花ざかりの理樹たちへ その15 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
■■■ ――エピソード・謙吾―― ■■■ (『その13』と併せてお楽しみください)
「やってられっかぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁーーーっ!!」
真人の絶叫を耳にし、そちらの方を向く。
…………!
――ゲゲゲゲーーーッ!?
真人が、顔を真っ赤にし、しかも鼻血を噴出させながら、嬉しいんだか怒ってるんだか分からない悲惨な形相で、辺りの机を吹き飛ばしながら教室を走り抜けた!!
神北や能美あたりが見たら間違いなく失神していたであろう。
真人が走り去った後には、先程の少女が呆然とたたずんでいた。
……今のは、無理も無い……。
真人のあの変質的な行動を目の当りにしたら、誰だってああなるだろう。
――さすがの俺でさえ、ドン引きしたしな……。
「――何があったのかはわからんが…あの馬鹿が迷惑をかけたな」
先程の少女の元へ行き、幼なじみの非礼を詫びた。
少女はビクリと一瞬こちらを見て、また目を外した。
――先程はチラリとしか見なかったが…こうして見ると少女に目を奪われる。
背は来ヶ谷くらいだろうか。
全体的に細身で、女性らしい丸みも程ほどに、引き締まっていてバランスが良い。だが女性である部分は豊かで、女性らしさを誇示している。
顔立ちは可愛らしいとしか言い様がない。
神北や能美の可愛らしさとはまた違う。
優しさと気丈さを兼ね備えた、希望と憂いを併せ持った…不安定な存在。
どこか中性的で、男性はもちろん、女性にも好かれるタイプだろう。
――そんなことを考えると、少女は困ったように顔を歪めた。
「――どうしたんだ? 困ったような顔をしているが……」
「もしかして真人に用があったのか?」
――ふるふるっ
少女は否定した。
真人と話をしていたようだから、てっきり用があったと思ったんだが……。
そうなると、真人の周りか友人に用でもあるんだろう。
「横の席の理樹にでも用があったのか?」
少女は一瞬眉をひそめたが、否定した。
「理樹でもないのか……」
と、なると。
「まさか俺――ではないだろうな?」
この少女には今まで会ったときがない。
これ程の娘なら間違いなく忘れないだろう。
だが……。
――こくりっ
少女は首を縦に振った。
「用……と言われても君と俺は初対面であろう?」
少女はその問いかけにも頷いた。
「――俺は宮沢謙吾、剣道部に所属している。君は?」
少女の名前を知りたい、そう思っただけだった。
――ふるっ、ふるっ
少女は首を横に振った。
否定の意味ではない。もっと別な意味を含んだ表現だ。
……そうか、先程から少女は一言も言葉を発していない。
「…………」
「……そうか、すまなかった。気を悪くしないでくれ」
少女は一度悲しげな表情をするが、すぐに……
――びびっ
真剣な眼差しを俺に向けてきた。
――良い目だ。
強い心を持った目、いや強い心であろうとする目だ。
――こういうヤツは……好きだ。
そう思い始めたら、余計に意識してしまう。
――じーっ!
……ドックドックッ!
――じーっじーっ!!
……ドッキン! ドッキン!
――じーっじーっじーっ!
芯を通しながらも可愛らしい瞳が、俺一人を捕らえている!
くっ、なんて可愛いんだ!
うぐぐ……平常心だ俺っ!!
「ど、どうかしたのか?」
強がってみせるのが精一杯だった。
――スタ……
少女は俺との距離を縮め、俺を見続けている……!
軽く手を伸ばしただけで、少女に触れることが出来る距離だ。
――俺は一体何を考えているんだ!
どきどきどきどき……。
ええぃ、平常心だ!!
平常心を持ち続けるんだ謙吾っ!
よ、よし。
心で五つ数えたら、俺は自分の席に戻るんだ。
――息を深く吸い込み、数を数える。
一つ……。
二つ……。
みっ
――すとっ!
「――っ!?」
……………………。
ンっなーーーーーーッ!?
突然少女が俺に飛び込んできたっ!
「……ぬ……ぬっ」
こ、声も出せない。
あの……
あの少女が今自分の胸の中に!!
ドッキドッキドッキ!!
ドキドキドキドキ!!
胸が早鐘のように鳴っている。
マズイ……この娘を俺から離さなければ、色々と暴走してしまいそうだ。
……体から少女を離そうと思ったその時。
――少女が顔をあげた。
その顔は悲しみに溢れていた。
……ぐはぁああああああっ!!
――なんと表現すれば良いかわからないが……俺の全てにジャストミートだっ!!
気丈である少女が俺を、俺を、俺を頼ってくれている……。
――むにゅっむにゅっ!
む……?
…………………………っ!
少女が顔を上げたことで、彼女の胸が体に押し付けられているっ!?
――むにゅっむにゅっ!
少女は悲しげな表情をたたえながらも、胸を押し付けてくるっ!
――むにゅっむにゅっ!
かなり大きい……。
ぐ、ぐぁ……。
――もちろん平常心は跡形もなく消え去っている。
い、いやこれは……
「……んむぅ……」
ぐぁあああーっ!!
『胸が当たっているので離れて欲しい』と言おうと思ったのが、ただの変態的な発言になってしまったーっ!
「……………………」
――むにゅっむにゅっ!
全意識が胸に集中してしまって、思考がまとまらない!
「……む」
ぬおおぉぉぉーっ!!
『胸が当たっているので離れて欲しい』と言おうと思ったのが、『ちょっとイイ感触だ』的な相槌になってしまったーっ!
ダメだ!
もう俺の口は(頭は)使い物にならないっ!
口で言わず自分で少女を遠ざけるしか方法はない!
――しかし両腕は完全に硬直していて動かなかった。
くそっ……!
動け動け動けっ! 動け動け動けっ! 動け、動け、動いてくれ!
今動かなければ、今離さなければ、俺は死んでしまう……っ!
だから動いてくれっ!!
――ぐぐぐっ
辛うじて動いた腕で、彼女を体から離す。
「……ま……ま……ま……」
少女を離してもまだ、口が上手く回らない。
平常心だ!
剣道で育んできたじゃないか!
平常心を取り戻すんだ!
「――ハァ……フゥ……」
……深呼吸をして心の波は幾分収まった。
「……ま、ままままた、ああああ後であああ会うとしよう」
平常心を取り戻しただけあって、今度は上手く少女に伝えることが出来た。
少女の近くに居るだけで、俺はどうにかなってしまいそうだった。
……俺は振り返りもせず、教室から出た。
教室から少し離れ……俺は胸の内の何かを爆発させた。
「うううううおぉおぉおぉおぉーーーーーーーっ!!」
――俺は幸せを胸に秘め、廊下を駆け抜けた――