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花ざかりの理樹たちへ その51 ~学校・午後編~(リトルバスターズ)
作者:m

紹介メッセージ:
 恭介の思いつきで始まった王様ゲームにより、理樹は……。各編はほぼ独立していますので、途中からでもお楽しみ頂けます。



――僕は今、教室のドアの前にいる。

教室の中からは先生の声が聞えてくる。

もちろん教室は授業の真っ最中だった。

……。

やっぱり…元気なのに授業をサボるのはマズいよね……。

最後の時間の英語は、おじいさん先生だ。

こっそりと入ればバレない…かもしれない。

――先生にバレないように窓際の一番後ろの自分の席まで移動。

いつものミッションよりも難易度が高いけど、やるしかない。



――すーっ、はーっ、すーっ、はーっ



深呼吸をして自分を落ち着かせる。

よし。

ミッションスタートだ!

「…………」



――カラ……カラ……カラ……カラ……



教室の後ろのドアを、音が出ないように慎重に開ける。

「――ここの訳を…杉並さんにやってもらおうかの?」

「はい、えっと“ダブルバーガーかと思ったら、トムの腹だった”…ですっ」

よし…まずは気付かれてないみたいだ。

こそこそと四つん這いで教室に侵入する。

「…ん?」

廊下側の一番後ろの席に座っている謙吾が僕に気付いた。

(どこに行っていたんだ、理樹?)

(いや、ちょっと……)

ほとんど口パクで会話をする。

僕は人差し指を口に当てて、「しーっ」のポーズをする。

それを見て謙吾がコクリと頷く。

さらに慎重に、上体を低くして移動を始めた。

頭を低くして、腕はほふく前進の形、足はヒザ立ちだ。

(よいしょ、よいしょ……)

一生懸命移動するが、なかなか前に進まない。

い、急がないと先生にバレちゃう…!



――ふりっ、ふりっ、ふりっ



このポーズで急いで移動すると、どうしてもオシリが左右に踊ってしまう。

(よいしょ、うんしょ……)

………………。

…………。

……。

「!?」

急いでスカートを押さえた!

めちゃくちゃ嫌な予感がする…!

スカートを片手で押さえながら、恐る恐る謙吾の方を振り返る。

「…理樹、万…歳……」



――バブゥゥーーーッ、ゴズゥゥン……ッ!!



最高に幸せそうな笑顔を浮かべた謙吾が、鼻から鮮血を噴射しながら机に突っ伏した!!

や、やっぱりっ!

周りは「まさかこのページに載っているムカミに欲情したのか!?」や「いや、ケンだろ」や「私のうなじね!?」と憶測が飛び交っている!



――ざわ、ざわ



謙吾のせい(おかげ)で、教室が喧騒に包まれた。

今しかないっ!

僕は四つん這いで、急いで自分の席まで移動する。



「はぁ…」

やっと、着いた…。

「あ、あれっ!?」

そこには。

ようやくたどり着いた僕の席には…誰かが座っていた。

――いや、正確には『何か』が鎮座していた。

「理樹、どこ行ってたんだよ?」

隣の席に座っている真人が僕に気付いた。

「えーっと真人……こ、これは…?」

「え、それか?」

「理樹の帰りが遅かったからな」

腕組をして、ニカッと笑う真人。

「オレたちで理樹を作っておいたぜ」

「えーっとさ……」

「どうだ? ビミョーに似てね?」



そこにある僕似とかいう物体。

…………。

顔にあたる部分は、赤い風船だ。

風船には不二家的な顔が描かれている。

口には口紅が引いてあって、無駄にボインな唇が演出されている。

そして頭には…アフロヘア。

そのアフロの両脇にはうまい棒が突き刺さっている。……たぶん、耳だ。

頭の上には、なぜかクドの帽子。アフロがもっさりはみ出ている。

体は、椅子にホウキがくくり付けられていて、そこにハンガーで作ってあった。

首元にあたる場所には蝶ネクタイ。

ハンガーには謙吾のリトルバスターズ・ジャンパーが掛けられている。

リトルバスターズ・ジャンパーの袖からは、西園さんの日傘が出ている。……腕、なんだと思う。

片腕しか入っていないので、重心がずれて体が少し傾いている……。

……め、めちゃくちゃシュールだった!!



「席がカラだと、理樹がいないことがバレちまうからなっ」

「いーやいやいやいやいや!」

どう考えても、周囲から浮きまくりだし!!

すぐバレるからっ!



「――じゃあ、次は……」

僕が唖然としているうちに授業が再開されてしまった。

僕はまだ真人の後ろで縮こまっていて…席に座れていない!

「直枝君に訳してもらおうかのぉ」

ま、まずいっ!

僕にあたっちゃった!

みんなの目が僕(偽者)に向けられる。

ば、バレちゃうっ!

「…なんか今日の直枝、パンチきいてね?」

「…ね、あの帽子、能美さんのじゃない?」

「…え! ヤダ! あの二人、できてんじゃないのーっキャーッ」

いやいやいや…そこじゃないでしょ…。

「――直枝君、どうしたのかね?」

先生が無反応の僕を見て、首を傾げている。

ど、どうしようっ!



『……ザー……ザー……』



…!

僕(偽者)から音がした!

『…本日は晴天なり、本日は晴天なり…聞えるか?』

…恭介の声だ!

恭介の声が、僕(偽者)の首についている蝶ネクタイから聞えてきた。

「はい、聞えますよ」

ちなみに、先生は何も気付いていない。

『先生、悪いが問題を読み上げてくれないか?』

「よかよか、自分の意見をはっきりと言える事は大変良いことじゃよ」

「え~“Come out, Shenlong, and grant my wish!”を訳してもらいたいんじゃがの」

『それを訳せばいいんですね?』

「そうじゃ、これを訳してほしいのじゃ」

『コホン』

『タッカラプト・ポッポルンガ・プピリット・パロッ!』

「…………」

『…………』

「…………」

『…………』

うまい棒を生やしたアフロから奇怪な言葉が発せられた!!

「――もう一回いいかの?」

先生もいささか錯乱気味だ!

『タッカラプト・ポッポルンガ・プピリット・パロッ!』

奇怪な物体から、奇怪な音が漏れる!

「…………」

『…………』

『先生は、訳せ、と言った』

『だが…日本語で、とは一言も言っていない』

『だから俺は訳したんだ』

『――ナメック語で』

その瞬間。

「う…………」

「うおおおおおおおおおぉぉぉーーー、すげぇ、すげぇよ直枝ッ!!」

「直枝ハンパねぇ!! 1センチもハンパねぇ!!」

「今日の直枝はやってくれると思ったんだよ、僕!」

「私…私も駅前留学します!」

「ちょ、ちょっとやめなよ睦美っ!」

「先生、目からうろこじゃよ!」

「俺も次からはG文字で訳すぜッ!」

クラスが感動の渦に包まれていた!!

『先生、あまり騒ぐのも他のクラスへ迷惑になる…授業を続けてくれ』

「――ふぉっふぉっふぉっ、直枝君は謙虚じゃのぉ。成績表には花丸つけてやるかの」

『是非』

「――じゃあ、授業を続けるから、みんな静かにするんじゃ」

「「「はーい」」」

(おい理樹、恭介のおかげで良かったじゃねぇかっ)

真人が僕が隠れている方を向いて、小声で話しかけてくる。

(ぜんぜん良くないからっ)

もう、はずかしいよーっ!





――こそ…ごそごそ…ごそ…こそこそ――



みんなが黒板に集中している間に、身代わりになっていた僕(偽者)を外して、ようやく席に座った。

「ふぅぅぅ…………」

大きく息を吐き出す。

「もう…」

バレずによかったけど…本当によかったのか疑問だ、いろいろと。

僕は机から英語の教科書を取り出した。



――ひらっ



「?」

教科書を取り出したら、一緒に手紙が落ちてきて…僕のヒザの上に乗っかった。

なんだろう?

手紙の裏面を見る。

裏面の隅には小さな小さな文字で――



『直枝理樹さん江

     杉並睦美より』



と、書いてあった。






***





→メイキング・オブ・「直枝理樹」





「理樹のヤツ、どこ行ったんだっ」

うーみゅ…。

理樹がトイレに行ったまま戻ってこない。

心配だ。

「遅いねー、理樹ちゃん」

「わふー…心配です」

「さっき1階から3階までのトイレを覗いてきたけどよ、いなかったぜ」

「……当たり前です。直枝さんは女子トイレですから」

「ムダ足ぃぃぃーーーっ!!」

頭を抱えてる真人。

「ならば、俺がそっちを見てこよう…理樹が心配だ」

謙吾が立ち上がった。

「「「「「…………………………」」」」」

「おまえら、そんな目で俺を見て…どうしたんだ?」

「…謙吾」

「恭介、なぜ肩を押さえる?」

「俺は友人から犯罪者を出したくない」

「犯罪者だと…………………はぅあ!?」

「し、しまったぁぁぁぁーーーっ!!」

謙吾が頭を抱えて崩れおちた。

この馬鹿、本当に悪気なしで言ったみたいだ。

きっと理樹が心配だから探しに行こうと思っただけだと思う。

けど、変態は変態だな。

「ド変態」

「ち、違う、鈴っ!」

「ほう…どう違うというのだ、謙吾少年?」

「ただ俺は理樹が心配で……」

「へー、理樹ちゃんが心配だと女子トイレ覗きたくなっちゃうんだ、へー」

「さ、三枝、聞いてく――」

「変ッッ態」

「うおおおおおーーーっ、に、西園っ、いつものおまえじゃないぞ、そんなゴミを見るような目で見ないでくれーーーっ!!」

「へんたいだー」

「へんたいですーっ」

「ぬおぉおぉおぉおぉおぉおぉーーーっ、そんなことを言いながら走らないでくれぇぇぇーっ!!」

小毬ちゃんとクドとデカイのが教室を走り回ってる。



「――ふむ、もうじき鐘がなってしまうな」

「さっきまで座ってた人が届出なしでいなくなると、サボリってことになっちゃいますナ」

「「「…………」」」

うーん、困った…。

「みんな聞いてくれ」

「俺にアイディアがある」

きょーすけがニヤってした。

「ほう…案とは?」

「理樹の席に代役を置く」

だいやく?

「ちょっと待て、恭介」

「代役を置くったって、代役になったヤツの席が空いちまうじゃねぇかよ」

「うわ…真人くんがまともなこと言った」

「ありがとよ」

はるかに馬鹿にされたのに、うれしそうだな。

「――そこら辺はどうするつもりなんだ、恭介氏」

「別に俺たちが代役をやる必要はないだろ?」



――ごそごそ、ごそごそ



きょーすけが掃除用具入れから、短いホウキを取り出した。

「これを使う」

「――なるほど」

きょーすけとくるがやが二人で納得してる。

「きょーすけ、あたしたちにもわかるように言えっ」

「悪い悪い」

「つまり、その辺の物を使って理樹っぽい人形を作る」

「簡単に言うけどよ、そんなもん出来んのかよ?」

「やらないよりやったほうがマシだろ?」

「やるやるー私も手伝うーっ!」

はるかはノリノリだっ。

「……腕がなります」

みおもノリノリだっ。



「よし、まずは……真人」

「おぅ! なんでも言ってくれ」

「おまえは教卓からこっちを見て、人形が理樹っぽく見えるか確認する係りな」

「作る係りじゃねぇのかよっ!?」

真人がシブシブ教卓に向かった。

「あとは――」

きょーすけが、理樹のイスにホウキをくっ付けた。

そしてホウキの柄にハンガーを縛る。

「――謙吾、悪いがおまえのリトルバスターズ・ジャンパーを貸してくれ」

走り回ってた謙吾が戻ってきた。

「悪いが恭介、おまえの頼みでも…それだけは聞けないな」

「俺はこのリトルバスターズ・ジャンパーを脱ぐ気はない!」

そう言って、謙吾はきょーすけに背中を向けた。

「……理樹が着るんだぞ」

「それを早く言え」

わ、理樹の名前が出たとたんに脱いだぞ、こいつ。

「体はこれで良し、だな」



「――顔のパーツはどうする?」

「はいはいはーい! 私、風船持ってるーっ」

はるかが胸ポケットから風船を取り出した。

「赤と青がありますヨ」

「……青ですと顔色が悪いように見えて、心配される恐れがありませんか?」

「じゃ、赤だね」



――ぷ~っ



はるかが風船を膨らました。

膨らました風船を体にくっつける。

「はいっ」

小毬ちゃんが手を挙げてる。

「どうした、コマリマックス」

「顔は私に描かせてくださいっ」

小毬ちゃんが目をキラキラさせている。



――きゅきゅきゅ~



「どうかなー?」

「わふーっ、その可愛らしさがリキっぽいのですっ」

「小毬ちゃん、絵うまいな」

「えへへ、ありがとー」

「不二家のパッケージっぽくはないか…?」

「そんなことないよー」

はるかが口紅を取り出した。

「じゃあ、仕上げは私ワタシー」

「あははは、理樹ちゃんはボインなく・ち・び・るーっ」

ぷるぷるしそうな唇を描くはるか。

「姉御姉御ーっ、どうッスか?」

「うむ、生理樹君だったらむしゃぶりつきたくなる唇だな」

うわっ、くるがやがハァハァしてるぞっ!

「――真人、そっちから見てどうだ?」

「理樹に見えないこともないけどよ……なんか足りないんだよな」

真人が首をひねってる。

「……コスプレ…いえ、人に似せるためには髪の毛が重要です」

うーみゅ、今の理樹はツルピカだ。

「……ウィッグが欲しいところですね」

「うぃっぐ? みお、何だそれは?」

「……わかりやすく言うと、カツラです」

なるほど、カツラか。

「うーん、それは今用意できないね」

ガッカリする小毬ちゃん。

「安心しろ、小毬君」

「こんなこともあろうかと、毛を用意しておいた」

くるがやがカバンを持ってきた。

「ゆいちゃん、すごーいっ」

「さすが来ヶ谷さんなのですーっ」

来ヶ谷が、カバンをあさる。

「うむ、これだ」



――もじゃーっ!



「うわっ、もじゃもじゃ出てきたっ」

「どれ……」



――すちゃっ



くるがやが理樹にもじゃもじゃを装着した。

「どうだ?」

もじゃもじゃ理樹がどーんって座ってるっ!

「うわ、こわっ、こいつ、こわっ!」

「わ、わふー……」

「な、なんか違う気がするよ……」

クドと小毬ちゃんの目が点だ。

「……レゲェな感じの直枝さんですね」

「あ、いやー、これはこれで理樹ちゃんに見えないこともないですヨ」

「ああ、毛が生えているという点だけでは理樹に似ているな…」

きょーすけは冷や汗をかいている。

「真人…どうだ?」

「やべぇ…大泉洋が座ってるようにしか見えねぇ…」

「あ、そうだっ」

小毬ちゃんがポンって手を打った。

「耳、じゃないかな」

「「「「耳?」」」」」

「うん、目も口もあるのに、耳がないから変なカンジがするんだよー」

「わふーっ、言われてみればそうなのですっ」

「さすが小毬ちゃんだな。小毬ちゃんは細かいことに気がつくな」

「えへへへ、ありがとー」

小毬ちゃんがいいアイディアを出したのに、他のみんなは「………………」だ。

「だったらね、色的に……うまい棒のコンポタ味かな」



――ずぼっ! ずぼっ!



小毬ちゃんがもじゃもじゃにコンポタ味を突き刺した。

「そこはかとなくリキに見えてきたのですーっ」

「耳がついただけでよくなったぞ、小毬ちゃん」

「うんー」

小毬ちゃんは満足気だ。

なんでか知らないけど、他の人の目は真ん丸だった。

「……わたしも一ついいでしょうか?」

みおが手を挙げた。

「な、なんだ西園?」

「……はい、直枝さんの腕が付いていませんけど、わたしがセッティングしても良いでしょうか?」

「あ、ああ」

みおがうれしそうに自分の席に戻って、日傘を取ってきた。



――ごそごそ――



理樹の腕からニョッキリ傘が生えた。

クルクルしてて尖ってて、なんか強そうだ。

「……出来ました」

「…………」

「……ドリルは乙女のロマンですよ?」

「かっこいい~」

「かーっくいいー、のですーっ!」

みおは「ドリルでルンルンクルルンルン……」とか口ずさんでいる。

「だ、だいぶ…理樹っぽく…なってきたような気がするな」

気のせいかもしれないが、きょーすけの顔が引きつっている。

「ちょっと待て」

「どうした、来ヶ谷」

「…私には、それが林家にしか見えないのだが」

もじゃもじゃ理樹を指差してそんなことを言う。

「それでしたら、私にいいアイディアがありますっ」

「ちょっと待っていてくださいっ」

クドが自分の席に戻って……自分の帽子を持ってきた。

「これをですね…」



――もっさ、もっさ、もしゃっ!!



「被ってもらうのですーっ」

「ふえぇ…かわいいー」

「うん、かわいいところが理樹っぽいぞ」

「……まあ、林家っぽくはなくなったな」

みんな、クドのアイディアが気に入ったみたいで「………………」だっ!

「ま、真人……そっちから見たらどうだ?」

きょーすけが真人に声をかける。

「それなんだけどよ……」

「オレは大変なことに今気づいた!」

真人がそーいうときは大したことがない。

「目をつぶって心眼でそれを見てみろ……あたかも理樹が笑顔でオレたちを見つめているかのように思えてくるぜ!」

「「「「「………………………………」」」」」

「ほわっ!? ホントだっ」

「目をつぶると理樹ちゃんが近くにいるような気がするよ」

「本当なのですーっ! リキの机の近くにいるだけで心が温かいのですーっ」

あたしも目をつぶってみた。

…………。

なんか、理樹があたしに笑いかけてくるような気がしてきた!

「ホ、ホントだっ! 理樹が近くにいるみたいだっ」



――キーンコーンカーンコーン……



「あ、チャイムが鳴っちゃったね」

「チャイムが鳴り終わる前にリキが完成してよかったのですーっ」

「これで理樹も一安心だな」

「ふむ、これはこれで面白い」

「……わたしも満足です」

「あ、やばーっ!! 早く教室に戻らなきゃっ」

「おっと、俺も教室に戻るか」

「ちぇっ、オレもダンベルとか持たせたかったのによ」

「むう…何もする前にチャイムがなってしまった……」



よかったよかった、きっと理樹も喜んでくれるな。