花ざかりの理樹たちへ その48 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)作者:m
紹介メッセージ:
恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。
「ここにはないのかな……髪飾り」
「………………」
――空き教室に戻り、周りを見回すが…それらしきものは見つからなかった。
「髪飾りが緩んでたところに走ったから…その勢いでどこかに飛んだのかも」
「……そう、かもしれないわね」
佳奈多さんの瞳は…どこか悲しげだ。
「――僕は違うところを探してみるよ」
「……いい、いらない」
教室の外へ行こうとするところを止められる。
「いいの?」
「わざわざ探すことはないわ。だってただの髪飾りだもの」
「また買えばいいだけの話よ…」
そう話す佳奈多さんの顔は――
髪飾りが佳奈多さんにとって大事なものであることを示していた。
「やっぱり僕、佳奈多さんが走ったところを……」
――探してみるよ、そう口にしようとしたが。
「いいって言ってるでしょ!!」
突然、佳奈多さんが声を荒げる。
「どうしてあなたは…あなたはさっきからそんなに……っ!!」
「……?」
佳奈多さんは、何にそんなに腹を立ててるのだろう……?
――キーンコーンカーンコーン……
「………………早く教室に戻りなさい、予鈴が鳴ったわ」
「う、うん」
佳奈多さんと空き教室を出て、自分のクラスへと向かった。
――クラスへ向かう途中。
…………。
本当に探さなくてよかったのかな……。
…………。
あの時の佳奈多さんの悲しそうな顔…。
きっとあの髪飾りには何か思い入れがあるんじゃないのかな…。
…………。
いいって言っているものを無理に探すというのも無粋だし…。
…………。
そろそろ本鈴も鳴るし、早く教室に戻ろう。
――僕は何となしに窓の外に目を向ける。
ここからは体育館裏までよく見える。
………………。
…………。
窓の外に目が捕らわれる。
――そこには。
長い髪の少女が彷徨(さまよ)っていた。
必死に辺りを見回し…そして、肩を落とす。
何度も何度も繰り返す。
……佳奈多さん……。
体育館裏…僕と葉留佳さんがいたところまで着くと、佳奈多さんはそのまま校舎脇の茂みへしゃがみ込む。
――キーンコーンカーンコーン……
本鈴が鳴り響く。
それでも僕は目を離せずにいた。
佳奈多さんは本鈴に反応し、手を止めたが……すぐに茂みに目を戻して探し物をしている。
規律を重んじる佳奈多さんが、授業に出ないなんて……。
………………。
……。
今からクラスに向かったところでどうせ遅刻だ。
それなら。
――僕は足を自分のクラスとは逆の方向に向ける。
(…ミッションスタートだ)
――空き教室を覗く。
そこには、まだビー玉が散乱していた。
先ほどから掃除をしていたので、空き教室はビー玉以外の物がほとんどなかった。
…けど。
中に入って、教室の隅々まで見る。
…………。
……。
「ここにはないのかなあ…」
一生懸命探すが、教室では見つけることが出来なかった。
やっぱり、走っていたときに外れたのかもしれない。
そうだとしたらかなり大変だ。
いろんなところを走り回ったからなあ…。
――佳奈多さんの悲しそうな瞳を思い出す。
よし、がんばらなきゃ。
――階段。
綺麗に掃除が行き届いている。
……それらしいものは見つからない。
――2階。
通った所を思い出しながら廊下をたどる。
「あっと、そうだった」
教室の前を通ろうとして気付いた。
今はどこの教室も授業中だ。
見つからないように気をつけないと。
「――ヒザが冷たいっ」
教室の前を四つん這いになってコソコソと移動する。
来ヶ谷さんが用意してくれた制服はスカート丈が短かくしてある。
これって後ろから見られたら……いろいろマズいかも。
まあ、今の時間は誰も廊下を歩いてないから大丈夫か。
「……うーん、いったいどこに行っちゃったんだろう?」
下を注意深く見ながら前進する。
ここにもない……。
――ガラガラ~
「!!」
突然、後ろの離れた場所にある教室のドアが開いた!
「――先生、プリント持ってくるから静かに自習してろよ! わかったな!」
もちろん教室から出てきたのは先生だ!!
「……ん? お、おおおおっ!?」
「うわわっ!?」
――ばっ!
急いでスカートを押さえる!
……って、問題はそこじゃない!!
今、捕まってしまったらとてもマズい!
授業に出てないことを怒られるのはもちろん、女装していることを問いただされる!
「……い、今の……お、おおおっ」
先生は戸惑っている。
逃げるなら今しかないっ!
――タッ、タタタタタタタターッ!
僕は急いで立ち上がり、近くにあった階段を1段飛ばしで駆け下りた!
「ちょっ、ちょっと待ちなさいキミ!!」
後ろから先生も追いかけてくる!
1階にたどり着き、廊下を駆け抜ける。
「――はぁ、はぁ、ま、待ちなさいっ、オジサン走らせて面白いかコラーッ!」
ドタバタと追いかけてくる先生。
差はどんどん離れていく。
「あ、ここなら……!」
階段脇にある、使わない机などが置いている場所に身を潜める。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
――……ッドッタバッタドッタバッタ!
先生の足音がどんどん近づいてくる。
――ドタバダドタバ…タ。
僕が隠れているところで立ち止まったようだ。
「ぜはァーーー、ぜハぁーーー」
「ど、どこに行った!?」
先生の声が聞えてくる。
――ドッキドッキドッキドッキ!
こっそりと覗くと…先生がキョロキョロとしている。
「出て来いッ!!」
「今なら反省文5枚で勘弁してやるッ!!」
「名前はわかってるからなッ! 出て来なんだらこっちから訪ねて行くからな!」
……………………。
………………。
……。
もちろんそんな脅しを言われて出て行くわけがない。
今の僕は…見ただけでは名前はわからない。
「クソッ!」
案の定、先生は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「普段だったら見れば名前がわかるんだが……見かけん生徒だったな」
頭を掻きむしる。
「クッ、可愛い可愛い生徒たちが私の手作りプリントを首を長くして待っているからな」
「――今日のところは勘弁してやる、クソッ!!」
地団太を踏んでいる。
「……あー、足首なんか変だ。腰も」
そうボヤきながら先生は去って行った。
「はぁぁぁ…」
大きく息を吐き出す。
「た、助かったあ……」
身を潜めていた場所から出ようとする。
「……あれ?」
置かれている机と机の隙間に何かが落ちている。
それはピンク色のボンボン。
「――ようやく、見つけた…」
僕はそれを拾い上げ、ホコリを払う。
そこに佳奈多さんの髪飾りが落ちていた。
ひっそりと……しかし、誰かが見つけてくれるのを待っていたかのように。
***
「先生が暴走だ! 暴徒と化した!!」バージョン
――2階。
通った所を思い出しながら廊下をたどる。
「あっと、そうだった」
教室の前を通ろうとして気付いた。
今はどこの教室も授業中だ。
見つからないように気をつけないと。
「――ヒザが冷たいっ」
教室の前を四つん這いになってコソコソと移動する。
「うーん、いったいどこに行っちゃったんだろう?」
下を注意深く見ながら前進する。
ここにもない……。
…………。
……。
特別教室が並ぶ廊下にたどり着く。
「よいしょっと」
立ち上がり、手とヒザについた汚れを叩(はた)く。
ここなら普通に探しても大丈夫だ。
注意深く下を見ながら歩く。
「うーん…」
大きさ的にも目立つ髪飾りだし、もうちょっと簡単に見つかってもいいと思うんだけど…。
廊下の角を曲がろうとした時。
――ガラガラ~
「!!」
突然、後ろの離れた場所にある教室のドアが開いた!
僕は急いで角を曲がり、身を隠す。
「………………」
――ドキドキ
今の時間、誰かいるとしたら先生だ。
「………………チラッ」
こっそり角から覗く。
案の定、先生がキョロキョロとしていた。
バレなかったかな……?
「…ッ!」
い、今…一瞬目が合ったような気が……。
――どっきどっきどっき
………………。
……。
静けさが続く。
だ、大丈夫だった…?
「……今、たしかに何か見えた、見えましたよ」
ギクゥッ!
遠くにいる先生からの有罪宣告が廊下に響く。
「そう――生徒とおぼしき影がね!!」
誰が見ているわけでもないのに、僕のいるほうをビシィと指差す。
まずいっ! バレた!!
今、もしも捕まったら…授業中出歩いていたことに加えて――
女装していることまで問いただされるっ!!
――ダッ!
僕はいっきに駆け出した!
「フッフッフ…ハッハッハ、フハーッハッハ!!」
「この私から逃げ切ろうというのですか?」
「――高校時代、県陸上大会100m走で2度の優勝経験を持ち、“マッハ佐々木”と恐れられ、陸上会にその名を知らない者がいないほど有名なスプリンターだった友人に「結構スジはいいんじゃない?」と言われたことのあるこの私から!!」
それ他人事、とツッコみたくなったけど…ここは逃げなきゃ!!
――タタタタッ!
急いで廊下を駆け抜ける!
「おおっと、キミもなかなか速いじゃあないか!」
先生が後ろから追いかけてくる。
今のところ着かず離れず、と言ったところだ。
な、なんとか逃げ切らなきゃ!!
――タンッ、タンッ、タンッ!
目の前にあった階段を1段飛ばしで駆け下りて1Fへ。
「ハーッハッハッハ、キミは追いかけっこが随分と好きなようだね!」
「追いかけっこのとき、どこが一番ポイントか、キミは知っているかい!」
よく喋る先生を無視して、僕は廊下の角を曲がる。
「それはコーナーリング!! 曲がり角で勝負は決するのだよ!!」
「ハーッハッハッハ見よ、2足ドリフトッ――ぎゃぁああああああああぁぁぁぁーーーっ!?」
――ズルッッ、ズシャァゴロゴロゴロゴローーーッ!!
なんだかよくわからない先生が、なんだかよくわからないことを喋りながら、なんだかよくわからないことをして、滑って転んで転がっていった!!
なんだかよくわからないけど、ラッキーだ!
その間に廊下を駆け抜ける!
「あ、ここなら……!」
階段脇にある、使わない机などが置いている場所に身を潜める。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
――……ッタタタタタタン!
先生の足音がどんどん近づいてくる。
――タッタッタッ…タッ…タ
僕が隠れているところで立ち止まったようだ。
「どこに隠れているのかな、子猫ちゃん」
バブル期のアニメの悪役っぽいセリフを言いながら辺りを見回している先生。
「今ならまだ反省文1枚で許そう――さあ、私に言いたまえ!」
「学年、クラス、出席番号、名前、スリーサイズをね!!」
って、スリーサイズは関係ないっ!
これだから男は……。
……。
「!?」
うわわっ!
ぼっ、僕はいったい何を考えてるんだっ!
…すっかり考え方が女の子に近づいてしまっていた!
「おおっと…そこから何か聞えましたね…」
しまった!
わわっ、こっちに近づいてくる!?
――ポンッ
先生の動きが止まった。
「おおっと、これはこれは教頭先生…どうなされたのですか?」
先生は…後ろから来た教頭先生に腕を掴まれていた。
「他の教室から苦情が来てるんだよね……先生がうるさい、授業妨害だ、ウザイどころじゃないって」
「違いますよ、私は生徒をですね――」
「私もね、聞いたよ、先生の高笑い」
「授業中に高笑いしながら全力疾走する先生がいるなんて知れたらね、落ちちゃうんだよ、ここの評判」
「まあ職員室おいで。とりあえず言い分だけは聞いてあげるから」
「いや、しかしっ!?」
先生は、そのまま教頭先生に引っ張られ連れていかれた…。
「た、助かったあ……」
身を潜めていた場所から出ようとする。
「……あれ?」
置かれている机と机の隙間に何かが落ちている。
それはピンク色のボンボン。
「ようやく、見つけた…」
僕はそれを拾い上げ、ホコリを払う。
そこに佳奈多さんの髪飾りが落ちていた。
ひっそりと……しかし、誰かが見つけてくれるのを待っていたかのように。