花ざかりの理樹たちへ その19 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「ミッション・スタートだ!」
――僕は恭介の教室のある階の、T字路になっている廊下の影にスタンバイする。
みんなは、そのT字路から真っ直ぐの少し離れた空き教室の影から、成り行きを見守る。
みんなが無線機の本体側(携帯電話)を持ち、僕と来ヶ谷さんがそれぞれ無線機子機を装着する。
『理樹君、スタンバイは出来たか』
『出来てるよ』
『では、恭介氏をさり気なくおびき出すぞ』
『――わふー……どきどき』
みんな固唾を呑んで聞き耳を立てる。
『恭介氏、前いいか?』
『ああ』
『――ガシュッ、ストッ』
椅子を引いて腰を下ろす音が聞えた。
『その本は面白いのか?』
『ああ、面白い』
『前半はベタベタな恋愛ものだったが…後半は主人公とヒロインが拳と拳で語り合うんだ』
『こんな熱いマンガは初めてだぜ……』
……一体どういうお話なのさ。
『――来ヶ谷と二人、ってのも初めてだな』
『なるほど…言われてみればそうだな』
『で、恭介氏はこんな美しい少女と二人で会話をしているというのに、マンガから目は離さないのか』
『来ヶ谷が可憐過ぎて目を合わせられないだけさ』
『相も変わらず、口が上手いな』
うっわぁ!
さらりと返す言い訳がキザなセリフになってる。しかも恭介が言うとなぜかキザっぽく聞えない。
――並みの女の子じゃコロリといってしまうのも無理はないのかも……。
ホントに恭介を相手に出来るか心配になってきた。
『では、私とティータイムを…と言っても無駄そうだな』
『悪いが後にしてくると助かる』
『ふむ、ならば仕方あるまい』
『ん?』
『――バシュッ!!』
『あ!? ちょ……!? な、何するんだよっ!?』
……来ヶ谷さんは恭介からマンガ本を取り上げたらしい。
『返して欲しくば私に追いついてみせるんだな!』
『ま、待て、来ヶ谷っ!! 返せっ!!』
全然さり気なくないよっ!
『はっはっは、私を捕まえてごらん』
『クソッ、待てっ!!』
『――ズダダダダダダダダダダアアァァァァーーーッ!!』
シチュエーションだけなら夕暮れの海岸で追いかけっこをする微笑ましいカップルだけど……
今、ズバ抜けた運動神経の持ち主二人が、全力疾走で本気の追いかけっこをしている!
『理樹君、後3秒でそちらに着く。準備を頼む』
『オッケーだよ!』
――ビシュッ!
来ヶ谷さんが疾風のごとき速度で目の前を通り過ぎる!
『出ろっ!』
――スタッ!
僕は律儀にトーストをくわえ、影から飛び出した!
「おわっ!?」
「ひゃっ……!?」
恭介は予想以上に速かった……!
バチコーーーンッ!!
目から火花が散る。
マンガのような尻モチで済むような衝撃ではなく、僕は後方へと吹っ飛ばされた!
恭介も慣性に従い、進行方向へ投げ出される!
吹っ飛ばされていく中、何かが僕の体を包み込んだ。
――ズザザザザザザザーーーッ!
…………。
「――いたたたた……」
頭が痛い……。
「大丈夫か?」
ゆっくりと目を開ける……。
「うっ、うわっ!?」
目の前には恭介の顔があった。
『――理樹君、無事か?』
耳元で来ヶ谷さんの声が聞える。
「人の顔を見るなり、『うわっ』はないだろ?」
――そういえば今はミッション中だった!
……恐らく恭介が咄嗟(とっさ)に僕をかばったのだろう。
今、恭介を下敷きにして、僕は恭介に抱きかかえられるような格好になっている――!
『ほわぁっ、理樹ちゃんだいじょうぶーっ!?」
『わふー……あついハグなのです~……』
『あれあれあれー、クド公まっかっかだぞー』
『謙吾のときよりも、しっかりと抱え込まれているな』
『お、俺の理樹がーっ!?』
し、しかもみんなに見られてたんだった!
――がばっ!
僕は、背に回されている恭介の手を解いて、急いで上体を起こした!
「その勢いがあるなら…怪我はなさそうだな」
恭介は優しげな表情でこちらを見ている。
……今、絶対自分の顔が赤くなっている自信がある……。
「ぷっ…はははっ」
恭介が不意に笑い出した。
「……?」
「いや、悪い悪い。まるでベタなラブストーリーの展開を見てるみたいでな」
「てっきり君が、強気に言い返してくるんじゃないか…なんて期待しちまってさ」
「俺もマンガの読み過ぎだな」
――とりあえずここまでは作戦通りのようだ。
『ふむ、恭介氏は「期待」という言葉を使ったな』
『……その言葉が出たということは、脈ありです』
『お、俺の理樹がーっ!?』
『おまえ、うっさいっ!』
「そうだな…ベタな流れなら君は転校生、だったりしてな」
純真無垢な少年のような笑顔だ。
う、うーん。とことんベタだけどとりあえず……。
――コクッ
「マジかよっ!?」
「……どうりで見ない顔だと思ったぜ」
「――もう友達は出来たのか?」
恭介の、いつものみんなを見守るような目で質問をしてくる。
――ふるっふるっ
僕はあえて首を横に振った。
「そうか……」
「……」
「なら、リトルバスターズのメンバーにならないか?」
「リトルバスターズってのは、まあ今は野球チームだ」
「個性的な奴らばっかで、絶対に面白いぜ」
恭介は、童心で純真無垢で屈託のない、何よりも本当に楽しそうな表情を見せている。
僕はその恭介の嬉しそうな、楽しそうな顔にクスクスと笑ってしまった。
「おいおい、笑うなよ? これでも俺は本気なんだぜ?」
『――楽しそうにしているところで悪いんだが』
来ヶ谷さんの声が聞えてきた。
『今キミたちはすごいポーズだからな』
『すごいポーズ?』
『そうだ小毬君、あのポーズを人は騎乗フグッ――モガモガッ!』
『……神北さんの純潔は私が守ります』
『う、うーん?』
……ええーっと。
恭介はさっき僕を助けて倒れこんだまま、床に背をつけている。
僕は、さっきの抱きかかえられたポーズから上半身を起こしている。
……両手は恭介の胸の上。
……仰向けになっている恭介の上に、言わば馬乗りになっている。
う、うわわわわわーーーっ!?
こここれって!?
か、顔全体が熱いっ!
ど、ど、ど、どうしよう!?
「お、おい? 急にどうしたんだ?」
急にわたふたとしだした僕を、恭介が不思議そうに見ているっ!
わーわーわーーーっ!
ま、まず落ち着こう!
と、と、取りあえず…押し倒している恭介を起こさなきゃっ!
――くいっ
「お、おい?」
僕は先程まで恭介の胸においていた両手を、首と肩の間に移し、そのまま恭介の上体を起こしてあげた。
恭介の上体を起こすと、自然に体と体の距離は縮まり、余った僕の両手はそのまま恭介の首の後ろで交差する――。
「…………」
「…………」
恭介は、鳩が豆鉄砲を食らった、という表現がピッタリとくる顔をしている。
こんな恭介の驚いた顔は初めて見た。
…………。
…………あ、あれ?
『ふ、ふえええぇぇぇーーーっ!?』
『り、り、理樹ちゃんそれはさすがにやりすぎーっ!』
『今までの中で一番大胆な行動だな……』
『……直枝さんが攻め……』
『………………………………』
『わふーっ!? 鈴さんが動かなくなってしまいましたっ!?』
『お、俺の理樹がぁーーーッ!』
――押し倒していたポーズから、僕が恭介にまたがりながら首に腕を絡めている……そんなポーズになってしまった!!
「…………」
「…………」
僕も恭介も言葉も出ないほど完全に固まっている。
恭介の顔が目の前にある。
あの恭介が目を丸くして、顔を赤くしている。
……たぶん僕はもっと真っ赤だ。
「…………」
「…………」
「い、いや……そのなんだ……せっ、積極的……だな」
恭介の言葉からかなり動揺していることが分かる。
「ご、ご、ご、ごめん……」
僕もなんとか言葉を搾り出す。
「ろ、廊下でコレってのも……ま、マズくないか?」
「ご、ご、ご、ごめん……」
離れようと思ってはいるんだけど……すっかり動揺してしまって、体全体が固まってしまっている。
……二人とも動けずにいる。
目を逸らそうにも…どこを見たらいいか分からず、恭介の顔に目が向く。
「…………」
「…………」
どれぐらいたったのだろうか?
長い時間がたってしまったように感じたが、実際はほんの5秒か10秒くらいなのだろう。
「……――!?」
突然……恭介の見開かれた目が、さらに見開かれた。
「お、おまえまさか……」
先程から少しは期待していたこと…どこかで期待していなかったこと……
それが今、このタイミングで恭介の口から放たれた――。
「理樹……なのか?」
「――――っ!?」
こんなことになってるときに、正体がバレたっ!!
カァァァッと全身が一気に熱を帯びる!
「…………っ」
恥ずかし過ぎて声が出ないっ!
「理樹…なんだな」
「…………」
うなずくことさえ出来ない!
「…………」
唖然としていた恭介だったけど、突然――。
「ははははっ」
「なんだよ、理樹! 顔が真っ赤だぞ」
さっきまでの唖然としていた顔から、いつものイタズラな笑顔を見せる恭介に戻っている。
「すっかり理樹に一杯食わされちまったな」
恭介が僕の頭をポンポンとしている。
「危ねえ…あと一歩で理樹に心を盗まれるところだったぜ……」
……いつもの調子の恭介に接して、僕もなんとか平常心を取り戻した。
――無線機の向こうからは。
『わわっ、あっと言う間に気付かれちゃいましたネ』
『ふえぇー……恭介さんやっぱりすごい』
『うむ、さすがは恭介氏と言ったところか』
『わふー……宮沢さんと大違いなのです……』
『……ふ、不覚だ……』
『……あと少しで直枝×棗が完成したというのに、残念です』
『ただのアホかと思ってたが、そうでもないみたいだな』
――みんなの言葉から、残念感とさすがは恭介、といった気持ちが伝わってくる。
「それにしてもだな……」
恭介はマジマジと僕の顔を観察している。
「……ど、どうしたの?」
「どうみても女だ……」
恭介は僕の顔を横に向かせたり、上を向かせたり、頬をつねったりしている。
「きょ、恭介っ」
「……ぐはっ、かわいい……」
恭介が萌えていたっ!
……ちょっとしたイタズラ心が湧いてくる。
「……恭介…お兄ちゃん」
ちょっと上目づかい気味に言ってみた。
「ぐっ……」
恭介は一瞬止まったかと思うと――。
「ぐはああぁぁぁーっ!? すげぇ…すげぇ破壊力だっ!!」
悶絶していた!
「も、もう一回頼む」
「恭介お兄ちゃん」
「うおぉぉーーーっ! 俺は今、猛烈に感動しているぅぅぅーーー!!」
恭介は歓喜の涙を流している……。
「も、も、もう一回」
「おにいちゃん」
「ぐはぁあぁあぁあぁあぁーーーっ!!」
『やっぱこいつ馬鹿だっ』
……鈴の呆れ果てた声が聞こえた……。
「――はぁ……はぁ……、悪い悪い」
恭介はなんとか落ち着きを取り戻した。
「これはヘタすると…リトルバスターズの女子メンバーの中で一番可愛いかもな」
恭介がイタズラな笑顔で言ってくる。
さり気なく僕は女子にカウントされているようだ。
「ぶつかった時は、『このままラブコメ突入だろ!?』と確信したんだがな……」
「ちぇっ、裸にエプロンまで俺の妄想は走ってたのによ……」
走りすぎだ。
「……よく僕だってわかったね?」
「そりゃわかるさ。今まで俺たち、何年もずっと一緒だったじゃないか」
恭介は、サラリと僕が待っていた言葉を口にする。
か、顔が熱いっ!
「おいおい、どうしたんだ? また顔が赤いぜ?」
「な、なんでもないよっ!」
顔が赤いことを指摘され、さらに熱くなる。
『――うむ、これは謙吾少年は完敗のようだな』
『謙吾は理樹の顔を見ても、きづかなかったからな』
『謙吾くんドンカーン』
『……か、返す言葉もない……』
無線機からは謙吾のヘコんだ声が聞える。
「――そうだ理樹、おまえに一つ言っておかなきゃならないことがある」
「え…何、恭介?」
「おまえ、まだ俺の首に腕を絡めたまんまだからな」
…………。
自分の様子を見てみる。
さっきと違うところといえば、話をして気が楽になったせいか……今度はしっかりと恭介の首に腕を絡めていた!!
「うわわわわわわわーーーっ!?」
「まあ、これはこれで面白いよな」
「お、お、面白くないよっ!」
僕は急いで立ち上がろうと、足を立てる。
――ぐにっ
何かを踏んだ。
……ぶつかる時に口にくわえていたトーストが足の下にあった。
僕はそのまま立ち上がろうとする。
頭はすっかり動揺しきっていて、恭介から離れることだけを考えていた。
恭介の両肩に手を掛け、中腰まで立ち上がったとき――
――ズルッ!
「わわっ!?」
「お、おいっ!?」
足が後方に持っていかれる!
支えを失い、両腕に全体重がかかる!
――ばったんーっ!
勢いをのせ、恭介を押し倒す形で、覆い被さるように倒れこんだ。
「…………」
「…………」
う…いたたたた……。
――目を開けると目の前に恭介の顔がある。
いや、近すぎてそれが恭介かどうかわからない。
頭が何も回らない。
「――――――――ッ!?」
事態があまりに唐突で、あまりに突飛すぎてよく理解が出来なかった。
それは、マンガによくある展開だった。
ベタ過ぎて、一笑に付されて終わるような展開。
妄想上にしか存在しない、現実では起こる可能性が限りなく無に近い展開。
それが、たった今、自分の身に起こってしまったことに対して理解が追いつかなかっただけだ。
――倒れた拍子に
――恭介と僕の口が……!?
……こここっ、これはキ、キ、キス……?
「――――――――ッ!?」
「……………………!?」
僕も恭介も、異常事態に完全に硬直してしまっている!!
耳元にみんなの錯乱気味な声が響いてくる!
『ふ、ふええええええええぇぇぇぇーーーっ!?』
『わふーーーっ!? お二人が……きっ、ききき、キキキキキキキスしていますっ!?』
『ひ、ひやあぁぁーーーっ!? り、理樹ちゃんが恭介さんを押し倒したーーーっ!!』
『お、おねーさんですらあそこまでの積極性は持ち合わせてはいないぞ……』
『……………………』
『ふええぇーっ!? り、りんちゃんしっかりしてーっ』
『……直枝×棗……リバ禁止リバ禁止リバ禁止……』
『ひゃーっ! ティッシュティッシュー! みおちんが壊れたーっ!』
『のおおおぉぉぉぉーーーっ!?』
『お、おい謙吾少年――落ち着け』
『く、来ヶ谷離せっ……おわっ!?』
――ガッシャ、バターーーンッ!!
その音で意識が現実に戻った!
体の硬直が急激に解ける!
「うわわわわわあああーーーっ!?」
「どわわわわわわあああぁあぁーーっ!?」
恭介からあたふたと体を離して、音をしたほうを向いた。
恭介もいつもからは想像できないほどあたふたしている!!
音がしたほうを見ると……。
空き教室のドアがはずれて倒れ、みんながその上に重なるように倒れていた!
恐らく、みんなドアに張り付くようにこちらを観察していたのだろう。
みんな目を丸くしていたが……。
「きょ、恭介っ! 俺の理樹にぃぃぃーーーっ!!」
「理樹ちゃーーーんっ!」
「お、お、おっ、おまえら!?」
みんな僕らの周りに駆け寄ってきた!
「わわわわわわーーーっ!? いいいいい今のはほ、ほ、ほ、ほらっ、じっ事故でその……ねっ、恭介?」
「そっ、そうだ。これはあれだ。不慮の事故ってヤツでだな……口はついてないような…ついちまったような……」
「二人ともグダグダだぞ」
来ヶ谷さんから鋭いツッコミが入る!
「きょ、恭介ご、ご、ごごご、ごめんっ!! ホントにごめんっ!!」
「すーーっ、はぁーーーっ」
恭介は深く呼吸をして……。
「理樹も少し落ち着けよ。ついたか、ついてないかわからない程度だったじゃないか」
――すでに恭介は落ち着きを取り戻していた。
「俺はちっとも気にしてないから、安心しろ」
……そうは言われてもっ!
「たかがキスだろ?」
「うわわわわわぁぁぁーーーっ!? やっぱり落ち着いてられないよっ!」
ファーストキスが男だなんてっ!
「理樹ちゃん、がばぁーっ恭介好きだぶちゅーーーって!!」
葉留佳さんが頬を紅色させて、なにやら興奮気味だ!
――みんなは少し遠めで見ていたから、僕が恭介を押し倒したように見えてしまってたらしい。
「ち、ちっ違うからっ! 恭介も何か言ってやってよ!」
「ああ、今日の理樹は驚くほど大胆だった……」
「きょ、恭介っ!? 悪ノリしないでよっ」
「俺…あれ、ファーストキスだったんだ……」
「わーわーわーわわわわわわわわーーーーっ!!」
恭介はすでに悪ノリモードに入っていた。
「ややややっぱり、リキもオオカミさんなのですーっ!!」
「ク、クド誤解っ!」
「理樹ちゃん、責任とって恭介さんをお婿さんにしなきゃダメ……なんだよ」
「そ、そんな小毬さんまで赤くならないでよっ」
小毬さんは顔を真っ赤にして、モジモジと落ち着かない。
「理樹のお婿さんか…それも悪くないな」
「悪いよっ!」
「まさか恭介氏が受けに回るとは…予想だにしなかった」
「……恭介さんが総受け……ぽっ」
「ちょ、ちょっと待て西園! 総受けって何だよ!?」
「……直枝さんになんだかんだ言って逆らえず、襲われてしまう恭介さん」
「……ぐっじょぶ……」
――輝くような笑顔で親指を立てる西園さん。
「ぐああああぁぁぁーーー! ありそうで怖えーーーっ!」
そんな恭介に、謙吾がズイッと近寄る。
「恭介、この口か? 理樹と口づけをしたのはこの口か?」
「落ち着け、謙吾……今のはマジで事故だからな」
「つまり……今恭介にキスをすれば、俺は理樹と間接キス……ということになるな?」
「なるワケあるかよ!! おまえ今ものすごいアブナイことを言ってるからな!?」
「なんだ、いいじゃないか。幸せを分かち合ってこその友だろ」
「それ友じゃねーよ! ホモだろ!! 俺に寄るなっ!!」
――うわぁっ、謙吾の壊れ方が酷くなってるっ!
「……う」
恭介が謙吾から逃げた先で、鈴と鉢合わせした。
「…………」
「りっ、鈴…どうした?」
「きょ、きょーすけは…理樹と、その、ちゅーして、謙吾ともちゅーするのか?」
「い、いや鈴、違――」
「ま、真人ともそーいうことしたいのか?」
「鈴、誤解だっ」
――恭介が鈴に一歩近づく。
「……う」
――鈴が一歩後退した。
「あのだな…さっきの理樹とのことは不可抗力でだな……」
「俺は決してそういうのじゃないからな」
「ほ、ほんとか?」
「ああ、本当だ」
「そ、そうなのか」
恭介の真剣な言葉に、鈴も納得したようだ。
「恭介……すまなかった。さっきは少々悪ノリがすぎた」
謙吾もさっきの悪ふざけで、鈴の誤解を招いてしまったことを詫びた。
「いいんだ、謙吾」
鈴がビクッと反応する!
「謙吾はいいのかっ!?」
「だああああああぁぁぁーーーっ!? いっ、いや、そういう意味じゃない!!」
あ。余計にピンチに陥れてしまったようだ。
「り、鈴」
――恭介が鈴に近づいた。
「よっ、よるなっ! へんたいっ!」
――ダダッ!
鈴が後ろに大きく飛び退いた!
「鈴、聞いてくれっ!」
「お、俺は変態じゃないからな」
……鈴はたぶん聞いていないと思う。
「ほ……」
「ホモ兄貴なんて絶対やじゃーーーっ!!」
鈴は恭介のことをホモホモ言いながら走り出したっ!
「り、鈴、待ってくれ…違うんだーーーっ! 俺はホモじゃないっ! ロリだーーーっ!!」
ぽろっとボロ出してるし……。
「どっちもやじゃっ、ぼけーーーっ!!」
二人はホモとロリを連呼しながら遠くへと走り去った――。
「理樹ちゃんと恭介さんの結婚式、たのしみだねー」
「たのしみなのです~」
――そして小毬さんとクドが結婚を真に受けてしまっていた!