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花ざかりの理樹たちへ その41(後編) ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



「――リーキーっ!」

謙吾を置いて走っていると後ろからクドの声が聞えてきた。

振り返ると、マントをなびかせた人影がぱたぱたと走ってくる。

「――ふぅ」

僕は休憩がてら、立ち止まってクドが着くのを待つことにした。

「リキーっ」

マントをなびかせた人影がどんどん大きくなっていく。

「リキーっ」

人影がどんどん、どんどん……。

って、異様に大きい気がする!

「ワッフウウウゥゥゥーーーッ!!」

って、あれはクドじゃない!!

あの筋肉…。

間違いないっ!!

真人だっ!!

「わふううううううううぅぅぅぅぅーーーーっ!!」

――ドタバタドタバターッ

真人がクドの帽子を頭の上に乗せ、マントを翻(ひるがえ)しながら走ってきた!!

「やっと追いついたぜ」

「ど、どうしたの…その格好?」

「ああ、これか?」

「クー公と手を組んでな」

「オレがクー公のマネをして、クー公がオレのマネをして理樹を抱腹絶倒させてやろうという魂胆だ」

真人の格好をマジマジと見る。

クドのマネというより、どちらかと言えば指一本で相手を内部から爆発させちゃう拳法を使う世紀末覇者だ。

「あれ? クドはどうしたの?」

「ほれ、まだあそこにいるぜ」

真人が指差したほうを見る。

「井ノ原さーん、早すぎなのです~っ」

――ぱたぱたぱた~っ

……。

クドは真人の学ランとズボンを着用しているが、どちらも裾が余りに余っている。

そして律儀にハチマキも頭に巻いている。

――ぐにっ

「わふっ!?」

――べちゃんっ

あ。クドが裾を踏んずけて転んだ。

「クド、大丈夫?」

転んだクドに駆け寄る。

「わふー…イタイタなのです…」

よろよろと起き上がる。

「わふっ! 今度は目の前が真っ暗なのですっ!?」

ハチマキがずり落ち、クドの目にかかっていた。

「お先真っ暗なのですっ!?」

――ぐにっ

「わふっ!?」

――べちゃんっ

「ああ、もう…」

クドを助け起こし、ハチマキの位置を直してあげた。

「リキ、さんきゅーなのですっ」

「うん」

「よっしゃ、クー公! 手はず通り行くぜ」

「はいっ」

クドが僕に寄って来た。

「はろ~リキ、きんにくー、きんにくーなのですっ」

クドがいつもの真人の筋肉ダンスを踊る。

「きんにくー、きんにくー、なのですっ」

ノリノリで両手とオシリを交互に振るクド。

余った服の袖が左右に舞う。

……はっきり言って、めちゃくちゃ――鈴風に言うとくちゃくちゃカワイイ。

「こいつ、顔赤くね?」

「あ、あ、あ、赤くないからっ!」

時々真人って鋭いんだよね…。

「じゃあ、次はオレがクー公のマネするからな」

真人がマントをなびかせ寄ってくる。

「おらぁ、理樹、わふー」

こっちは何がしたいのかよくわからない。

「い、井ノ原さんっ! リキがちっとも笑っていないのですっ」

「くそっ、まさかこれで理樹がうけねぇなんて予想外だぜ…」

これでうけると思っている真人がすごいと思う。

「次こそ私のモノマネでリキの横隔膜を痙攣させてやるのですーっ」

「では、筋トレ中に徐々にテンションが高くなっていく井ノ原さんのマネ」

クドがぴょこぴょこと腕立て伏せを始めた。

「わふっ、わふっ…筋肉、筋肉っ」

「わふっ…わふっ…筋肉がうなるのですっ! うなりを上げているっぽいのですっ!」

「わふーっ、すごいうなりなのですっ!」

「わふっ、わふっ…」

「これはピンチですっ、あまりのうなりに私自身がついていけませんっ」

「…………」

「わ、わふ……」

腕立て伏せをしている手がプルプルと産まれ立ての小鹿のように震えている!

言葉通り、クド自身がついていってないようだ!

「もはやへろへろです……」

――ぺたんっ

クドが似てたか似ていなかったかは置いておいて、がんばりは認めたいと思う。

「ならオレが、クー公のマネで理樹にギャフンと言わせてやるぜ!」

いや、ギャフンと言わされても困るんだけど。

「じゃあ、片言の英語を駆使して会話をするクー公のマネ」

「……あー……」

「…………」

「えーっとだな……」

「…………」

あ。真人が止まった。

「……」

「うおおおおおおぉぉぉぉーーーっ!! 英単語が一つたりとも思い浮かばねぇーーーっ!!」

真人の頭はすでにプスプスといっていた!

「井ノ原さんっ、無理はなさらずに挨拶などはいかがでしょうかっ」

「お、おおっ、その手があったな! 挨拶ぐらいなら余裕だぜ」

「…………」

「オゥ理樹、コンニチワー」

ただの胡散臭い外国人になっちゃった!!

「どうだ理樹、似てたろ?」

腕組をして勝ち誇った顔をする真人。

「なんでそこまで自信が持てるかが不思議だよ…」

「うおっ!? またしても笑ってねぇ!?」

「ゲームに情をはさまねぇ…さすがオレが認めた親友だぜ…」

いやまあ、そういうわけじゃないけど…そうしておこう。

「行けよ、理樹」

「次に追いついたときこそ、リキの笑いのツボを刺激してみせるのですっ」

「うん、期待してるよ」

僕は真人たちを置いて、またマラソンコースを走り始めた。





――たったったったっ

マラソンコースを走り続けている。

もうマラソンコースの中頃を過ぎた辺りだ。

……あと来てないのは、恭介と鈴。

恭介のことだ。

みんな以上に、突拍子もない策を練ってきてるんだろうなあ。

そんなことをぼんやりと考えていると……。

「――きしょいっ、あんまり寄ってくるなっ」

「いいじゃないか、兄妹で一緒に体育の授業を受けたなんて自慢できるぞ」

「できるかっ」

後ろから賑やかな声が聞えてきた。

「おーい、恭介ーっ! 鈴ーっ!」

立ち止まって手を振る。

「あ、理樹だっ」

「理樹のところまで競争な。よーいドンっ!」

「わっ、ずるいぞ馬鹿兄貴っ」

――スタタタタタッ

二人が僕のところまで駆けてくる。

「ふぅ、ようやく追いついた」

体操服の胸元をボフボフとして、汗を扇いでいる鈴。

「わわっ、鈴、そんなところ広げちゃダメだよっ」

目のやり場に困る!

「ん? 何がだ?」

続いて体操服の裾を掴まえて体に空気を送り込んでいる。

「ちょ、ちょっと鈴っ」

おへそがチラチラと見えちゃってるから!

「なんだ理樹? 顔があかいぞ。疲れたのか?」

そう言いながら裾で扇ぎ続けている。

「そ、そうじゃなくてっ」

言い出しづらいっ!

「――鈴、ひとつ言っていいか?」

「どーした馬鹿兄貴」

「へそ、見えてるからな」

恭介がズバッと指摘する。

「へそ? …………ふみゃっ!?」

急いで裾を引っ張っておへそを隠す鈴。

「み、み、見ちゃったか?」

鈴はゆでダコみたいになっちゃっている。

「み、見ちゃった」

「うみゃーーーっ!?」

「わすれろわすれろっ、今すぐわすれろーっ、ふかーっ!!」

――ポカポカポカーッ

顔を真っ赤にしながら僕をポカポカとしている。

「ご、ごめんっ忘れる、忘れるよっ」

「こら鈴、そんなに理樹を小突くな」

恭介が鈴を僕から離す。

「……うーみゅ」

少し鈴も落ち着いたようだ。顔はまだ真っ赤だけど。



「――おまえ一人のところを見ると……まだ誰もおまえのことを笑わせることに成功してないのか?」

「うん、みんな面白かったんだけど…」

「情けないやつらだ」

鈴がうんうんと頷いている。

「おまえのことだ…凝ったネタを見て、笑う前にツッコんでばっかだったんだろ」

「うっ…」

それを言われると否定できない。

「恭介もやっぱりすごいネタを考えてるの?」

「――いや、何も考えていない」

「ええーっ」

楽しみにしてたのに。

「そうだな…」

恭介が何やら考え込む。

「鈴、ちょっと理樹の前に立ってみてくれ」

――ちりん

鈴がスズを鳴らして頷く。

「こうか?」

目の前に鈴が立つ。

「もう少し近づいて」

「こ、こんなかんじか?」

「…………」

「…………」

鈴の大きな瞳が僕を捉えている。

な、なんか気恥ずかしい。

鈴も僕と同じ気持ちなのか…顔が少し赤い。

そして恭介が鈴の後ろに立った。

「なにするんだ?」

「いいから、理樹の顔を見てろ」

「……うみゅ……」

「…………」

こんなに鈴の顔をマジマジと見たのは初めてかもしれない…。

後ろから恭介の手が伸びてきた。

何をするんだろう?

――ぐにっ、びょーんっ

恭介は鈴の口を引っ張った!

「うみゃみゃみゃみゃ~っ!?」

「えええーっ!?」

「鈴、このまま『学級文庫』って言ってみろ」

「が、がっひゅーうんこ」

「いい感じだ!」

いい感じなの!?

「次は……」

鈴の口から手を離す恭介。

――くぃっ

鈴の鼻を人差し指で上げる。

「…………」

鈴がプルプルとしている。

「ぶた」

「ふかーーーっ!! やってられるかーーーっ!!」

あ。鈴がキレた。

「落ち着け鈴…これはだな、シンプルなほうが理樹にはうけるかと――」

――ぐにぃっ!

「ぎゃああああああぁぁぁぁーーーっ」

「あたしと同じ苦しみをあじわえっ!」

恭介のほっぺを思いっきりつねる鈴!

「理樹みろっ、ブルドックきょーすけ」

「ぎゃああぁぁーっ! そんなに強くやってないだろっ」

――ぐににっ!

涙目の恭介が、鈴のほっぺを引っ張る!

「ふみゃみゃみゃみゃーーーっ!?」

「こ、このーっ、しねっ」

――ぐにょっ、ぐにょっ、ぐにょっ!!

鈴は仕返しに恭介のほっぺをリズミカルに引っ張る!

「ふぎゃっ、ひぎゃっ、うぎゃっ! クソっ奥の手だ、たってたってよっこよっこ!」

「はみゃっ、ふみゃ、うみゃみゃ~っ!?」



……この兄妹って――



「いたいわ、ぼけーーーっ!! まーる書いてまーる書いてっ!」

「ぎゃああああぁぁぁーーーっ」



……本当に仲良しで――



「ぐぐぐぐっ、そろそろ手を離したらどうだ、鈴」

「ば、馬鹿兄貴こそはなせっ」

「じゃあ、せーの……」

「「ちょーーーーんっ!!」」

――ぶつっ!! ばつっ!!

「ひぎゃあああああぁぁぁぁーーーっ!!」

「ふみゃみゃぁぁーーーーーーーっ!!」



……見ていてとてもうれしい。



「――ふふっ」

見ていて微笑ましくて、ついつい笑いがこぼれた。

「「あ…」」

――ぽふっ、ぽふっ

「「ターッチ!!」」

恭介と鈴の手が僕の体に触れる。

「え?」

「いま理樹笑ってたぞ」

鈴に指摘される。

「笑ったことには変わりないからな」

恭介も頬を摩りながら、白い歯を覗かせていた。





「――理樹確保のメールは全員に出しておいた」

恭介が携帯をしまう。

「理樹は罰ゲームとして、ゴールまで俺たちと手をつないでもらう」

「う、うん」

罰ゲーム……っていう気はしない。

「ほら、来いよ」

恭介が手を差し出してくる。

…恭介と手をつなぐなんて何年ぶりだろう?

昔はどこに行くにも手をつないで歩いたものだ。

「……じゃ、じゃあ」

恐る恐る手を伸ばす。

「理樹と手をつなぐのも久しぶりだな」

子どものような屈託のない笑顔で僕の手を取る恭介。

――きゅっ!

「ひゃぁっ!?」

恭介と手をとってくれたけど……これって!

――恭介の指と僕の指が絡んで…しっかりと手を握られている。

俗に言う恋人つなぎっ!

「たしか理樹はこういう風につなぐのが好きだったよな」

「い、い、いーやいやいやいや……」

「昔は、よく理樹の方からつないでつないでってせがんで来たもんだぜ」

「い、いい、いーやいやいや……」

「ん、理樹? なんか照れてないか?」

「テ、照れてナいですヨ?」

照れまくって発音がむちゃくちゃだった!

きょ、恭介に気付かれてなきゃいいけど…。

「――顔、真っ赤だぜ」

「あれれー、なな、なんだろう、風邪でも引いちゃったかな…」

「あ、あ、ほ、ホラ鈴っ、鈴も僕と手をつなごうよっ」

鈴のほうに手を差し出し、鈴の顔を見る。

「……く、くちゃくちゃ恥かしぃ……」

鈴もむちゃくちゃ照れまくっていた!!

「う~っ」

顔を真っ赤にして困り果てている。

そういえば、鈴と手をつなぐなんて初めてだ。

僕も恥かしいけど…鈴も恥かしいのだろう。

「鈴、そうしてると真人やら謙吾に場所を取られるぞ?」

「それは絶対やだ…」

「理樹、手をかせっ」

僕の手に鈴が恐々と手を伸ばす。

――ちょんっ

「うみゃっ!」

飛び上がるほど驚き、手を引っ込める。

「……あ、あったかかった」

「うん、そりゃ生きてるからね…」

僕はもう一度、鈴に手を差し出す。

「一緒に手をつなごう、鈴」

「……うーみゅ……」

――ぎゅっ

僕の人差し指だけをぎゅっと握る鈴。

照れくさいのか、僕から顔を背けている。

ただ人差し指に伝わる鈴の体温が心地いい。

「――まだ時間も残っていることだ…クールダウンも兼ねてゴールまでは歩くとするか」

3人で手をつなぎながら、緑に囲まれたマラソンコースをのんびりと歩く。

「昔に戻ったみたいだな」

「うん、そうだね」

「(ちりん)」



「うおーーーいっ」

そうやって3人で歩いていると、みんなが続々と集まってきた。

「クソッ、恭介め…どんな手を使って理樹を笑わせたんだよっ」

「わふー…鈴さんのハイセンスギャグのお陰でしょうか」

「無念だ…次は俺の「ビバ!滝行」で理樹が笑い転げる予定だったんだが」

「ふえぇぇ、鈴ちゃんと恭介さん、よかったねー」

「ふむ、ゴール付近で待ち伏せしていたのだが、戻って来ることになろうとはな」

「……う…来ヶ谷さんの背中に…酔いました」

みんな思い思いのことを言いながら、僕たちの周りに集合する。

「恭介、どんな策で理樹を笑わせたんだ?」

謙吾が訝(いぶか)しげに訊いてくる。

「――それはトップシークレットだ。な、理樹」

「う、うん」

……兄妹ゲンカをして笑われた、なんて知られたくないのだろう。

「……はっ、恭介さん、そ、それはっ!?」

西園さんが頬を両手で挟みながらプルプルと震える手で僕らを指差している。

「ん? これか?」

僕とつないでる手を軽く上げる。

「理樹がこのつなぎ方じゃなきゃイヤだって言うもんでな」

「い、い、言ってないからっ!!」

「なんか顔赤くね?」

僕の顔を覗きこむ真人。

「あ、あ、赤くないからっっ」

「……恭介さんとなら、応援しますよ…ぽ」

西園さんは僕たちを見てうっとりとしてるし!

「わふー、鈴さんも羨ましいのです」

「鈴ちゃん、それ」

小毬さんが僕と鈴が手を――指をつないでるところを指差す。

「指だけ?」

「これが今、ちまたではやっているらしい」

「ふええぇぇっ!? 私、時代おくれだったよ~」

「わふっ、私も今さら知ったのですっ」

……鈴がウソ知識を広めてるし。

「ちょっと待て…オレは大変なことに今気づいた…」

真人がまた何かを思いついたみたいだけど、どうせ大したことじゃない。

「三段論法ってあるじゃねぇか」

その言葉を聞いた瞬間、みんなが新生物を発見したような顔で真人を見つめる。

…まさか真人からそんな言葉が出るなんて!

「ま、真人君から漢字が4文字もつながった単語出てきたっ」

「ありがとよ」

喜べるほど褒められてないと思う。

「三段論法とは、A=Bであり、B=Cならば、A=Cである…という推論規則だな」

来ヶ谷さんが補足説明してくれる。

「今、鈴が理樹と手をつないでるじゃねぇか」

「うん、そうだね」

「これはつまり、オレが鈴と手をつなげば…オレと理樹が手をつないでることに他ならないんじゃねぇか!?」

真人が目を見開いて力説する!!

「というわけで鈴、オレと手をつないでくれ! ちょっと蹴らしてやるからよっ」

「よ、よるなっ、バカがうつるっ!」

真人が伸ばした手を叩き落とす。

「じゃあ鈴ちゃん、私と手をつなぎましょー」

「うん、こまりちゃんならいい」

小毬さんと鈴が手をつなぐ。

「うおおおおぉぉぉーーーっ!! 人種差別するなあああぁぁぁーーーっ!!」

真人は僕たちとは別の人種だったのかな…。

「私も手がつなぎたいですっ」

クドがこちらを羨ましそうに見ている。

「うん、クーちゃんもどーぞ」

「わふーっ、さんきゅーなのですっ」

うれしそうに小毬さんの手を取る。

「井ノ原さんも一緒に手をつなぎましょう」

クドが小さな手を真人に差し伸べる。

「ク、クー公……」

「ありがとよっ」

真人がその手をぎゅっと握った。

……さらに逆サイドでは。

「恭介」

「……ど、どうした謙吾」

恭介の口元が引きつっている。

「俺とおまえが手をつなげば……すなわち俺が理樹と手をつないだことになるな」

「ならねぇよ!!」

「お、俺だって本当はおまえなんかと手なんてつなぎたくない…が、きょ、今日だけは特別なんだからなっ」

ツンデレになっていた!!

無理やり手を取られる恭介。

「昔を思い出すな」

「おまえと手をつないだことは一度もねぇ!」

恭介もヤケクソ気味だ!

「……直枝さん、恭介さん、宮沢さん…これは夢でも見ているのでしょうか」

西園さんは目が美少女マンガのように輝いてるし。

「……では、私は宮沢さんの手でガマンするとしましょう」

そう言いながら、謙吾の手を取る西園さん。

「ふむ、この流れで私だけ手をつながないのは野暮というものだな」

「西園女史、お手を拝借するぞ」

「……どうぞ」

「葉留佳君がいないのが残念でならないな」

来ヶ谷さんが開いた片手を寂しげに揺らめかしている。



――いつの間にか、みんながみんな手をつないでいた。

みんなの暖かさが、手と空気を通して伝わってくる。

いつの間にか、幸せが僕を包み込んでいた。





――ワイワイ、ガヤガヤ、ワイワイ、ガヤガヤ

みんなのおしゃべりや、ふざけ合う声、笑い声でとても賑やかだ。



ここは校外に設置されたマラソンコースだ。

緑に囲まれた幅の広い並木道となっている。道路とは接していない。

僕は今、そこをみんなと一緒に手をつないで歩いている。

昼下がりの時間帯なのに、まるで縁日の会場の真っ只中にいるような騒ぎだ。

「理樹、靴紐がほどけてるぞ」

「あ、ホントだ。じゃあ、ちょっと手を離して……」

「ダメ」

「ええーっ」

「鈴ちゃんの手、きもちいいねー」

「そ、そんなにふにふにされても困る…」

「クー公、なんで指なんだ?」

「鈴さん曰く、全米が震撼したつなぎ方だそうですっ!」

「恭介、俺も理樹のように指を絡めて――」

「頼むからやめてくれ」

「西園女史、この写真を見てくれ」

「そ、それは直枝×恭介の……! 500Rで譲ってください!」

「うむ…妥当な値段だな」

「Rってどこの通貨単位さ…」

「R、つまり理樹ちゃんだ」

「ええぇーっ!!」

みんなでドンチャン騒ぎをしながら足を運ぶ。

「やんのか、こらああぁぁーーーーっ!」

「…やってやろうじゃないか」

真人と謙吾が僕らを挟んでケンカを始めてるし。

もう少しでゴールだ。

ゴールに着いてしまうのがもったいない。

――ワイワイ、ガヤガヤ、ワイワイ、ガヤガヤ

相変わらず僕の周りには幸せな時間が流れている。





やっぱり、友達と楽しく過ごしている時間って

――最高に幸せだ。