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花ざかりの理樹たちへ その34 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。


「俺の授業? はっ、そんなもんはしらねぇな!」

「いやいや、誰も聞いてないから」

「大体な、校則に『違う学年の授業を受けてはいけません』なんて書かれていない」

「当たり前すぎて書いてないだけなんだと思うよ…」

――案の定…恭介は僕たちの体育の授業を受ける気まんまんだった!

「それにな……」

「見た目は3年でも頭脳は2年だぜっ」

爽やかな笑顔でアホなことを言ってのける恭介。

「それ、自慢でも何でもないからね…」

「馬鹿すぎて何も言い返せないな」

鈴もすっかり呆れ果てている。

「こいつは言い出したら聞かないからな…」

ため息混じりの謙吾。

「ふむ…頭脳が2年生なら、余計にクラスで授業を受けたほうがいいのではないか?」

「言われてみればそうだね」

「恭介さん、きちんと3年生の授業を受けなきゃダメですよー」

「ワガママは良くないのですっ」

来ヶ谷さんの正論に小毬さんもクドも納得だ。

「…………」

あ、みんなの反論に恭介が詰まった。

「…………」

「そんなもん知るかあああぁぁぁぁぁーーーっ!!」

「理樹のブルマ姿なんて今日しか見れないだろっ!!」

「それを見れないなんて俺が可哀想じゃないか!!」

うわっ、本音が出た!!

「うおおっ、まるでこっちに非があるようで思わず謝ってしまいそうな勢いだぜ…」

「……完全に開き直ってますね」

真人も西園さんも、恭介の見事な開き直りっぷりに感服している。

「理樹、着替えはどこでするんだっ?」

「えっと…この教室が女子で、隣の教室が男子だよ」

「よし、着替えだ! 着替えちまえばこっちのもんだ!」

恭介はやけくそ気味だ!

「ちょ、ちょっと待ってよ! 恭介、着替えは持ってきてるのっ?」

「勿論持ってきてあるっ」

とっても準備万端だった!

「そろそろ時間だしな。俺たちも着替えに向かうとするか」

「そうだな」

謙吾と真人も着替えに向かうようだ。

「はぁ…うん、着替えに行こうか」

僕も半ば呆れつつ、みんなの後に続く。

「ん? 理樹も着替えしに行くのか?」

真人が不思議そうにそんなことを言う。

「スカートのままで体育なんかできないよっ」

「まあ、理樹がいいならいいけどよ」

「じゃあ、みんなまた後でね」

みんなに挨拶してから教室を出る。

「理樹君、ちょっと――」

後ろで引き止めるような声がした気がする……。





――ガラガラ~

恭介と隣の教室に入る。

もう男子のほとんどは着替えを始めていた。



――ピタッ



僕たちが教室に入ると、みんなが手を止め…おかしな物を見るような目でこちらを見つめている。

それはそうだ。

突然3年生が着替えの場にズカズカと入ってきたら、誰だって驚くに決まっている。

僕たちは、いつも着替えているポジションである教室の隅に移動する。

「マラソンか、わくわくしてきたぜ!」

みんなの気も知らず、一人テンションが上がっている3年生・棗恭介。

「恭介、クラスのみんながドン引きだから」

そう僕が言うと、恭介は複雑な顔をする。

「おまえが良いなら止めないが…本当にこっちで――」

「おっと、みんなオレのたくましい筋肉に見惚れちまってるようだな!」

「うわわっ!?」

真人が教室にパンツ一丁で入って来た!

「歩きながら脱いだらダメでしょ真人っ!」

「だってよ、少しでも多くの人にオレの筋肉を見せつけたいじゃねぇか」

まさに露出狂さんの意見だった!

そのうち体育も裸で受けるとか言い出しそうだ……。

最後に謙吾が入ってくる。

「今日履くブルマを向こうの教室に忘れていたぞ」

「ほら」

謙吾は懐からブルマを取り出すと、僕に手渡した。

「ありがと……って、なんでそんなとこから出てくるのさ!?」

ブルマは嫌な具合に温まっている!

「手に持って歩いた日には…最悪なあだ名が付けられそうだったものでな…」

た、たしかに。

この学校のネーミングセンスから言って『ハレンチ宮沢』『宮沢ブルマ』『マイッチング謙吾』が妥当なところだろう……。

「はぁ……」

ブルマを受け取った僕はため息をついた。



――さっ



ブルマを目の前に広げる。

――どこからどう見ても…真っ赤なブルマだ。

いくら見たからと言ってハーフパンツに変わることはない。

これだと太ももが露(あらわ)で……とても恥かしい。

けど体操着はこれしかないし…。



「僕……これ履くんだ……」

そんな自嘲気味な言葉が漏れる。

――どこかで生唾を飲むような音が聞えた気がする。

しかし着替えをしないことには始まらない。

「じゃあ、僕も着替えようかな」

リボンに手を掛ける。

――なんとなく教室が静かになった気がする。

「あ、あれれ?」

いつもと違う格好なので勝手が違う。

リボンが固く結ばれていて、なかなか解(ほど)けない。

「うーん」

「どうした?」

パンツ一丁の真人が寄ってくる。

「うん…リボンが固くて」

「おっと、そいつはオレの筋力の出番だな」

「破かないでね」

本当にこういうことに関しては、真人の筋力は頼りになる。



――するするする~



あんなに固かったリボンが、いとも簡単に解かれる。

「ほら、取れたぞ」

「ありがとう」

リボンを解いてくれた後も真人は僕の前から動かない。

僕は教室の一番の隅っこの角の部分にいるから、目の前に真人が立ちはだかると身動きが取れない。

「――理樹」

「どうしたの真人?」

僕は小首を傾げる。

「本当にこっちで着替えるのか?」

「え?」

…………。

自分の格好を再度確認する。

ブレザーにスカート、手には体操服とブルマ。

窓ガラスに映った自分の顔を見る。

――そこには、自分で言うのは気が憚(はばか)るが……可愛らしい女の子が映っている。

…………しまった。

「僕……女の子……」

いつものクセでついついこっちに来たけど……そういえば僕は今、女の子の格好をしていたんだった!

真人の隙間から、周りを見ると……。



着替えをしていた男子みんなが、卒倒したり鼻血を出したりしていた!!



「くわっ、可愛らしい女の子が堂々と男子の花園に乱入してきたぞ!?」

「うああああああんっ、ぱんつ見られたーっ! お婿に行けない~」

「ぐほっっ!? 今川義元似のおまえが神北さんのものまねするんじゃねぇっ!!」

「筋肉が邪魔で女の子の生着替えが見えません、その無駄な筋肉をマジでどけてもらえませんかねええええぇぇぇーーーっ!?」

「み、見たか!? 僕たちにこれ見よがしにブルマを掲げ…「ボクこれ履くんだ♪」だって……ブブブフーーーッ!!」

「ど、どうしよう!? ボクッ娘だよ、どうしよう!?」

「ヤバイ、ヤバイよマジヤバイ…どれくらいヤバイかっていうと、マジヤバイ」

「お、俺が死んだら……あの娘の生ブルマ写真を棺おけに……カクッ」

「しっかりしろーーーっ、坂本!! 遺言ブルマかよっ!! 死ぬなっ!!」

「ブルマ渡したのは宮沢だよなっ!? 宮沢の鬼畜な趣味かこれは!? 娘さん騙されちゃイカんぞっ! けど今日だけOKだ!!」



目の前には阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた!!

ブルマー!!と叫びながら戦隊モノの怪人バリに鼻血を爆発させる者…。

鮮血に身を染めながら倒れ行く者たち…。

僕の方を凝視したまま動かなくなってしまった者…。

教室が鮮血に染め上げられる!



――戦場がそこに存在した!!



「す、すげぇ殺傷力だなこりゃ……」

恭介でさえドン引きしている!!

「ふむ…引き止めておくべきだった…」

さすがの謙吾も青い顔で辺りを見回している。



――ガラガラッ!!

その光景に戦慄していると、教室のドアが開いた。

「理樹、女の子の着替えは向こうの教室……って、こわっ!? なんだこれ、こわっ!?」

「り、鈴っ」

鈴は教室の扉を開けるなり、驚愕している!

「りっ理樹っ! 今、助けるっ」

噴出す血しぶきと床を濡らす血溜まり、そして倒れている者たちを飛び越え、鈴が駆けてくる!

「理樹っ!!」

「鈴っ!」

鈴が僕の元にたどり着いた!

「くるがやから理樹の奪還ミッションを受けた。理樹を連れて行くぞ」

「おう、連れて行ってやってくれ」

真人が僕を鈴に渡す。

「このまま理樹が着替えを始めたら……マジで死人が出かねないからな」

恭介も戦々恐々だ!

「理樹、こっちだっ」

「う、うん」

「道はあたしが切り開くっ!」

「おまえら、どけぇぇぇーーーっ!!」

鈴に手を引かれ、まるで戦場のような男子の教室を後にした。





「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

鈴と一緒に女子の教室に転がり込む!!

「ミッション・コンプリート!!」

「理樹を無事救出してきた」

「ふ、ふぅ……」

一安心する。

僕はもう、こちらで着替えするしかないようだ…。

「うむ、鈴君ごくろう」

「……やはりあちらは大惨事になってしまったようですね」

ニヤリとした来ヶ谷さんと西園さん。

……この二人、きっとこうなることをわかっていたに違いない。

「わ、わふーーーっ!? 鈴さんっ、そ、その血はどうしたのですかっ!?」

「ふえっ!? 鈴ちゃん、どこかケガしたのっ!?」

大慌てのクドと小毬さん。

「これはあたしの血じゃない。全て返り血だ」

「あそこはまさに戦場だった」

「一歩まちがえば死ぬところだった」

「えええええええええぇぇぇぇぇーーーっ!?」

きっと今の小毬さんの頭の中には、女スパイ・鈴による映画のような壮絶なる奪還バトルが繰り広げられていそうだった……。