花ざかりの理樹たちへ その22 ~学校・午前中編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「行くぞ謙吾!」
「俺の命、おまえに託した!!」
言葉だけ聞くとハードボイルドな展開だが、今二人はポッキーをくわえて向かい合っている。
「ほわっ!? こ、これはもしかしてとっても危険なゲームなのでは……」
小毬さんは今さら気付いたようだ。
「……どきどき」
見ちゃいけない…けど好奇心に勝てない、といったクドの熱いまなざしが二人を捕らえている。
「男らしく、ぶちゅー! ぐぴゃー! ってやっちゃってくださいナ」
それをやったらそもそも負けだし、男として立ち直れなくなると思う……。
「……あと少しっ、あと少しっ」
始まる前からテンション高めの西園さん。って、キャラ違うっ!?
「なにをするかわからんが、両方がんばれ」
鈴はまだ何をするかよくわかっていないようだ。
「ゲーム・スタート!」
来ヶ谷さんのスタートコールと同時に。
「うおおおおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉーーーっ!!」
「ぬおおおおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉーーーっ!!」
教室が揺れるのではないかと思うほどの二人の気迫が周囲を圧殺する!
とてもポッキーゲームをやっているとは思えない!!
「来いぃぃぃーーーっ!! 恭介ぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッ!!」
「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッ!!!」
「見よ!! これがポッキー流秘奥義――」
「ポッキーしゃくしゃくマッハ喰いィィィーーーッ!!」
ネーミングセンスが子供並みだっ!
――シャクシャクシャクシャクシャクーッ!!
恭介はすごいイキオイでポッキーを食べ――いや削り取っている!!
恭介は危険ながらも、本当の直前までいく気だっ
数ミリ単位で失われていくポッキーだが、その速度はまさに高速!
「ハーッハッハァーッ!! この真似が出来るかなー!!」
恭介は高笑いをしながらポッキーを消滅させていく……!
その時――
恭介に一つの影が近づいて――
「なにしとんじゃーーーっ!! ぼけーーーっ!!」
――ばきぃぃいっ!! ずばしぃぃいっ!!
鈴のハイキックが二人に炸裂!
「ぎゃほっ!?」
「がはぁぁっ!?」
見事に吹っ飛ぶ二人。
口から離れ、放り出されたポッキーを来ヶ谷さんがキャッチする。
「8センチと4ミリか……なかなか頑張ったな」
「お、おい…今のはもちろんノーカンだろう?」
謙吾が起き上がりながら抗議してきた。
「いや、これが君たちの記録だが」
「な、なにい……!?」
すまし顔の来ヶ谷さん。
「競輪で首位の自転車が巻き込まれて転倒しても、記録は記録であろう? それと同じだ」
「……た、確かに……」
恭介はというと――
「きょ…きょーすけなんて、もうキライだーっ!」
「り、鈴違うっ! これはそういうのじゃなくてだな……待ってくれっ!」
「きょーすけは、きしょいしホモだし、何よりきしょいっ!」
「きしょいって二回も言うなぁーーーっ!!」
……また兄妹間に深い溝を築きながら、二人は走り去った……。
「では、次は私達の番だな」
――改めて自分の様子を見てみる……。
椅子に腰を下ろしている来ヶ谷さんのヒザの上に腰をかけて、後ろから抱きかかえられている。
傍から見ると、仲良し姉妹に見えるらしいけど……。
もう、ちっとも男扱いされてないよ……。
「そうだな…作戦としては」
「こちらも向こうと同じで…キミは動かなくていい」
「おねーさんがリードしてあげよう」
…………。
どうでもいいけど、来ヶ谷さんが言うとアブナイ事にしか聞えない。
「スタートコールは葉留佳君に頼もう」
「まかせろ姉御ーっ!」
来ヶ谷さんがポッキーを取り出す。
「理樹君、こっちを向いてくわえてくれ」
「うん……」
僕は、来ヶ谷さんのヒザの上に座ったまま、体を捻り来ヶ谷さんと向き合う。
…………。
く、来ヶ谷さんをこんなに間近でゆっくり見たのは初めてだ……。
すごく緊張するっ!
「なんだ理樹君、顔が赤いぞ」
「はっはっは、そんな顔をしてると襲いたくなってくるな」
「全然冗談に聞えないよっ」
「わ、わふー…見ているだけで、何かどきどきします……」
「わ、私もなんかドキドキするよ~……」
クドと小毬さんが恥ずかしそうにこっちを見ている!
そういわれると、もっと緊張するっ!
「……今の来ヶ谷さんと直枝さんの背景には百合の花がお似合いです」
「……かしゃりかしゃり」
西園さんはシャッターを切りまくっている。
「例え勝負で負けようとも、気持ちでは俺のほうが勝っていることを肝に免じておくことだ」
開き直った人が約1名。
「じゃぁ理樹ちゃんに姉御、いくよー」
「げーむ・すたーとっ!」
来ヶ谷さんがゆっくりと進行を始める。
……うわわわわっ!
やっぱりドキドキするよっ
「ん……安心しろ理樹君、あの馬鹿二人の記録に勝った時点で終わる」
「う、うん」
「よろしい。それと……こういうときは目を閉じるものだぞ」
――僕は目を閉じた。
来ヶ谷さんが近づいてくるのがわかる。
――ドキドキ。
周りからは「ふぇぇ…」「わふー…」という注目の視線や「……宮沢さん…邪魔をしようとするなんて、それでも日本男児ですか?」とか聞えてくる。
腰に回されていた来ヶ谷さんの腕が、首に回される。
体がどんどん近くなっていく……。
来ヶ谷さんの息遣いが聞える。
――ドキドキドキ!
――ドッキドッキドッキ!
「……んんっ……」
緊張と、ポッキーから伝わる振動に…ついつい声が出てしまう。
「ん……」
僕の声に呼応するように、来ヶ谷さんからも甘い声が漏れる。
来ヶ谷さんの顔が、本当に、すぐ近くにあることがわかる。
吐息がかかる。
頭の中が白く塗りつぶされていく……。
――ガラガラ~ッ
突如、異質の音が響いた。
教室のドアが開けられた音だ。
「――あっ、あっあの!」
「きょきょきょ今日転入して来られた女子学生の方は、いらっしゃるかしら?」
トーンが高めの声。
「ほわわーっ!? さ、さーちゃんっ」
「あら神北さん、ちょうど良かったですわ。朝にお会いした転入生の方に、朝の、その…無礼を謝りたいと思いまして」
「え、えーっと…そのー」
「……どうなさったのですの? あら…そこにいらっしゃいますわね」
「わ、わふーっ!?」
――スタスタ……
「あ、あ、あのっ……さささ先程は、その…立ちくらみで、た、倒れてしまって……」
笹瀬川さんの声が聞えてくる。
「わ、わ、わたくしは大丈夫ですので、その、お気を悪く………………………………」
「…………………………――――――」
とても不自然な停止をした笹瀬川さん。
僕はゆっくりと目を開けた……。
「ん……どうした?」
来ヶ谷さんもそちらを向く。
少しはなれたところに、大きな瞳を真ん丸にしてこちらを凝視している笹瀬川さんがいた。
「あ……」
「――――――――――――――――――――」
ハンマーで小突いただけで砕け散るんじゃないかと思えるほど、芸術的なまでに硬直した笹瀬川さんがそこにいる!
「ふむ…なるほどな」
今、この様子は一体どのように見えたのだろう。
――少女と少女が重なり合うように座り、今まさにキスをしようとしている直前……。
何であれ…ゲームをしていた、なんて絶対に思っていないだろう。
「あ、あの~……笹瀬川さん……」
「―――――――――――――はわっ!?」
――ボンッ!
音が聞えたと思えるほどに、一瞬で笹瀬川さんの顔が真っ赤になった!!
かと思うと――。
「きゅぅぅ~っ……」
――ばたっ!
「さ、さ、笹瀬川さんっ!?」
……笹瀬川さんはまた失神した……。
「さ、佐々美さまーーーっ」
どこからともなくソフトボール部員が駆けつけてきた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「佐々美様を早く保健室へ!」
笹瀬川さんは再度3人のソフトボール部員に抱えられ退場した……。
「…………」
「…………」
「……あの方は一体何をなさりたかったのでしょう」
僕らは呆然とその姿を見送った……。
もちろんゲームは、双方の乱入ということでノーカンとなった……。