さを共存させた、言わば小悪魔的な少女がこちらを真っ直ぐに見つめている。
「…………」
手を挙げてみる。
「…………」
姿見の中の少女も寸分違わぬ動作を返す。
「…………」
「――カシャリ」
西園さんがデジカメのシャッターを押している。
「……その唖然とした表情いただきです」
「こ、こ、こ、こ……」
「こ、これが……」
「僕ぅーーーーーーーーーーーっ!?」
もちろん姿見の中の少女も驚いている。
「その戸惑いの表情も萌えるな」
――すでに横には来ヶ谷さんが身を寄せて来ている!
「えええええーーーーーっ!?」
今まで見慣れた自分の姿からは想像もつかないほどの変わり様だ。
……本当に自分で言うのも嫌なんだけど。
……とても可愛らしい。
「うあああああーーーーーっ!!」
「なんかものすごい苦悩が見て取れるねぇ」
――本当にお婿に行けなくなるかもしれない……。
頭を抱えていると、みんなに囲まれた。
「ふええ……もう理樹君だなんてわかんないねー」
「わふーっ! ぷりてぃびゅーてぃせくしぃですっ」
「はっはっは、おねーさんもここまでの逸材を手に入れたとは嬉しい限りだぞ」
「……この胸の奥底から湧き上がってくる気持ちは何なのですか……?」
「うわー……言われなきゃ理樹くんだと気づかないねこりゃ」
「早くあの三馬鹿に見せたい」
「……あはははは……ありがとう……」
こうなったら、もう野となれ山となれだ。
「よし、そろそろ生徒が登校してくる時間だな」
――そ、そうだった。ここからが本番なんだ。
「理樹ちゃんのお披露目たいむだねー」
「みんなの反応がたのしみですっ」
「……波乱の予感がします」
「なんで私だけ別のクラスなんですかーっ」
「理樹、真人に襲われない様に気をつけろよ」
……長い長い1日が始まりそうだ……。
「はっはっは、肩の力を抜いて女学生生活を楽しもうじゃないか」
――みんなに手を引かれ、いざ戦場へ――
***
『理樹の大変身編』はここで終了です。
このSSが初文章だったので、書くのに苦心しました……。楽しんで頂けたのなら幸いです。
みなさんからのたくさんの応援メッセージに、気力が沸き立ちました(笑) 本当にありがとうございます!
さて、次からついに『学校編』に突入します。