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花ざかりの理樹たちへ その46 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



片づけをするために、再び佳奈多さんと空き教室に戻ってきた。

他のみんなは廃材を処分するためにどこかへ出払っているようだ。

「まったく…お人良しと言えばいいのかしら」

「はぁ…」

「――あなたは本当に馬鹿ね」

…なんだろう。

ため息混じりに話す佳奈多さんだけど…トゲが消えたような気がする。

「どこかのお節介焼きたちとそっくりだわ」

どこかのお節介焼きたち…もしかしたらリトルバスターズの面々を指しているのかな?

もしリトルバスターズのみんながあの場面にいたら、みんな迷わず僕と同じ行動をしていただろう。

「――あと少しだし、早く片付けてしまいましょう」

「うん、そうだね」

どこかうれしそうな佳奈多さんと、空き教室の掃除を再開した。



「――ふぅ」

ゴミをまとめて一息をつく。

「佳奈多さん、これは――」

「………………」

佳奈多さんに呼びかけようとしたら…佳奈多さんは足元に置いてあるダンボール箱とにらめっこをしていた。



「…………」

屈んで、ダンボールの隙間に指を滑り込ませる佳奈多さん。

「んんっ」



――ぐぐぐぐーっ



渾身の力を込めているのだろう。

佳奈多さんは肩を張りプルプルとしているが……ダンボールは一向に持ち上がる気配がない。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「上がらないわ」

ダンボールから手を離し、ぼそりとつぶやく。

「……………………」

再びダンボールとにらめっこ。

「…………」

もう一度ダンボールの隙間に指を滑り込ませる。

「んっ、んんーっ」



――ぐぐぐぐぐーっ



「……はぁ……はぁ……」

「ダメ、ちっとも上がらない」

佳奈多さんは懸命にダンボールと格闘しているが…どうやら無理っぽい。

僕に「手伝って」と言わないところがなんとも佳奈多さんらしい。



――僕は無言でそちらに近づくと、ダンボールに手を掛けた。

「え?」

佳奈多さんが僕の顔を見る。

「僕にも手伝わさせて」

「一緒に持とう」

にっこりと微笑みかける。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………!!」



――カァァァァァッ!



まるで唐辛子を丸々食べたように佳奈多さんの顔が色づいた!

「ゃっ!?」

小さく声を上げて飛び退く。

「か、佳奈多さん?」

「……! ……!」

顔を赤くしてこっちを凝視する佳奈多さん。

「……え、えーっと…どうしたの?」

「なっ、なんでもないわっ!!」

思いっきり何でもある顔だし。

「何よ、い、い、いきなり近づいてきたから驚いたに決まっているでしょう!?」

「こ、こっそりと近づくなんて悪質極まりないにも程があります!」

「そんなことされたら誰だって驚くに決まっているわ!」

何を焦っているのか…顔を真っ赤にしてまくし立てる。

「ば、罰としてそれはあなた一人で持ちなさい」

「え、えええーっ!」

「私は手伝わないから」

プン、と赤い顔でそっぽを向く。

「あなたは力持ちなんでしょう? それくらい出来るわよね?」

二人で持ったほうが楽だと思うんだけど。



「仕方ないなあ……」

「よいしょっと」

荷物を持ち上げようとすると――

「…っ」

背中に軽い痛みが走り、そのまま荷物を降ろした。

たぶん…さっきイスがぶつかった時のだ。

「さっきの場所が痛むの……?」

佳奈多さんが心配そうに僕の元へ寄る。

「あ、いや、大丈夫」

痛い…というより、ちょっとした違和感程度だ。

これくらいなら全然なんともない。

「じゃあ、気を取り直して……」

ダンボールを持とうとしたら佳奈多さんに止められた。

「止めておきなさい…それはもういいわ」

「――いいかしら?」

「え、何?」

「ちょっと私に背中を見せてみなさい」

真剣な表情で僕を注視している。

「……え?」

「私に背中を見せなさい、と言っているの」

「えええぇぇぇーーーっ! いっ、いやだよっ」

「いいから見せなさい!」

僕を心配してくれているのはわかるけどっ!

やっぱりそれは……恥かしいっ!

「怪我をしてるんじゃないの?」

「ううん、大丈夫、大丈夫だから…」

訝(いぶか)しげに僕の顔を見る。

「私の不注意であなたが打撲を負ったのは確かでしょう。責任を取ることが私の義務でもあるわ」

「い、いやっ、本当に大丈夫だからっ」

佳奈多さんの責任感が強いのは知ってるけど…強引だし強情だっ!

「あなたの性格なら…やせ我慢をしてる可能性もあるわね」

「いやいやいや、してないからっ」

全力で首を振る。

「私の言うことが聞けないの?」

「いいから背中を見せなさい」

うわっ、佳奈多さんは引く気配がないっ!

こんなところで意固地になられても困るし!

本当に怪我なんてしてないのに…。

「はぁ…私はただ、私のしてしまったことに対する責任を果たしたいだけ」

「怪我をしていないかの確認と、もし青アザができていたら湿布を貼るだけ…それだけよ」

「どうしてそんなに嫌がるの?」



――ガラガラ~

「お・ね・え・ちゃ~ん……って、ありゃりゃ?」

教室の後ろのドアが開けられて、誰かが入ってきたような音が聞えた気がするけど……。

僕としては今それどころじゃなかった。



「だ、だって……その……」

「……は、恥かしいし……」

たぶん僕の顔は今、赤くなっている。

「あら、男子トイレには平気で侵入するくせに、こんな時は恥かしがるのね」

「う…」

「今は私とあなた二人だけ」

「恥かしがる必要なんてどこにあるのかしら?」

「早く私に体を見せて」

――少しはなれたところから「えっ?」という声が聞えた気がする。

「わ、わかったよ……」

ブレザーのボタンに手を掛ける。

「あ、あれ?」

男子のボタンと女子のボタンは位置が逆のせいか…どうにも外しづらい。

「あなたって器用そうに見えて、意外と不器用なのね」

「そんなことはないと思うけど……あれれ?」

と、言いつつなかなか外せない。

「はあ…見ていてじれったいわ」

「もう…ちょっと私にかしてみなさい」

佳奈多さんが僕のボタンに手を掛け、手際よく外していく。

――佳奈多さんって、なんだかんだ言っても優しいよね……。

「……な、何よ?」

「あ、いやっ、なんでもないっ」

ついつい、佳奈多さんを見つめてしまっていた!

「な、なんでもないなら……そんなに見ないでくれる?」

心なしか佳奈多さんの顔は赤い。

「全部ボタンが外れたわ。どうしてこんなことに苦戦するのか理解できないわ」

「あ、ありがとう」

「……ブレザー、脱がすわよ」

「あ…うん…」

佳奈多さんの手がゆっくりと襟元に添えられる。

「ほら…腕を抜いて」

その時。



――バラララララララーッ



何かが盛大にこぼれた音が教室中に響いた。

足に何か転がってきてぶつかる。

「…ビー玉?」

音がしたほうに目を向けると……。



「お…ねえ…ちゃん……?」

「葉留佳?」



僕たちが目を向けた先……。

空になったビー玉の袋を携えた葉留佳さんが…呆然と立ち尽くしていた。