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花ざかりの理樹たちへ その13 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。


「――何があったのかはわからんが…あの馬鹿が迷惑をかけたな」

絶叫しながら突っ走っていく真人を見送り呆然とたたずんでいると、謙吾が近寄ってきて話し掛けてきた。

……うわっ、まだ心の準備が出来てないよっ!



『頭を悩ませずとも、獲物の方からかかりに来たようだ』

僕の心の準備を余所に、来ヶ谷さんは謙吾も落とそうと策略しているようだ。

『まあまずは……――な、なんだ。どうした? やめるんだ西園女史っ――』



――ガタガタッ!

――ぴちゃぴちゃっ!

――ふにゃふにゃっ!!



……無線機の向こうで何かが起こっているっ! 「ふええ~」とか「わふー」とか「ウヒョー」とか色々と騒々しい。

『――はぁ、はぁ、はぁ……』

荒い呼吸が無線機から響く。

『……直枝さん、西園です。一時的に指揮権が私に委任されました』

『……今回は私の指揮の元に動いてもらいます』

……………………

一体何が起こったんだろう……?

『ま、まさか西園女史がこのような行動に出るとはな…さすがのおねーさんもタジタジだ……』

『わふー……私もリキにめーれーしたいですけど、西園さんみたいなことはできないのです……』

『うわーうわーうわー、みおちん…だいたん』

『西園さんのキャラがちがったぞ』

『ふええぇ……みおちゃんすごい』

す、すごく気になるっ!



「――どうしたんだ? 困ったような顔をしているが……」

あ、しまった。謙吾がいる事を忘れて聞き入ってしまった。

「もしかして真人に用があったのか?」

『そこは否定してください』

――ふるふるっ

「違うのか……となると――」

ふむ、と考え込んで

「横の席の理樹にでも用があったのか?」

……やっぱり謙吾も目の前にいるのが僕だと気づいていない。

『同じく否定してください』

――ふるふるっ

「理樹でもないのか……」

「まさか俺――ではないだろうな?」

『頷いて下さい……ようやくこの時が来ました』

何というか…西園さんが暴走気味なような気がする。

――こくりっ

「用……と言われても君と俺は初対面であろう?」

『そこも頷いて下さい』

――こくりっ

「――俺は宮沢謙吾、剣道部に所属している。君は?」

『目をつぶり、ゆっくりと顔を左右に振ってください』

――ふるっ、ふるっ

「…………」

「……そうか、すまなかった。気を悪くしないでくれ」

たぶん謙吾は僕が口を聞けないと勘違いしている。

う……謙吾、ホントにごめんっ!

『では、こちらから攻めるとしましょう』

『宮沢さんを軽く睨みつけるように見つめてください』

良くはわからないけど……。

――びびっ!

少し睨むように、真剣な眼差しで謙吾を見つめた。

「ど、どうかしたのか?」

謙吾が少しだけ、たじろいでいる。

『恐らく宮沢さんは芯がしっかりとした人が好みだと思います』

――なるほど、確かに謙吾は自分をしっかりと持った、精神的に強い人を好みそうだ。

『あと少しだけ近づきましょう。それで宮沢さんが怯(ひる)まなければ準備万全です』

何の準備かは……少し不安要素だけど。

――スタ……

一歩だけ謙吾との距離を縮める。手を軽く伸ばしただけで届く距離だ。

「…………」

謙吾は怯まずに、少し困ったような顔で僕を見つめ返す。

『今ですっ! 宮沢さんの胸に飛び込んでくださいっ!』

………………。

ええええぇぇぇぇーーーっ!?

『早くしてくださいっ! 宮沢さんの胸に顔をうずめるんですっ!』

西園さんのこんな大きな声は初めて聞いた気がする……。

じゃなくて!!

そんなことを言われてもっ!

『理樹ちゃん、はやく飛びこんであげて』

うう…ここで小毬さんの追い討ちなんてっ。

『リキ…西園さんが涙目になっているのです……』

な、なななな何ーーーっ!?

西園さんはここで、最強の武器を持ち出したらしい!

『キミはいたいけな女性を泣かせるつもりか?』

『理樹、見損なった』

『理樹ちゃんサイテー』

非難の嵐…まさに四面楚歌だ。

うう……。

こうなったらやけくそだっ!



――すとっ……

僕はそのまま倒れこむように、謙吾の胸に飛び込み顔をうずめた。

「――っ!?」

謙吾は一歩も引かず、僕をしっかりと受け止める。

「……ぬ……ぬっ」

真人ほど動揺はしていないが、謙吾も動揺しているらしい。



『……はぁぁっ……』

――無線機の向こうからは嬉しいやら興奮やらのため息が漏れ聞えている。

ああ、僕は泣きたい気分だよ……。

『気丈だった子が、突然自分の胸に顔をうずめる……これでときめかない人はいません』

『同人の初歩です』

西園さんが力説している。

『これで最後です。悲しげな表情を浮かべ、宮沢さんを見つめてください』

『……ツンデレ、ばんざい』



今のままで十分に悲しい顔になっていると思う。

そのまま僕は顔を上げ、謙吾を見つめる。

「……んむぅ……」

「……………………」

「……むむっ……」

謙吾は今までに見たときがない、とても複雑な顔だ!

体はすっかり硬直している!

――どこかでストロボが光った。

もしかしたらこっそりと誰かさんが写真を撮っているのかもしれない。

「……む」



――すっ

僕の両肩をぎこちなく掴み、謙吾は自分の体から僕を離した。

「……ま……ま……ま……」

――ま?

謙吾は僕と目を合わせようとしない。

「――ハァ……フゥ……」

精神統一だろう。

謙吾は深々と深呼吸をした後、

「……ま、ままままた、ああああ後であああ会うとしよう」

噛みまくりだった!

謙吾はそれだけ言うと、踵(きびす)を返しスタスタとドアへ向かっていった。



――ガラガラ~、ピシャッ!



……数秒後。



『うううううおぉおぉおぉおぉーーーーーーーっ!!』

『――ズダダダダダダダダダダダーーー……!!』

……無線機から謙吾の雄叫びと、猛烈ダッシュの音が聞えた!

『ふえぇぇ……謙吾君がとてつもないスピードで駆け抜けていったよ~』

『わふー……表情はどこか幸せそうだったのです』

『……ミッション・コンプリートです』

西園さんはご満悦の様子。

『はっはっは、西園女史よくやった』

来ヶ谷さんも満足げだ。

『あいつらと幼なじみだと思うとはずかしい』

……返す言葉もないよ……

『いやー、なんだかんだ言っても謙吾くんも青春まっさかりですネっ』

うぅ……僕に盛られても困るんだってば。

『まあ理樹君は差し詰めエロテロリストと言ったところか』

今のは全部西園さんの仕業だよっ!



『理樹君、キミは一つ重要なことを証明したぞ』

「え、何を証明したの?」

もう謙吾も真人もいないので返事を返す。

『やっぱり謙吾少年はホモだ』

『謙吾はホモ決定だな』

『ふえぇ~、謙吾君はほも』

「って、違うでしょっ! だって……」

『……僕は女の子だもん、とでも続けるのかな?』

――しまった!! これはワナだっ!!

否定すれば謙吾がホモに……肯定すれば……

『あれあれあれーついに理樹ちゃん、自分が女の子だって認めるのカナーっ』

『理樹ちゃん、うぇるかむだよー』

『わふー! るーむしぇあも夢じゃないかもしれませんっ』

『……ぽっ……』

『理樹ならだいじょうぶだ』

「八方塞がりぃいいいーーーっ!!」

『今の発言、真人少年そのものだったぞ』





みんなこういうときだけ僕のことを男の子扱いするんだからっ……!

…………。

うっ!?

……真人、謙吾のミッションを通して、いつの間にか心境が女の子に近づいてしまった自分がいた……。