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花ざかりの理樹たちへ その39 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。


しばらくして――

「真人おおおぉぉぉーーーっ!! 謙吾おおおぉぉぉーーーっ!!」

恭介がとんでもない勢いで玄関から飛び出してきた。

「おまえらが抜け駆けしたら、俺が抜け駆けられないだろっ!!」

「いやいやいや、それ当たり前だからね…」

謙吾と同じことを言って走ってくる恭介に、とりあえずツッコんでおく。

「…ん?」

「こいつら、どうしたんだ?」

恭介の足元には、真っ白に燃え尽きた真人と幸せそうな顔で携帯を抱きしめて倒れている謙吾がいた。

「あーうん。そっとしておいてやってよ…」

そこで恭介と目が合った。

「り、理樹…理樹なのかっ!?」



――ゴクリっ



恭介は生唾を飲み込んで、目を真ん丸にしている。

そ、そんな風に見られると恥かしいよっ!

「リキ、恭介さんにもお披露目なのですっ」

「理樹ちゃん、くるっと一回転してみてー」

「う、うん」

「恭介が用意してくれた体操服を着てみたんだけど…どうかな?」



――ふわっ



僕は恭介の前で軽く一回転してみた。

「理樹ちゃん、すっごくかわいいよ~」

「せくしゃる・ぷりてぃーなのです~っ」

「やっぱり理樹はなに着ても似合うな」

「うむ、キミの可愛さはもはや犯罪だな」

「……直枝さんのフィギュアが欲しいです」

女性陣から黄色い声が上がる。

恭介はというと――

「…………………………………………」

固まっていた!

「おーい、馬鹿兄貴ー」

恭介の前で手をヒラヒラとさせる鈴。

「……ハッ!?」

現実世界に帰って来たようだ。

「こ、こいつは…………」

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」

バスケットの試合に勝利した選手のごとく、力一杯のガッツポーズを決める恭介!

「わふーーーっ!? 恭介さんの目から涙が溢れ出ているのですっ!?」

「当ったり前だろっ!」

「俺は今…猛烈に感動しているぅぅぅーーーっ!!」

うわ、恭介が僕を見て涙を流してるし!

「いやいや、泣くほど喜ばれても困るからっ」

「こいつばかだっ!」

鈴だって呆れ気味だ!

「理樹っ!」

恭介に肩をガッシリと掴まれる。

「おまえは俺が今まで生きてきた中で一番――」

「一番……?」

続きが気になる。

「ブルマが似合ってるぜ!!」

「えええええええぇぇぇぇぇぇーーーっ!?」

すごく嬉しくなかった!!

「こいつすごいばかだっ!」

鈴が新種の生き物でも見つけたかのように恭介を見ている。

「よし! パーティーの準備だ!!」

「きょ、恭介っ、パーティーって何のパーティー!?」

「決まってるだろ、理樹パーティーの準備さ!」

そういうと僕らに背を向け駆け出した!

「ヒィイーーーーヤァーーーッホォォォオオオゥゥゥゥーーーッ!!」

「あ、恭介! ちょっと待ってよっ」

「あいつ、くちゃくちゃばかだっ!!」

「恭介さん、すっごくうれしそうでよかったねー」

「はいっ、私たちまではぴねすな気分になるのですっ」

「うむ、あそこまで飛んでしまうと着いて行けんがな」

「……恭介さんは黙っていればカッコいいのですが……夢が壊れます」

みんな、はしゃぎ回る恭介を見て思い思いのことを口にしている。

そして恭介は。

「イヤッハァーーーァイヨェェエェエエーーー――……」

「ゲホッゲホッ、ケプッ」

咽(むせ)ていた……。

「自分の兄貴ながら、ばかすぎて着いていけない」

「そうだね…」

僕と鈴は、少し離れているところで咳き込んでいる恭介を見て呆れていた。

「ゲッホ! ゲッホッ!」

「……む、何か様子がおかしくないか?」

「え…?」

「ゲホホッ! ガホッ……」

「恭介?」

恭介は少しはなれたところで僕たちに背を向け、静かに自分の両手を見つめていた。

「馬鹿兄貴、どうした?」

鈴が恭介の元に行こうとすると……。

「なんじゃこりゃあああああぁぁぁーーーっ!!?」

恭介が両手を掲げた。

そこには――

「わふーっ!? あ、あああああ、あれはまさか……血でしょうかっ!?」

恭介の掲げた両手は真っ赤に染まっていた!!



――ガクッ



恭介がヒザを着いた。

「きょ、恭介っ!!」

「きょーすけぇーっ!!」

急いで恭介の元に駆けつける。

「恭介っ!!」

恭介の体を支え、ゆっくりと地面に寝かした。

顔を見ると、口の周りも赤く染まっていた。

「ま、ま、まさか恭介……」

「ああ、今まさに吐血をしちまった……」

「と、吐血!?」

「そうだ……ゲホッゲホッ!」

咳き込む恭介。

「きょ、きょーすけっ!」

「……とりあえず日傘で、他の方に恭介さんの様子が見えないようにしておきました」

恭介の頭側に日傘を添える西園さん。

「い、今すぐ保健室――いや救急車に電話するよっ!!」

「しなくていい理樹!」

携帯を取り出そうとする僕の手がガッシリと押さえられる。

「けど、恭介――」

「いいんだ」

「――よく聞いてくれ」

恭介が咳き込みながら話し始める。

「…俺の体は、宇宙放射線病という不治の病に侵されている」

「就活中に大量の宇宙放射線を浴びちまってな……」

「もう、そんなには長くない」

「だから今は、おまえらと一緒にいさせてくれ……」

「恭介っ!」

「うああああん、恭介さはぁぁんっ!!」

「恭介さんっ、しっかりしてくださいーっ!!」

小毬さんとクドはすでに泣いてしまっている。

「二人とも泣くな……ゴホッゴホッ」

「――鈴と理樹、俺の手を……」

恭介が手を差し出す。

右手を僕が、左手を鈴が握る。

「きょーすけっ、死ぬなっ」

「鈴…こんな時くらいお兄ちゃんと呼んだらどうだ?」

「お、お、お、お兄ちゃん」

鈴は少し照れながらも恭介のことをお兄ちゃんと呼んだ。

「……初めてお兄ちゃんと呼んでくれたな、鈴」

にっこりと微笑む恭介。

「――理樹」

「なに、恭介?」

恭介が僕の顔を見つめる。

「……俺はおまえのことを可愛いいも…弟のように思っている」

「僕だって恭介のことを家族のように、いや家族だと思ってるよ!」

「そうか…そいつは嬉しいな」

「よかったら俺のことを……お兄ちゃんと呼んでくれないか?」

恭介が僕の顔をしっかりと見据えている。

「うん」

「……恭介、お兄ちゃん」

「ぐ、ぐああああああぁぁぁぁっ!」

「恭介大丈夫!?」

「はぁはぁはぁ…ああ、さっきより幾分楽になったみたいだ」

「ほんと?」

たしかに辛そう…というより、どちらかと言うと幸せそうだ。

「も、もう一回頼む」

「恭介お兄ちゃん」

「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!」

「おにいちゃん、ほんとに大丈夫っ!?」

「ぐっはあああぁぁぁっ!! 体操服とブルマとおにいちゃんってそりゃマズいだろっ!!」

恭介は全身にビーンッと力を入れ、うっすらと汗ばんでいる!

けど顔だけはめちゃくちゃ嬉しそうだ!

「……はぁはぁはぁ……」

少しして、恭介の体の力が抜けた。

「きょーすけの容態が良くなってきたみたいだな」

嬉しそうな鈴。

「そうだね」

「――少しいいか?」

恭介が僕が握っている方の手に力を入れる。

「どうしたの?」

「地面に直に寝ていたせいか…頭が痛くてな」

「何か枕の代わりになりそうなもの――例えば膝(ひざ)とか――を頭の下に敷いてもらえないか?」

一瞬恭介の目がキラリと光った気がした。

「ふむ、ならば私が膝枕をしてやろう」

「いやいい」

即答する恭介。

「理樹…何か…そこら辺に何かやわらかいものはないか、ゲホッゲホッ」

「恭介、大丈夫!?」

「――やわらかいものなんて…即席で用意するならやっぱり膝枕くらいしかないよ」

「……なら仕方ないな…理樹、お願いできるか?」

「もちろんいいよ」

恭介の手を離し、恭介の頭の方へ移動し膝を折って座る。

「ほら恭介…頭を乗せて」

「悪いな、理樹っ!」

恭介が妙ににやけた顔で上体を起こそうとしたとき――



「――待て理樹」

声がした方を見上げると……そこには謙吾と真人が立っていた。

「おまえは恭介の手を握っていてやれ」

「けど謙吾――」

その言葉を謙吾に遮られる。

「俺も…俺も友のために何かをしてやりたいんだ」

「――膝枕は、俺が代わろう」

「へ!?」

恭介のにやけた表情が一変して、驚愕の表情に変わる。

「ほら恭介、来い」



――ぐいっ、ぼふっ



謙吾は恭介の上体を軽々と持ち上げ、自分の膝の上に恭介の頭を乗せた!

「ひっひぎゃあああああああぁぁぁぁぁーーーっ!!」

半べそで起き上がろうとする恭介を謙吾が膝に戻す。

「どこか苦しいのかもしれんが……今は動くな」

謙吾が優しく恭介に訴えかける。

「理樹……わりぃけどオレにも恭介の手を握らせてくれ……」

真人が辛そうな顔で恭介を見つめている。

「オレだって恭介に何かしてやりてぇんだ…わかってくれるよな?」

「うん…そうだよね」

恭介の手を真人にそっと握らせる。

「いや、理樹…ちょっ、ちょっと待ってくれ!!」

「動くと体に障るぞ」

起き上がろうとした恭介を自分の膝に戻す謙吾。

「安心して恭介、僕はここにいるよ」

恭介の位置からだと、真人の影になって見えていないようだ。

「恭介ぇぇぇーーーっ!! クソッ、馬鹿野郎……なんだってこんなことになっちまったんだよっ」

真人が恭介の手をギュッと握る!!



――メキャメキャメキャッ!!



「ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁーーーっ!!」

悶絶する恭介!

「動くと体に障るぞ」

そして謙吾はそっと自分の膝に恭介を戻す!

そのとき、ポロッと恭介から何かが落ちた。

「……ビニール袋?」

来ヶ谷さんがその赤い液体が入ったビニール袋を拾い上げた。

恭介たちはそれに気付いていないようだ。

「ふむ、これは……」

来ヶ谷さんがその袋を持って恭介から離れ、僕たちを手招きする。

大騒ぎしている恭介、謙吾、真人以外が後に続く。





「――くるがや、それはなんだ?」

「わふーっ!? も、もしや血ですかっ!?」

「……いえ、違いますね」

「これはケチャップだな」

あ、やっぱり。

「どういうことだ?」

鈴が首を捻っている。

「つまり、今までのことは全て恭介氏の演技だった…ということだ」

「私たちが見えないところで、手と口にケチャップを塗ったのだろう」

いやまあ、そうだとは思ってたけど。

「なにぃ!?」

うわっ、鈴の毛が逆立っている!

「ふえぇぇっ!? け、けどよかったよ~」

「よかったのですーっ」

胸を撫で下ろす小毬さんとクド。

「……手の込んだイタズラを考えたものです」

西園さんも呆れかえっている。

「あの馬鹿兄貴は、どーしてこんなことしたんだっ?」

「大方、鈴君と理樹君におにいちゃんと呼んでもらいたかったのだろう」

「あとは…理樹君の生脚膝枕が目当てだったのだろうな」

「その気持ちはおねーさんもよくわかる」

「……私もよくわかります」

「私もその気持ちわかっちゃうよー」

「わふー、気持ち良さそうなのですっ」

「みんなわかっちゃうんだ!?」

なんと言うか、このままの格好ではとても身が危険だったようだ!

「――馬鹿兄貴めっ、とっちめてやるっ!」

ズカズカと恭介に向かおうとする鈴。

「いや、待て鈴君」

「とめるな、くるがやっ!」

「……お仕置きの必要はなさそうだ。あの様子を見てみろ」

来ヶ谷さんの言葉に、恭介たちの方を見る。





「お、俺はもう完治した! 治った!! だから頼むから起き上がらせてくれぇーっ!!」

「強がりはよせ恭介…今はゆっくりと休め、俺の膝でな」

――ぐにょ

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ……し…死ぬ……っ」

「死ぬんじゃねぇぇぇーーーっ!! 恭介ぇぇぇーーーっ!!」

――メキャメキャメキャッ!!

「ぎゃああああああああぁぁぁぁーーー――……」

「マズいぞ!? 白目をむいている!」

「なにぃっ!? 今、筋力注入してやるから目を覚ましてくれぇぇぇーーーっ!!」

――メキャメキャメキャゴキャッッ!!

「――……ひぃぃぃぎゃああああああああああぁぁぁぁっ!!」

「やったぞ真人!! 恭介が目を覚ました!」

「やべぇ…筋肉が引き起こした奇跡だ!」

「良かったな恭介っ! よし、快気祝いに俺の柔らかくも張りがあるフトモモに顔を埋めてゆっくり休めっ」

――ぐにょぐにょぐにょ~

「ぎょょわああああああああぁぁぁぁーーー――……」

「ヤバいぞ!! 恭介の呼吸が…呼吸が…止まった!!」

「なにぃっ!?」

「真人、マウス・トゥ・マウスだ!」

「あいよっ!」

「…………」

「……恥かしいからホッペでいいか?」

「ああ、やらんよりはマシだろう」

「――……んぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

「やったぞ真人!! 恭介が息を吹き返したぞ!」

「やべぇ、友を思う力――友情パワーが引き起こした奇跡だっ!!」



………………。

…………。

う、うわぁぁぁ……。

「……新手の拷問器具でしょうか」

「ああ、おねーさんですら恐怖するほどだ」

「馬鹿ながらかわいそうだな」

そこには失神さえも許されない地獄が広がっていた!!



そして。

「ふえぇ…どんだけー」

「わふー…どんだけー」

世にも珍しい小毬さんとクドのツッコミさえ入れられていた…。