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花ざかりの理樹たちへ その12 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



――僕は真人たちの方へ足を向け、歩み寄る。

近づくにつれ、真人と謙吾の会話が聞こえてきた。





「……ふわぁっ~」

「理樹のヤツ、遅ぇなぁ……」

「女達のすることだ、大方理樹に色々な物を着けて遊び呆けているのだろう」

――謙吾はやっぱり鋭い。

「にしても、女装ねぇ」

「ああ、一歩間違えると俺たちが理樹と同じ目に遭っていたところだな」

「……待てよ、オレが女装したとしたら……」

「…………」

真人と謙吾の顔が見る見る青ざめていく。

……張り裂けんばかりの制服とスカートを装着した、ルージュの口紅が異様に目立つ真人が近寄ってくる絵を想像してしまった!

――無線機の向こうからも「うわああああん、すっごいキモいーーっ」「……ああっ」「だいじょぶか、西園さん!」と聞こえてくる……。

「薄気味悪いものを想像させるなっ!!」

「あ、危ねぇ……腹筋があと1ミリでも薄かったら戻していたところだぜ……」

「理樹よ……見放してしまった俺たちを許してくれ」

「……哀れ過ぎる理樹の姿を見て、オレは泣いちまうかもしれねぇ」

――たぶん真人たちは、先ほど想像した真人の女装と僕をダブらせているんだろう。

無線機の向こうからは笑いを堪える声が聞こえてくる。

「このブ厚い筋肉で悲しみを包み込んでやるぜ……理樹」

――真人ゴメン。絶対にイヤだ。

「いや、もしかしたら案外似合っているかもしれんぞ」

『――やっぱり謙吾はホモだっ』

鈴の確信の声が聞こえるけど、僕は今ツッコめない……。

「フッ…見えたぜ、女装した理樹の姿がよ」

「――ちびまる子ちゃんだな」

真人が断言する。

「なるほど、まるちゃんか……しかし直球過ぎやしないか?」

「変身と言ったらメガネだろ、むしろたまちゃん寄りだと思うが」

『……メガネ、という言葉を強調しましたね』

『ぷぷぷぷぷぷぷーーーっ』

――目ざとくツッコミを入れる西園さんと、笑いを堪えているが転げまわっているであろう葉留佳さんの声が聞こえる

「……いや、ちょっと待てよ……」

……真人が、閃いたっー!的な顔をしている。

「もしかして早川さんにクリソツじゃね!?」

「早川さん……? 誰だそれは?」

「不動産屋のとこの花沢さんと、いつもつるんでるヤツだよ」

「それはカツオの思い人のカオリちゃんではないのか?」

「あれ? そうだったけ?」

もう一人いるでしょ、とツッコミたいけど今は出来ない。

――無線機の向こうでは『中島の彼女さんだよ~』『わふー、さすが小毬さんですっ』と、嘘知識が広められている!

「……待て、真人」

「ん、なんだよ?」

「カオリちゃんはサザエさんのキャラで、ちびまる子ちゃんのキャラじゃないだろ」

「…………」

「…………」

「なんだてめぇ、その目は?」

「こいつ6時と6時半の区別がついてません、それよりも筋肉と二人きりは暑苦しくて仕方ありません、もっと着やせするタイプになってくれませんか?とでも言いたげだな!?」

でたぁ! ものすごい言いがかりだ!

「その通りだ、暑苦しい」

――あっさり謙吾は肯定した。

「あ、なんだ、おまえ、もっぺん言ってみろ」

「暑苦しい、と言っているんだ」

ああ、またくだらない理由でケンカしようとしてるし!



『理樹君、話がややこしくなる』

『その馬鹿二人の間に割って入ってくれ』

僕にこの二人を止めることが出来るのだろうか……。



――僕は意を決して、でかい二人の友人の間に割り込んだ!



「おわっ!?」

「――むぅ!?」

二人は突然の乱入者に驚いている。

『よし、そのまま真人少年を見つめろ』

『謙吾少年は放置していても横槍は出さないだろう』

――なるほど、謙吾なら「興冷めした」とでも言ってこの場を離れるだろう。



僕は真っ直ぐに真人を見つめる。

「な、な、なんだよ?」

さっきまでの一発触発の空気が、一気に収まった。

「……興冷めした。俺は席に戻る」

案の定、謙吾は自分の席へ戻っていった。

――残された真人は僕を見て、目をパチクリしている。



「あ、あーっと…ここのクラスのヤツじゃないよな?」

真人は僕だということに全く気づいていない。

『真人少年にも気付かれていないようだな』

『第二段階成功だ』

『……次は、そうだな』

――無線機の向こうでは色々と誘惑方法について話し合っているようだ。

『井ノ原さんと一緒にまっする・だんすはどうですかっ』

『まっする~、まっする~』

『――キミを一目見たときからフォーリンラヴさ、今夜一緒にランデブーを…子猫ちゃん、ってどうッスかーっ』

『あんなでかいのとネコを一緒にするなっ』

『……井ノ原さんの筋肉を褒め称えれば良いと思います』

『うむ、西園女史の意見を採用しよう』

『理樹君、真人少年の胸板をぺちぺちと叩いてくれ』

そんな真人が喜びそうなことをピンポイントでっ!



「ん? どうした?」

真人は不思議そうにこちらを見ている。



――ぺちぺちぺちぺちっ

僕は真人の胸板を両手でぺちぺちと叩いてみた。



「な、なななななななーっ!?」

うわぁっ、すごいうろたえっぷり!

真人は顔を真っ赤にして、行き場のない両手をワキワキとさせている!

「……そ、そうだったのか、わかったぜ……」

え? 一体何がわかったのだろう?

「フッ…オレの推理を――いや、真実を語ろう」

「――キミはこのオレの美しい筋肉に用があった」

「ここに来てみると、目の前にたくましい胸板がそびえ立っているではないかっ!」

「キミは我慢しきれずに、思わずぺちぺちしてしまった……違うか?」

……真人は爽やかぶった笑顔を見せ、普段は使わないような言葉で、どうしたらそうなるかわからない推理を披露した!

『こいつ馬鹿だっ』

『あはははははは真人くんカッコつけちゃってるーーーっ』

呆れている鈴のツッコミと、笑い転げている葉留佳さんの声がイヤホンから響く。

『いや、この瞬間を待っていた』

『理樹君、その問いに対して満面の笑みで大きく頷くんだ』

うう……なんか嫌だけど。



――にっこり~、こくんっ!

出来る限りの笑顔と、よくわからない推理に対しての肯定を真人に返した。



「ンっなーーーーーーッ!?」

真人はとんでもなく驚いている!

――まさか自分の推理が当たった事におどろいてるのかな……?

『狙い通りだな』

来ヶ谷さんは、「計画通り」といった感じだ。まさか狙いは別に?

『わふー…どういうことなんですか?』

『今まで真人少年の筋肉関係の話に乗ったヤツがいるか?』

――あ、確かにツッコミは入れるけど、乗った人は謙吾くらいしか見たときがない。

『それがどうだ? 今、しかも美少女に最高の笑みで迎えられたんだ』

『少年の心の中には祝福の鐘が鳴り響いているだろうよ』

……たしかに、筋肉関係となるとすごく喜ぶもんね、真人。

『よし、このまま落とすぞ。胸板をぺちぺちとしながら上目づかいで見続けるんだ。――10秒で落ちるにポッキー一袋』

向こうでは何らかの賭けが成立しているらしい。



――じぃーっ、ぺちぺちぺちぺちっ

僕は真人を上目づかいで見つめながら、両手で胸板をぺちぺちと叩き続ける。



「んななななななななななななななななっ!!!」

真人はバグったファミコンのような声を上げながら、どんどん顔がゆでダコのようになっていく……!

上目づかいで見られつつ胸板を叩かれて顔を真っ赤にしている大男……。

す、すごいシュールな絵だ……。

「んなななななななななっ――…………」

「……………………」

「……………………」

あ、真人の声が止まった!



と。



――ブブブハァーーーッ!!



って鼻血ーーーっ!?

「やってられっかぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁーーーっ!!」

真人は鼻血を撒き散らしながら、教室を飛び出していった!!

『こいつ馬鹿だっ! いや、もー馬鹿だっ』

鈴も幼なじみの行動に錯乱気味だっ!

『ミッション・コンプリート!』

いや、良かったのかなぁ……。

『5秒だったから、私の勝ちだよ~』

すごくうれしそうな小毬さんの声が聞える。って、小毬さんまで賭けに参加してたんだ……。

『あはははは、あはははは、あはは……っ!? げほっ、げほげほっ!』

笑い転げた挙句、むせてる人が約1名。

『……構図は悪かったですが、とても有意義でした』

――西園さんは人をいじめるのも好きなのではないだろうか?

『井ノ原さん、しあわせそうですね~。ひ~いずべり~べり~はぴねすっ!』

のほほんとしたクドの声。幸せとは決して言えない気がするけど。

『――あの筋肉馬鹿も女の子に興味あったんだな』

うんうんと鈴が何かを納得してるけど……とりあえず僕は男だから。

『まあ真人少年が戻ってきたら、またからかって遊ぼうではないか』

……真人、本当にごめんよ……仕方ないんだ。





『次は謙吾少年をターゲットにしようと思うが……』

――謙吾は真人のように一筋縄じゃいかないだろうな……。