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花ざかりの理樹たちへ その42 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。


――体育が終わり、最後の授業前の休み時間。

「じゃんけんぽいぽいっ、どっち隠す~」

いつものように、みんなで集まって遊んでいる。

「こっちかっくすー、なのですっ」

「あいこだねー」

楽しそうに“じゃんけんぽいぽい”をして遊んでる小毬さんとクド。

じゃんけんぽいぽいのルールは、まず右手と左手でそれぞれじゃんけんの手を作り、相手にさらす。

その後「こっち隠す」の掛け声で、右か左のどちらかの手を出し、その手で勝敗を決めるゲームだ。

「クーちゃんもなかなかやりますねー」

「小毬さんこそなかなかなのですっ」

「あいこでぽいぽいっ、どっち隠す~」

「こっちかっくすーなのですっ」

「やったー、私の勝ちだよーっ」

「わふー…負けてしまいました」

「あたしもやりたいっ」

「うんっ、鈴ちゃんもいっしょにやろー」

なかなか見ていて微笑ましい。

――恭介たちの方に目を向ける。

「じゃんけんぽいぽい……どちらを隠す、恭介氏?」

「来ヶ谷は……どっちを出して欲しいんだ?」

策略家同士がにらみ合っていた!

うわー…あちらのアットホームな雰囲気とは大違いだ。

ちなみに恭介たちは、恭介考案のじゃんけんぽいぽいをやっている。

5回勝負でポイント制。

勝てば+5点、負ければ-2点、あいこならば二人に+3点だ。

今現在、恭介の手は『グー』と『チョキ』、来ヶ谷さんは『パー』と『チョキ』を出している。

「恭介氏、ここは双方の利潤追求のため…協調して『チョキ』を出さないか?」

「おいおい、俺は今負けてるんだぜ?」

「食えん男だな」

微笑む来ヶ谷さん。

「なら宣言しよう」

「俺は……『グー』を出す」

恭介が言い放つ。

その言葉を聞いた瞬間、来ヶ谷さんがひるんだ。

「つくづく食えん男だ」

「お互い様、だろ」

なるほど。

来ヶ谷さんが恭介の言葉を信じるならば『パー』を出せば勝てる。

けど、もしも恭介が裏切って『チョキ』に換えたら来ヶ谷さんはそのまま負けてしまう。

恭介が裏切ることを見越して来ヶ谷さんが『チョキ』を出したら…上手くいけばあいこで二人とも+3点だ。

しかしその場合…恭介がウソをつかずに『グー』を出したら……。

「来ヶ谷、おまえは『チョキ』を出す」

自信満々に口を開く恭介。

「ほう、なぜだ?」

「なぜなら来ヶ谷は計算高い…今は4回戦、俺がおまえに勝つためには今追いつかなければならない…ここで仕掛けてくると考えている」

「そこにさっきの宣言だ。何か裏があると読んだだろう」

「だから来ヶ谷は安全策である『チョキ』を出す」

「――しゃべりすぎる男は嫌われるぞ」

二人を張り詰めた空気が包んでいる。

「勝負だ、来ヶ谷」

「いいだろう」

緊張の糸が最高潮に達する。

「「こっち隠すっ!!」」

二人が同時に手を出す!

「どうだ!?」

恭介は…宣言通り『グー』だ!

対して来ヶ谷さんの手は……。

「ゴクリ……」

恭介が生唾を飲み込み、来ヶ谷さんの手を見る。

『パー』だっ! 来ヶ谷さんの手は『パー』だ!!

「な、なにィ!?」

「私の勝因は…キミを信じたことだ」

来ヶ谷さんが恭介に読み勝ったんだ!

「では、ラスト5回戦をやるとしようか」

不敵に微笑む来ヶ谷さん。



「……ん」

――勝敗を見たかったが、突然トイレに行きたくなった。

そういえば、今日は一回も行ってなかったっけ。

「ちょっと席を外すね」

そう言って、みんなの輪から抜ける。

「なんだ理樹、トイレか? 一緒に行ってやるか?」

着いて来ようとする真人。

「いやいや、いいよ」

「そうだ真人。理樹に対して失礼だ」

さすがは謙吾。

礼儀をわきまえている。

「第一、理樹はトイレに行かない」

「は?」

……なにやら雲行きが怪しい。

「こんな可愛らしい理樹がトイレなんかに行くわけがなかろう!」

ただのバカだった!!

「じゃあ、聞くが…理樹が食ったもんはどうなってんだよ」

真人ですら呆れかえっている。

「知れたことを」

「可愛いピンク色の煙になって出て行くに決まっているだろ」

「んなにぃぃぃーーーっ!? ルームメイトでありながら気付きもしなかったぁぁぁーーーっ!!」

「……バカばっか」

アホ二人と深々とため息をつく西園さんを尻目に、僕は一人トイレへと向かった。





――僕は、いつも通り、いつものトイレに入っていった。

…うーん、混んでるなあ。

トイレは込み合っていて喧騒に包まれている。

たまたまタイミングが重なってしまったのだろう。

と、言ってもわざわざ別のトイレに行くほどではなさそうだ。

僕は一番奥の列に並ぶことにした。

――てく、てく、てく

「後ろ通るよ」

トイレに並んでいる男子生徒たちの後ろを通って奥まで進む。

…さっきから視線が痛い気がする。

「ふぅ」

目的の列の後ろに着く。

……さっきの勝負はどっちが勝ったのかなあ。

そんな他愛も無いことを考えていると。

「…………」

僕の前に並んでいる人が、目が飛び出してしまいそうなほど見開き、僕を見つめている。

アゴがカクカクと小刻みに震えている。

「どうしたんですか?」

「……お、おおお、お……」

まるでここに存在してはならないモノを見てしまったかのような、驚愕の表情だ。

――ぱさっ

ハンカチがその人の手から落ちる。

「落ちましたよ――はい」

「……お、おおお、お……」

落ちたハンカチを拾ってその人に渡そうとする――が、その人はなかなか受け取ろうとしない。

「?」

小首を傾げる。

「……お、おおお、お……」

さっきから『お』しか言わない。

他人事ながら…少し心配だ。

「あの――」

話しかけようとしたその時。

「……お、おおお、お…女の子がなんで男子トイレに並んでるんだあああァァァーーーッ!?」

「女の子…?」

一瞬何を言ってるのかわからなかったが、すぐに自分のことを思い出した!

「――……僕は女の子……なんだ……」

その言葉を言った瞬間、トイレが大絶叫に包まれた!!

「うわわわわわわーーーっ!?」

体育の着替えに続き、またやっちゃったーーーっ!



――バタンッ!!



急いでトイレから飛び出し扉をしめた!

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

そうだ…僕は今どう見ても『女の子』だったんだ……!

そんな僕が男子トイレに入っていったら、どうなるかくらいわかっていたはずだ。

習慣ってコワイ!



男子トイレの中からは大混乱の声が響いてくる。

「や、や、やべぇぇぇーーーっ、あの子のお婿さんになんねぇと、やべーーー!!」

「オレ……出た……えぐっ…ひぐっ…ぐしゅっ」

「このトイレという荒野に咲く一輪の華…その華はこの悪しき世に光りをもたらし愛の園がうんたらかんたら」

「はさ…ん…だ――バタッ」

「武田あああぁぁぁぁーーーーっ!! 死ぬな、死ぬんじゃねーーーっ!!」

「タンカッ!! タンカ準備急げ!! タンカに武田を乗せるんだッ!!」

「ダメです!! このまま運んでは…隠さずに、タンカに乗せてしまっては――」

「武田さんが、公共の場では口には出来ない愛称で親しまれることになってしまいますッ!!」

「ならボクのハンケチを使ってーアアアアアアッ!? さっきの子に渡したままーっ!?」

「なんてこったッ!! このまま武田を見殺しにしろっていうのかッ!!」

「――バタンッ! はぁ…はぁ…た、隊長…こ、これを……」

「おまえは個室に入っていた成田!! そ、そいつは……」

「トイレットペーパーの芯ですッッ!!」

「「「グッド!!」」」



男子トイレは、ヒューマンドラマが繰り広げられるほど、混乱の渦に飲み込まれていた!!

――心の中でトイレのみんなに謝りつつ、女子トイレに飛び込む。



「はぁ……はぁ……はぁ」

ドッと疲れたよ、僕…。

女子トイレは男子のそれとは違い、ほのぼのとしたものだった。

女の子たちが鏡の前で談笑をしながら髪を整えたりしている。

「どうかなさいました? どこか具合でも悪いのですか?」

女の子の一人に話しかけられる。

――そうだ、ここは女子のトイレなんだ。

勢いで飛び込んじゃったけど……。

ど、どうしようっ!

トイレの鏡の前にいた女の子たちが僕の顔を除き込む。

「……っ!」

自分の顔が火照っているのがわかる。

「あ~っ、このコ…びくぅっっだって~っ」

「まあまあ、可愛らしいコね、この娘ってば…ふふっ……」

「……顔、まっか」

「う、う、うわわわわーっ!?」

「だ、だいじょぶですからっ! ホントだいじょぶですからっ! ご、ごめんなさいーっ」

逃げるように個室に飛び込む。

は、はやく済まして戻ろう。

こんなところにいては、精神が持ちそうにない!

「ふぅ…」

便座に座る。

隣からもゴソゴソと音が聞えてくる。

隣のトイレに入ってるの、女の子なんだ……。

「って、僕は何を考えてるんだぁーっ」

自分の頭をポカポカ叩きながら、流水音のボタンを連打する。

ザザー……。

…………。

……。

「ふぅ~っ」

なんとか無事に用を済ますことが出来た…。

「つ、疲れた……」

は、はやく教室に戻ろう。



――がちゃ



クタクタになった体を引きずり、女子トイレから脱出する。

「――あなたね?」

出たところで声を掛けられ、顔を上げる。

「男子トイレを覗…いえ、覗くだけでは飽き足らず、侵入した女子生徒というのは」

顔を上げた先には……。

「風紀を乱すにも程があるわ!」

鮮やかなクリムゾン・レッドの腕章をつけた女子生徒。

「か、佳奈多さん…!?」



――僕の目の前には、風紀委員長・二木佳奈多さんが怒り心頭で仁王立ちしていた。