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花ざかりの理樹たちへ その37 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



「…男性陣どころか男子がいないな」

――今日の体育の集合場所は学校の前庭なのだが……。

恭介たちを含め、男子がまだ出てきていないようだ。

「うーん? もうすぐ授業始まっちゃうのに、みんなどうしちゃったんだろうね?」

今、前庭には女子ばかりが集まっている。

みんなで首を捻っていると、周りの女子の話し声が聞えてきた。



「――ねぇ、聞いた? 聞いた?」

「え、ちょ、何? 聞いただけじゃマジわかんないんですけど」

「空気読めよ、おまえ空気読めって! 聞いたって聞いたらたらナニナニって聞いてくんのがイッパンジョーシキじゃん?」

「え、ちょ、何? アンタの言葉、聞いた聞いたばっかでマジ呪文なんですけど」

「もういいから聞けよ、聞いとけって。男の更衣室でさぁ……」

「男!? え、ちょ、何!? そこんとこマジ詳しく聞かせろって!」

「……流血騒ぎ、あったらしいよー!!」

「え、ちょ、何!? マジ系!? それマジ系!?」

「ぶっちゃけ、侵入者が来たらしくてさ、男のほとんどが…ヤバイらしいよ」

「え、ちょ、何!? それ何気にマジヤバ気じゃん!?」



「ふむ、なるほどな。周りの話から察するに――」

「男子更衣室に侵入者があり、男子のほとんどが授業出席に支障をきたした……」

「――と、言うことらしいぞ、理樹君」

ニヤニヤと来ヶ谷さんが僕を見てきた。

「……あ、あははは……」

最初に入った男子更衣室の惨劇が脳裏を過(よ)ぎる。

いやもう、身に覚えがありすぎて笑うしかないよ…。

「みみみみみみんな大丈夫なのかな!?」

「し、心配なのですーっ!!」

そういえば、小毬さんもクドもその侵入者が僕だと知らないんだ。

「ふむ…侵入者は殺傷性の高い…真紅に染まった凶器を持っていったからな」

いや確かに赤いブルマを持って入ったけどっ!

「……もしかしたら井ノ原さん、宮沢さん、恭介さんは……もう」

「あたしが理樹を救出に行ったときはすでに手遅れだった」

「わ、わ、わふーーーっ!?」

クドはあたふたとしているっ!!

「いやいや、みんな大げさに言ってるだけだからね……」

「――あ、男子が出てきたぞっ」

鈴が指差したほうを見る。

「うむ、あれは真人少年だな」

真人が玄関から現れた。

謙吾と恭介は一緒ではないみたいだ。

「い、い、い、井ノ原さーーーんっ!!」

クドがぱたぱたと真人の元に駆けて行く。



――ぽふーんっ



真人に飛びつくクド。

「おう、どうしたクー公」

「ど、ど、どこもケガはないですかっ!? 痛いところとかありませんかっ!?」

クドは真人の体をぽふぽふと叩いている。

「あーっと、なに言ってんだ?」

真人は不思議そうな顔だ。

「わ、わふーっ!! そちらの教室で目を覆いたくなるような大惨事が起きたの聞いたのですっ!」

クドの頭の中で、みんなの話がさらに大げさに展開されているようだ!

「おう、たしかにすげぇことはあったけどよ」

「オレと謙吾と恭介は何ともないぜ」

「けどよ…他の奴らが貧血でぶっ倒れちまってな」

「ただの貧血…ですか?」

「おうよ」

「わふー、それなら一安心ですっ! 筋肉をつければ万事解決なのですっ」

「ちょっと待てクー公!?」

「どうしたのですか?」

「それ今オレが考えてたことじゃねぇか!? まさかクー公はエスパーなのか!?」

「わ、わふー!? なぜだか井ノ原さんの考えていることがわかってしまいました!?」

「も、もしや私は知らず知らずのうちに超能力に目覚めてしまったのでしょうかっ!?」

いや、違うと思う。



――真人が僕たちと合流する。

「遅いぞ真人っ!」

「遅かったな真人少年」

「いやな、クラスの奴らを保健室に運んでて遅くなっちまった」

「今の保健室とその前の廊下なんて戦時中の病院さながらだぜ」

うわっ、僕のちょっとした勘違いがさらなる惨事を招いちゃったようだ!

「馬鹿兄貴たちはどうしたんだ?」

「二人もそろそろ来るぜ」

「今日は男子が少なくなっちまったから、女子と合同体育だとよ」

「…ったく、理樹がたかがブルマなんかに着替えるだけで――」

真人と目が合った。

真人は……口をパクパクとしている。

「?」



――ズザッ



真人が一歩後ずさった。

「たかが…ブルマに……」

真人は僕を見たまま瞬き一つしない。

「どうしたの?」

僕は小首を傾げる。

「たかが…理樹の…ブルマ……理樹の……」

何やら真人はプルプルとしていたが……。

「されどブルマあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁーーーっ!!」

「ええええええぇぇぇぇーーーっ!?」

突然真人が頭を抱え込んで崩れ落ちた!!

「ど、どうしたの真人っ、大丈夫!?」

僕は真人に駆け寄ろうとする。

「く、来るな! 来るんじゃねぇっ理樹っ!!」

「!?」

真人に強い語調で止められた。

「頼む…こんなオレに寄らねぇでくれ……」

「ま、真人…」

「すまねぇ、理樹…オレは親友のおまえを…大親友のおまえのことをっ」

真人は顔をしかめ、地面を握り拳で叩く。

「私わかっちゃったよー」

小毬さんがにっこりと人差し指を立てる。

「真人君はブルマの理樹ちゃんも可愛いな、って思っちゃったんだねー」

「うああああああぁぁぁぁぁーーーっ!? なんでバレちまったんだあぁぁぁーーーっ!?」

うわっ、自白しちゃってるよ真人っ!!

「着替えのときの理樹の肌がきれいだった」

さらに鈴の追い討ち!

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーー!! 見てぇーーーっ!!」

真人は頭抱えてジタバタしている!

「クソッ欲望に負けてたまるかよっ! 理樹はオレの親友だっ!!」

「…けどこのブルマは、絶対やべぇよな」

「ぐ、ぐあぁあぁあぁあぁあぁあぁーーーっ!?」

「ま、真人っ!?」

恐らく、今真人の中では天使の真人と悪魔の真人が壮絶バトルを繰り広げているんだ!



そこに悪魔の化身のような来ヶ谷さんが寄って行く。

「ブルマ姿の理樹君は興奮モノだな、真人少年」

「グっ…そっ、その手には乗らねぇよ、来ヶ谷の姐さんよぉ!!」

苦しそうに答える真人。

「ならば真人少年、ブルマ姿の理樹君と一緒に筋トレに励んでいる光景を思い浮かべてみろ」

「へっ、その程度でオレが動揺するとでも――」

「腕立て伏せをする理樹君。理樹君の汗ばむ肌…理樹君のはしゃぐように揺れる胸…激しく上下するオシリ…食い込むブルマ……」

「筋トレ後に、汗ばんだ体操服のままの無防備な姿で寝転ぶ理樹君……」

「そして理樹君のまどろんだ瞳がキミに向けられている……」

「どうだ…真人少年?」

「うおおおおぉぉぉーーーっ!! やべぇ! やっべぇよっ!!」

嬉しそうな、それでいて葛藤しているような顔でのた打ち回る真人!!

間違いなくやっべぇのは僕の身の方だっ!!!

「……井ノ原さん」

「落ち着いたらどうです? 直枝さんはあなたの親友なのですよ?」

欲望に打ち負けそうな真人に、西園さんが天使のような優しい口調で訴えかける。

「ぐっハァッ!!?」

電撃に打たれたように急停止する。

「ぐっハァ、ハァ、ハァ…あ、ああ…そっ、そうだな」

「オ、オレはどうかしてたぜ…親友を…大親友の理樹を変な目で見ちまうなんてよ」

「本当にすまねぇ、理樹っ」

「そ…そんなに気にしなくてもいいよ、真人」

西園さんの言葉で、真人は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。

「……そうですよ。ほら、素直な気持ちで直枝さんを見てください」

西園さんは、ヒザを着いて息を荒くしている真人の横にしゃがみ込み、僕を指差す。

「あ、あぁ?」

「……体に密着して、直枝さんの華奢(きゃしゃ)なボディラインを映えさせる体操服」

「ぐっ」

「ブルマで強調されるオシリの曲線」

「んなっ!?」

「そのブルマからスラリと伸びる綺麗で程よく筋肉がついた脚」

「うおっ!?」

「衣がないところの白く柔らかそうな肌なんて、それはもう絶品です」

「う、うおおおお…っ!?」

真人が目を皿のようにして見つめてくる!!

「ままま真人っ! そんな色んなとこ見つめてこないでよーっ!!」

そこまで凝視されるとむちゃくちゃ恥かしいっ!

「……あ……」

「井ノ原さんが見つめていると…ほら」

「……直枝さんの白い肌が少しずつピンク色を帯びてきているのがわかりますよね…?」

「ちょっ、ちょっちょっとっっ!! にににに西園さーーーんっ!!」

西園さんが変なことを言うから、余計に恥かしいーっ!!

「って真人、鼻血鼻血っ!」

「うおおおおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉーーーっ!!?」

鼻血も拭かず、両手をワキワキさせながら真人が立ち上がる!!

「や、やっ、やべぇオギオギしてきた!! いやオギオギを通り越してモギモギだぁああああぁぁぁーーー!!」

真人は新語を生み出しながら、グネングネンと悶えている!!

「……最後に一言、井ノ原さんに言うことがあります」

目を細め、うっすらと笑みを浮かべる西園さん。

「……直枝さんは井ノ原さんの――親友――ですからね」

西園さんが静かに、それでいてズバリと呟いた…。

「…………………………」

あ、真人の時が止まった。

「………………」

「…………」

「……」

「んがあああぁぁぁーーーっ!? いったいオレはどーすりゃいいんだぁぁぁーーーっ!?」

「わふーーーっ!? 井ノ原さんの思考回路はショート寸前なのですっ!?」

「ふえええぇぇぇーーーっ!? 真人君しっかりしてーっ!」

頭を抱えたままの格好で地面をバウンドしながら転げまわっている真人と、それに駆け寄るクドと小毬さん…。



真人がバウンドしながら去って行った後には――

「……冗談です」

天使のような悪魔の笑顔の西園さんが一人、静かにたたずんでいた……。







■お知らせ■
「花ざかりの理樹たちへ」を読んでくださり、ありがとうございます!
多くの方々に読んでいただき…感謝の気持ちで一杯です!
いつも、皆様からいただいたWEB拍手やメッセージを頬を緩ませながら読ませてもらっています。

今回は2週間ほど更新をお休みしてしまいました。
8月にSSを始めてからこんなに長い間更新しなかったのは初めてです。
楽しみに待ってくださっていた方…ごめんなさい!

さて、今回・次回・次々回と男性陣のリアクションパートです。
次回!
「我に返った謙吾! 俺は目的のためならば手段を選ばん!」
をお送りします。
更新日は11月24日(土)です。
次々回の更新は11月26日(月)となります。